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「少し落ち着いた?」
「、、、ん。」
ポツポツと言葉が出ていき。
心なしか軽くなった。
初めて、何も考えず発言したかも知れない。
セルナーシャが頭を撫でる。
「子供扱い、すんな。」
セルナーシャがやけに機嫌が良い。
「あら〜?今まで私の胸で泣いてた子供が何か言ってるわ〜。」
「、、、うるさい。」
「ロロ、、。大丈夫?」
ソファーの端からロッカクとロッケイが覗いていた。その姿を見たら、また、心が重くなった。その姿が、あまりにも、子供だった。
「二人とも、シクロロは見た目からは分からないほど疲れてるの、だから今日は静かに寝なさいね?」
「「うん。」」
「ロロ、一緒に寝よ?」
ロッカクが、後ろからかぶさってきた。セルナーシャとロッケイにサンドイッチされていて、正直きつい。
「うん。」
ロッケイが手を差し伸べた。
「もう寝ましょうか。」
その手を掴みたくなかった。その手を掴めば、俺はもう二人を駒として使えない。気がした。
二人を人間として、子供として見てしまう。
手を掴むのを躊躇っていると、察したのかロッカクとロッケイが俺の手をとる。
「ロロ。」
視界の端、白い服が揺れる。
仄かな存在。
ーー『シクロロ。』ーー
ーーーーーーーーー『約束だよ。』
一気に、全身の毛が逆立つ。
『シクロロ。』
ぬるま湯。
まるでこの世界に疑いも、憎しみも、無くなってしまったかのように。
ただ、虚しさと、優しさで作られた世界。
むず痒い。
駄目だ。
こんなとこにいれば、俺は自分を、目的を見失うかも知れない。
「、、、。」
「ロロ?どうしました?」
ここに居たら、、。
俺は約束を守れない。
こんな、こんなにも・・・。
「ロロ?」
「・・・帰る。」
「え!?何言ってるの!」
セルナーシャが立ち上がり引き止めるが、その手を振り解いく。
「なんで?」
ロッカクの純粋な質問に、少し戸惑った。
「ルツが一人になってしまうから。」
だぼだぼなロッケイの服から自分の服に着替えていたが、誰も何も言わなかった。
てっきりギャーギャー止められるかと思っていたが、静かだ。
「そんなに大事なの?」
沈黙を破ったのはロッカクだった。
「そんなにその人が大事!!??自分の身を削ってまでっ!何よ、それ!そんなの、ロロが可哀想だよ!!」
「は?」
可哀想?
誰が?
何をそんな知った口を、、、
「だってそうだよ!ロロは、ロロは疲れてるんでしょ!?なのに、、戻るなんて!ロロだって守られるべきよ!だって、だってロロ、最近とっても辛そうだもん!!も、戻ったらだめ!!絶対帰らせないもん!!!」
ロッカクが抱きついて話そうとしなかった。
まさか、こんなところで反抗するとは、
良かった。
これでこいつらを駒として使う決心がついた。
「ロロ!待って!!」
離れようとしないロッカクの鳩尾に蹴りを入れた。
「うぐっ!」
いつもより強くしたから、少しの間動けないだろう。そのまま力が抜けていき、床に倒れそうだったので、一応支えた。
「っっ!ロッカ!」
ロッケイが飛んできてロッカクを抱き上げた。
「ロロ、、、俺も、帰って欲しくないです。」
体が、あつくなっていく。
これが
怒りなのか、
哀しみなのか、
分からない。
「だからなんだ。お前達らを拾った時に俺がなんて言ったか覚えてんのか。いいか、お前らは駒だ。俺が目的を果たすための手段だ。駒が俺の行動を制限するな。何を考えてるかは知らないが、邪魔をするな。使えねえ駒は要らない。次に俺の邪魔をしたらお前らは要らない。」
「、、、。」
「返事。」
「、、、、、、はい。」
ロッカクを抱えたままロッケイは部屋に入っていった。
やっと帰れる。
そう思ってドアノブに手をかけた。
「シクロロ。」
セルナーシャだ。
「何だよ、お前も邪魔すんの?」
「しないわ。そこまであんたの事に興味ないのよ。ただ、、。」
「何だよ。」
「自分を信じることは、貴方が思っているより悪いことじゃないと思うわ。」
「、、、。」
家を出ると辺りは暗くなっていた。
急いで帰ろう。
ルツが待ってるかもしれない。
ドアノブに手をかけた時、ルツが怒っているのではと心配になった。
気づかれないようにそっとドアを開ける。
部屋を覗くと、目の前にコップを持ったルツがいた。しっかり目が合ってしまい、気まずい。と思ったが、すぐにそんな思いは消え失せた。
ルツが持っていたコップを落として抱きついてきた。コップの破片が床に散らばって、中のコーヒーが広がっていく。
「ルツ、、、コップ、割れちゃった、、、ルツの、お気に入り入りのコップ、、、」
驚いて上手く話せない。
ルツは何で抱きついてきたんだ?
だって俺はあんなにひどい事をしたのに。ルツを置いていってしまって、しかも何も言わなかった。
「バカ〜!!バカ!バカ!ぐすっ、何で、帰ってこなかったんだよ!うぅっバカァ!」
ルツが泣いていた。
泣かせてしまった。俺が、ルツを、泣かせた。
何で、こんなことに、どうしたらいいんだ。
ルツを、泣かせたら、駄目だ。
約束を守らないと、、いけない、のに、、、。
「ごめんなさい、ルツ。ごめんね、ごめん。」
やだ。ルツ、泣かないで。だめだ。
先生。先生、先生。どうしよう。わかんない。どうしたら、約束守れる?どうしよう。
不安が身体中を包んで暗闇に取り残された。
どうしよう。
どうしたらいい?
どうしたらー
「ロロ、ご飯食べよ?」
ルターが優しく笑った。
ルツ、ルツ。
泣いてない?
もう泣いて、ない。
良かった。それだけで、安心した。
さっきまで暗闇だった場所に小さな蝋燭が灯り、辺りを照らしていく。
「うん。」
もう、ルツを悲しませたらダメだ。
ルツ、もう、俺大丈夫。
さっきのセルナーシャの声が響く。
『自分を信じることは、貴方が思っているより悪いことじゃないと思うわ。』
自分を、信じる。
ああ、そっか、俺は、ずっとー
「、、、ルツ。」
ルツの笑顔が、見たい。
「なあに?」
そうだ。
ずっと、先生との約束を守らためにいた。
でも、
ーーーールツを、守りたいーーーーーー
心臓に光りが灯り、静かに沈んでいく。
「今日一緒にお風呂入ろう?
、、、昔みたいに。」
先生と暮らしていた時は三人でお風呂に入っていた。お風呂場が小さかったから三人でぎゅうぎゅうになってはいってた。
なんだか懐かしくて、哀しくて、身体の内側がじんわりと、じんわりと崩れていく。
押し寄せる波が柔らかく包み込み、やがて見えないほど遠い何処かへひいていく。
俺の左半身はほぼほぼが火傷痕でうめつくされている。
家で火事が“起きた”時にできた傷だ。
先生。
夜、眠る前に先生の様子を見てこようと、寝ているルツを起こさないように隣を歩いた。
扉を開ける前に、聞いたことが無い音が聞こえる。
ーーーーパチッーーーーパチパチッーーー
ドアが熱い。
違ったらごめんなさい!ドアを蹴り開ける。
大きな音を立ててドアが倒れる。
赤い、炎。
「、、、火事、、!!」
今の音で目を覚ましたルツが叫ぶ。
「!?なっなに!!??わわわっ燃えてる!」
とりあえず、
「外に、出よう!ルツ!」
ルツの顔には畏怖の波が押し寄せている。
そりゃそうだ。僕だって、怖い。火事、なんて、どうしたらいいのか、分からない。
「ルツ!外!早く!!」
恐怖で足が上手く動かない。ルツもおんなじなんだろう、体が震えている。
僕が、動かなきゃ!
「ルツ!!」
駆け寄ってルツを抱える。
意外にも、軽々しく持ち上げられた。
とりあえず、ここは2階、先生の部屋は2階の一番奥の書斎。
まずは、
降りよう。
廊下に出ると火の手はもう家の半分までに来ていた。どうにか一階への階段を下りる。
ルツの震えが伝わってきて、そのまま自分のものになる。
「大丈夫!!」
自分に言い聞かせる。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫!
僕なら、大丈夫。いける。
やっとのことで外にルツを出した。
ルツを出した時、辺りに先生がいない事に気がついた。まだ、家にいるの?
それならーーーー。
戻らないと。
僕は、家に戻ろうと振り返り一歩踏み出した。
「ロロ、まって!」
ルツが、震えた声で叫ぶ。
「大丈夫!すぐ戻ってくるよ!」
大丈夫、大丈夫。
火が嘲笑うかのように揺れる。
「先生ーー!!!」
煙が苦しい。
出来るだけ先に進む。
書斎の扉がやっと見えた。
「せん、せ、、!」
熱い。
ドアノブは触れない。
ドアを思いっきり蹴っ飛ばす。
音を立てて崩れていく。
「先生!!」
ここにいて欲しく無い。
いないで欲しい。
出来れば、外にいて。
「やあ、シクロロ。」
燃える壁、天井、床がゆれる。
書斎の真ん中で白い服がはためく。
妙に落ち着いた声で、先生がこちらを見た。
「せん、せ?は、早く!そ、とに!!」
「なぜ?」
なぜ?
だって、
「も、燃えちゃう、から、、?」
先生はこちらに一歩も来てくれない。
「先生!はや、、く、、。」
穏やかな笑顔の足元には赤い何かが広がっている。炎の赤さではない。
ーーーーー血だ。ーーーーーーー
「せん、せ、え、、、。」
いやだ。
だめだ。
いや
見ては、
だめ
「シクロロ。」
「せんせ、、あ、足が、、、。」
どこだ、たぶん、書斎のはしら、が、
フトモモヲ
カンツウシ、
固定スルカノヨウニ、
ユカニ、
ササッテイル
「やだ、せんせえ!まって!だめ!!は、はしら!はしら、ぬ、ぬかない、と、、ど、どうしたら、、ゆか、からまず、、いや、まって、ぬ、く、いや、だめ、、出血多量で、、ち、と、とめないと、!」
「シクロロ」
「いや、まず、火が、、い、いそがないと、」
「シクロロ。」
「やだ!だめ!、火、が、、まって、ど、、」
「シクロロ!」
息を吸う
「せん、せ、、」
火が、すぐそこにあるとは思えないほど、優しく、冷静な、眼差し。
「、、、シクロロ、」
先生の瞳に霧がかかる。
「一緒に、きてくれ。」
きてくれ、それは、
意味は、わかってる。
いやだ、
「分かった」
いやだ
「、、、シクロロ、、なぜ、、私のためにそこまでしてくれるんだい?私は、君に、そこまでの事をしたのか?」
「うん。先生は、僕の全部だよ。世界が、先生をころすなら、世界中の全員ころして、僕もしぬよ。だから、、僕を逝くよ。」
先生が助からないことが、
いやだ。
ならば、いっそ、僕が代わりに、、、。
「ルツは、どうするんだい?」
しってる
ここで、僕が、ここでいってしまえば、
ルツは一人だ。
わかってる、でも、
でも、
でも、
「先生がいないなら、やだ、、、。」
先生の目に炎が揺れた。