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第2章 第11話
「戦慄奔走」
「み、みんなっ、大丈夫!?」
爆風の余韻がまだ耳に残っている。 ジャックの声が割れて、瓦礫の中から現実が戻ってきた。
アクラは腕を押さえながら立ち上がる。受け身は取れた。だが骨まで響く痛みが抜けない。 ツヴァイは砂と血にまみれた顔で、びくびくしながら起き上がった。無傷――瓦礫が偶然、盾になっただけだ。
――だが。
「戦う準備だ……ッ!!」
バロロの声が、異様に落ち着いていた。 アクラが振り返って、息が止まる。
「おい……バロロ……お前、その腕……」
左腕が、ない。 焼け焦げた断面は黒く、血は不自然なくらい少ない。痛みの情報だけが遅れて襲ってくる。
それでもバロロは、前を睨んだまま拳を握る。
「オレのことはどうだっていいッ! それより、ジャメラポムは……!」
視線が向かう先。 そこには“彼女だったもの”が転がっていた。
黒焦げの肉。吐き気を呼ぶ悪臭。 ――もう、助からない。誰が見ても。
「も、もう……息がないです……」
ツヴァイの声が震える。 嘆く暇はない。いや、嘆く余裕ごと奪われた。
「何かが……こっちに走ってきてる!!」
ジャックが叫ぶ。 次の瞬間、村道の向こう側から“それ”が飛び出した。
速い。獣より速い。 地面を蹴るたび、空気が裂ける。
そして近づいた瞬間、アクラの本能が先に理解する。
(……人間じゃない)
背中に、嫌な汗が噴き出す。
「……魔族だ!!!」
異形は、輪郭の時点でおかしかった。 人の形をベースにしているのに、どこも“人間の温度”がない。
上半身はほぼ裸。筋肉は硬く、皮膚は魔族と爬虫類の中間みたいな質感。 腰から伸びる太く長い尾は黒く、先端だけが紅い。尾が揺れるだけで、空気が重くなる。 背中には、魔族特有の細長いトゲが二本。 頭部は目から上を覆う“兜”みたいな装甲――そのせいで目が一切見えない。そこから二本の長い角が突き出ている。 口だけが見えていて、歯はギザギザ。笑うと無邪気にも、底なしの悪意にも見える。
その魔族は、距離を詰めながら――
いきなり、跳んだ。
半壊した馬車の真上へ。 十メートルはある。人間の跳躍じゃない。
「かわせーーッッ!!」
バロロの怒鳴り声。 アクラも、ジャックも、ツヴァイも、反射で馬車の中心から飛び退く。
「――爆ぜろ」
冷たい声。 魔族の手から、青黒い粒子が複数、ばら撒かれた。
次の瞬間。
ドンッ、ドンッ、ドンッ――!!
小規模な爆発が連鎖して弾けた。 耳が潰れるほどの爆音。地面が跳ねる。空気が焼ける。
(近距離なら、即死だった)
四人とも、ギリギリで避け切った。 息が苦しい。喉が熱い。
魔族の口元が――笑っていた。
「てめぇ……何笑ってやがる」
アクラの声がかすれる。逃げたい。今すぐ逃げたい。 でも逃げたら、仇も、ここにいる全員も終わる。
(……結局、逃げても殺される)
魔族から感じるのは、殺意だけじゃない。 弱者をいたぶって壊すのを“遊び”にしてる圧倒的狂気が、皮膚の上を撫でてくる。
「うおおおおおぁぁっ!!!」
アクラは震える足を叩きつけて、剣を構えた。 恐怖で動けなくなる前に、怒りで動く。
――突っ込む。 だが、間合いに入れない。
長い尾が、蛇みたいにうねって“近づくな”を押し付けてくる。 ニヤニヤ笑いながら、いつ爆ぜるか分からない手をぶら下げている。
(近距離で爆ぜられたら終わる)
「アクラくん、避けて!」
ジャックが矢を放つ。 正確。速い。迷いがない。
――なのに。
魔族は、手で受けた。
矢が掌に刺さる音。 それでも顔色ひとつ変えない。
「あわわわわわ……」
ツヴァイの声が情けなく漏れる。 魔族の“意識”がジャックへ向く。目は見えないのに、向いたのが分かる。
「待てよ……!」
バロロが荒い息のまま叫ぶ。
「てめェ……一体、何が目的だ!」
目的。 それが分かれば、まだ道があるかもしれない――
魔族は短く答えた。
「双呪」
一語だけ。 なのに空気が重くなる。
(……双呪?)
次の瞬間。
「双呪のヤロウはどこだァァァァ!!!」
地面が揺れるほどの声。 爆派生って、なんでこうも声がデカいのか――そんなこと考えてる場合じゃない。
四人は、完全に恐怖した。 こいつ、思考の筋道が読めない。次の行動が予測できない。
ツヴァイはその一言で、去年の悪夢を引きずり出されたみたいに過呼吸を起こす。喉がひゅうひゅう鳴る。
「……双呪って、たしか、ゼグレくんが……」
ジャックが、ほとんど息だけで呟く。 近い。聞かれたら終わる距離。
(言うな)
アクラの胸の奥の“糸”が、嫌な張り方をする。
この場ではアクラ以外誰も知らない。 アクラが呪われていること。 ゼグレの双呪の相手が――アクラだなんて。
(ゼグレが死んだら……おれも死ぬ)
でも、黙ってたら全員死ぬ。 言えば、ゼグレが狙われる。 どうする。どうすれば――
その答えを、最悪の形で出したのは。
「ゼ、ゼグレですっ!!」
涙と汗と涎でぐちゃぐちゃの顔。 叫んだのはツヴァイだった。
「双呪は霧雪ゼグレですぅ!!」
「お、お前、何言って――!」
アクラの声は届かない。
「霧雪ゼグレ! あの人、ここ最近、双呪にかかった人です! いまごろ国境沿いの国道を馬車で……! はひっ、はぁはぁ……! だから自分たちよりそっち行った方が……!!」
白刃ツヴァイ。 心底、どうしようもない。
「てめぇぇ!! 仲間を売ってんじゃねぇ!!」
アクラはツヴァイの胸ぐらを掴む。 怒りが先に出た。止まらない。
「ひぃぃ! だってだって、それしかないじゃないですかぁ! 新入り一人と自分たち4人! 優先順位は分かってるでしょぉ!」
「うるせぇ!」
(……なにやってんだ、おれ)
ゼグレだぞ。嫌いなはずだろ。 なのに、身体が勝手に守る方向に動いてる。
「仮に生きてたとしても、あんなの馴染めませんよぉ!!」
「あいつのこと、分かった口振すんじゃねぇよ!」
「なに言ってんですか、あんた! おかしくなったんじゃないですか!?」
「黙れよ! お前みたいな無責任なやつが――いっちばん気に食わねぇんだよ!」
無責任。 その言葉が、自分にも刺さって抜けない。
「二人とも避けてーー!!!」
ジャックの声で、アクラの視界が戻る。 ――戦場だ。
二人は間一髪で跳ね退いた。 だが、もう遅い。
「フフフフ……」
魔族が、低く笑う。
次の瞬間。
「ガハハハハハハハァ!!!」
腹の底から響く、狂気の笑い。 恐怖が骨に入る。
「わかった。よーくわかった。あのヤローの場所はなぁ」
ぞわり、と背筋が冷える。 でも、次の言葉で分かる。
会話は、意味をなさない。
「……だが、テメーらは――皆殺しだァァァ!!!」
宣告みたいな声。 次の爆発が来る気配がして、四人の身体が固まる。
逃げられない。 逃がしてくれない。
――この場にいる全員が、それを理解した。
いと
#和風ファンタジー
るるくらげ