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文化祭の夜。校舎の喧騒が遠のいた中庭は、静寂とロマンチックな空気で満たされていた。悠真は、自作の簡易望遠鏡と、星の配置を示した精密な星図を広げていた。咲良は、彼の隣で、夜空を見上げていた。
「すごいね、悠真くん。こんなにたくさんの星が見えるなんて」
「はい。ここからだと、光害の影響も少ないので、普段見えないような暗い星も観測できます。まるで、僕たちの関係の**『無限の可能性』**を見ているようです」
悠真は、望遠鏡の焦点を合わせながら、ドキドキしていた。涼の言っていた「キス確率」という言葉が、頭の中で無限ループしている。しかし、彼はその言葉を口に出す勇気はなかった。
「あ!見て、悠真くん!」
咲良が、夜空の一点を指さした。
「流れ星だ!」
細く、しかし確かに光の筋が、夜空を横切っていった。
「これは……まさか、こんなに都合よく確率的イベントが起こるとは……」悠真は、呆然と呟いた。
「お願いごと、した?」咲良が、彼の方を向いた。その瞳は、流れ星の残光のように輝いていた。
「え? あ、はい……」悠真は、思わず心の奥底に秘めていた願いを、口に出しかけた。 「『咲良と、ずっと一緒にいられますように』って……」
その時、突然、空に黒い影が広がり始めた。
「あ……」咲良が、残念そうな声を上げた。「雲が出てきちゃった……」
夜空は、あっという間に厚い雲に覆われ、満点の星空は、まるで未知の変数のように隠れてしまった。
「くっ……! まさか、**『環境変数』**が、こんなにも急激に変化するとは……! キス確率が……」悠真は、思わず口を滑らせた。
咲良は、そんな悠真の言葉を聞いて、クスッと笑った。
「ねえ、悠真くん」
「は、はい……」
「**『確率』**って、統計的には予測できるけど、一つ一つの事象は、不確実なものだよね。どんなに確率が低くても、起こる時は起こるし、どんなに確率が高くても、起こらない時は起こらない」
咲良は、ゆっくりと悠真に近づいた。その距離は、先日のメリーゴーランドの時よりも、はるかに短かった。
「キスも、同じだよ」
彼女は、そっと悠真の頬に手を添えた。その手の温かさが、彼の心臓をさらに早く打たせた。
「確率がどうとか、環境変数がどうとか、そんなことは、この際関係ない」
咲良の顔が、彼の目の前にあった。息がかかるほどの距離。彼の瞳に映る彼女の瞳は、吸い込まれるような深さだった。
「私が、君に、キスをしたい。これが、**『初期条件』であり、『唯一解』**だよ」
悠真は、何も言えなかった。彼の脳内は、あらゆる数式が停止し、ただ「咲良」という文字だけが大きく表示されていた。
そして、その瞬間。
咲良の柔らかい唇が、悠真の唇に触れた。
`
それは、甘く、温かく、そして、宇宙の真理を発見した時のような、衝撃的なキスだった。
悠真の頭の中で、全ての**『初恋の微分方程式』が、ついに『無限に収束』し、完全な『解』**を見つけ出したことを証明した。
夜空の雲は相変わらず厚く、星は見えない。だが、悠真の心の中には、満点の星空が、そして、これまで見たことのない、最も美しい**『愛の宇宙』**が広がっていた。
「咲良……」
二人は、夜風の中、互いを抱きしめ合った。もう、言葉は必要なかった。彼らの唇が語るものが、全ての答えだった。
彼らの物語は、今、新たな定義域へと足を踏み入れたばかりだ。
完