テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──ナーラの街角。 そこには、運命と食欲が交差しようとしていた。
聖女ツバキは、不意に足を止めた。
風が髪を揺らし、街の空気に、
どこか懐かしい……そして「残念な」気配が混ざる。
「……ククク。何だ、この波動は……」
ツバキは震える手で包帯(眼帯)を押さえ、低く唸った。
心臓が、かすかに跳ねる。
予感がした。
きっと良いことが起きる予感と、泣きたくなるような懐かしさが。
その視線の先に──奇妙な背中があった。
エプロン姿の黒髪ボブカット。
左手には「三角形の鋭利な刃(黒いハンガー)」。
右手には「漆黒の鈍器(テレビのリモコン)」。
足元には「うさぎの刺繍入りスリッパ」。
そしてポケットの石に向かって、
「ねえウィルソン、お客さん来ないね」と話しかける女。
──カエデだった。
間違いなく、私の幼馴染のド天然だ。
「……あ」
最初に気づいたのは、カエデの方だった。
ツバキの、無駄にキマったポーズを見て、首をかしげる。
「……その包帯……その中二病っぽい立ち方……もしかして、ツバキ?」
直球だった。
ツバキの聖女の仮面 (ATフィールド)が、音を立ててヒビ割れる。
「……え………?」
ツバキの目が、見開かれる。
ローザの手前、聖女として振る舞わねばならない。
だが、口が勝手に動く。
「……カ……エデ……? なんで……ハンガー、す、スリッパ……?」
「……うそ、ツバキだ……! なんで……包帯……?」
たったそれだけのやりとりが、ふたりの世界を揺らした。
「カエデ……ッ」
ツバキが声を絞り出す。
もう、威厳も設定もどうでもよかった。
二人はゆっくりと、引き寄せられるように近づいていく。
一歩、また一歩。
信じられないものを見るように。
まるで、ツッコミを入れるタイミングを計るかのように。
「……どうして……どうしてここに……ツバキも……来てたの……?」
涙声でカエデが問いかける。
その手には、まだリモコンが握られている。
「カエデ……私……ッ!」
ツバキの目から、涙が溢れた。
聖女の重圧。
中二病演技の疲労。
焼きそばパンへの執着。
すべてが限界だった。
「……う、ううっ……カエデぇぇぇ……!」
ツバキはなりふり構わず走り出し、カエデに抱きついた。
「わぁっ!?」
ガシィッ!!
勢いよく抱きつく。
ハンガーがツバキの背中に刺さるが、気にならない。
「怖かったよぉぉ! 毎日わけわかんないこと言わされて……!
『プリンは飲み物』って言ったら聖典に載るし……!
お尻痛いし……ご飯まずいし……!」
ツバキが子供のように泣きじゃくった。
「よしよし……大変だったねぇ……
私も毎日、草を食べてたよぉ……」
カエデも泣きながら、リモコンを持った手でツバキの背中をポンポンする。
「……ずっと、ずっと……会いたかった……一人で、怖くて……」
「わたしも……毎日、名前呼びたかった……でも、呼んだら、もう戻れない気がして……」
「うん……うん……!」
二人は、震えながら抱き合った。
草の香りと、涙の味と、温かな体温。
「……サクラにも会いたかったね……」
「……うん……」
沈黙。
そして──。
「でも、今……やっと……」
「うん……やっと……」
世界が崩れていくんじゃなくて──ようやく、世界が”繋がった”気がした。
ひとりは「聖女(偽)」、ひとりは「勇者(天然)」。
変な格好の二人が、街の真ん中でワンワン泣いている。
「……ツバキぃ! ツバキ! ツバキーッ! やっぱりツバキだぁ…!!!」
カエデが泣き叫んだ。
──ツバキの中で、何かが決壊した。
安堵。喜び。
そして、極限まで高まった感情。
(……嬉しい。私の名前を……呼んでくれる人がいる……!)
それだけのことが、こんなにも胸を熱くするなんて──
──体内の聖女スペックが、感情の暴走を「神聖力 (ディバイン・パワー)の飽和」と判断。
全排出口(ポート)を開放する。
「……カエデ!!カエデ……カエデぇっ……!!」
ツバキも、涙を溢れさせながら叫ぶ。
そして──。
カッッッ!!!
ツバキの両目が、強烈な閃光を放った。
「え?」
カエデが目を見開く。
シュンッ……!
空間が収縮する。
感動の再会が、物理的なエネルギーに変換される。
「ちょ、ツバキ!? 目が光って──」
……ッんビーーーーーーーーーーーッ♡♡
ズドォォォォォォォン!!!
ツバキの両目から、極太のピンク色の閃光 (ディバイン・ホーリービーム)が発射された。
それは──水平に飛び、パン屋の向かいの八百屋の看板を黒焦げにした。
八百屋の店主が泣きながら【本日の特売:炭】という広告を出した。
「……へへ、よく焼けてらぁ……」
八百屋店主の目は死んでいた。
「あら?良い炭ね?」
ローザが炭を購入。
「前が見えねえぇええええええええ!」
ツバキが叫ぶ。視界ゼロだ。
「ツバキ!? 目からビーム出てるよ!? 泣きながら攻撃しないで!?」
カエデがハンガーで顔をガードしながら叫ぶ。
だが、暴走は止まらない。
感情の昂ぶりは、さらなる「出口」を求めていた。
ピカァァァァァ──!!
ツバキの頭頂部──つむじが輝いた。
「えっ、頭も!?」
ドヒュゥゥゥゥゥゥンッ!!!
つむじビーム、発射。
目からは前方(水平)へ、頭からは真上(垂直)へ。
二つの光線が交差し、ナーラの街の中心に、
巨大な”光の十字架 (クロス)”を描き出した。
「あちちちち!? ツバキ!? 上が! 上が燃えてる!?」
「止まんないぃぃぃ! 嬉し涙が十字になってるぅぅぅ!!」
カエデとツバキは抱き合ったまま、
光の柱の中でわちゃわちゃとしていた。
その神々しくも迷惑な光景を見て、ローザが打ち震える。
「おお……! 見よ!聖女様とパン屋の娘の魂が共鳴し、
聖なる十字を描かれたぞーーッ!!
これぞ『再会の聖十字(リユニオン・クロス)』!!」
通りがかりの村人たちも、思わずひれ伏した。
「あ、ありがたや……」
「後光が差している……いや、後光そのものだ……」
「(奴隷商人の家が燃えてるけど、神の裁きか……?)」
カリカリカリッ!
ローザのペンが走る。
『聖典追記:再会を果たせし時、人は自ら十字架となる。
その光は、遍く者を祝福する』
(※なお、八百屋は泣いた)
──その光景は、後に『再会の奇跡』として語り継がれる。
ちなみに、八百屋の看板は焼け、屋台は三軒倒れ、
奴隷商人の家が全焼し、奴隷が自由になった。
だが、誰も文句を言わなかった。
聖女の涙は、それほどまでに神々しかった。
(あと、怖かっただけ)
その頃、ローザは解放された奴隷を信者にしていた。
「皆さん!これぞ聖女様の奇跡です!
さあ、カメリア教団に入信を!」
カリカリカリッ!
『聖典追記:奇跡はいつも、帳尻が合う』
(合わない。)
──かくして、二人の感動の再会は、街一つを神聖な光 (と物理的な破壊)で包み込みながら、確かに果たされたのだった。
*
「……ねえツバキ、これいつ止まるの?」
「……わかんなぃいいいいい!!!」
「えぇー……まぁいいか。面白いし」
「あんた変わってねぇええええええ!!!」
光の中で、二人のとぼけた会話だけが響いていた。
*
「あれ?なんかお尻が熱い……
まさか……『座の無き啓示(ただの尻餅)』の伏線が……ここで!?」
ツバキが慌ててお尻を押さえる。
スカートの中で、何かが発光しようとしていた。
それを目撃したローザが、血相を変えて叫んだ。
「聖女様ッ!!いけません!女子なんですよ!?」
ローザは猛ダッシュで光の中へ飛び込み、ツバキの背後に回り込んだ。
「それ以上は“封印指定”です!!」
ペシッ!! ペシッ!! ペシッ!!
ローザの手のひらが、ツバキのお尻をリズミカルに連打した。
物理的な衝撃で、発光を散らそうとしているのだ。
「お尻ペンペン!? 私、成人してるのに!?
衆人環視でお尻叩かれてるぅぅ!?
でも、はじめてローザに感謝したぁあああ!?」
光の十字架の中心で、聖女が必死にお尻を抑える。
感動の再会は、尊厳を守るための戦いへとシフトした。
『聖典追記:聖女の尻は、時に本人を焼く。故に侍女は叩く。』
カエデはその光景を見て、ウィルソン(石)に話しかけた。
「……ねえウィルソン?
ツバキ、こっちの世界でも苦労してるみたいだね……」
こうして──
世界は少しだけ、騒がしく、そしてお尻に厳しくなった。
(つづく)
◇◇◇
──【本日のカメリア聖典追加節】──
『第一節:再会を果たせし時、人は自ら十字架となる。その光は、遍く者を祝福する』
『第二節:奇跡はいつも、帳尻が合う』
『第三節:聖女の尻は、時に本人を焼く。故に侍女は叩く』
解説:
街は壊れ、信者は増え、聖女の尻は腫れた。
帳尻が合ったかどうかは、腫れが引いてから考える。