テラーノベル
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「あ…………ベンチの上で人が倒れてるよぉ?」
モノレールの線路下を歩きながら、浦野 美花は、ベンチに指差しすると声を上げる。
仕事の後に、小中学校時代の親友であり、職場の同僚である本橋 奈美と、彼女の夫、本橋 豪と居酒屋で飲み、立川駅に向かっているところだった。
「ちょっと私、様子を見てくるっ」
「美花! いきなり行って絡まれたら危ないよ!?」
「美花ちゃん、年の瀬は何かと物騒だし、行かねぇ方がいいと思うぞ?」
美花が、ベンチへ向かおうとするのを、親友夫妻は困惑気味な表情で引き留める。
「でもぉ…………こんな寒い日の夜に寝てたら……」
ベンチの方を、心配そうに注視している彼女。
「…………やっぱり見てくる。お二方は、先に帰ってて下さいっ。お疲れ様でしたぁっ」
親友夫妻にペコリと頭を下げると、美花は、人が倒れていると思われるベンチへ、小走りで向かっていった。
ベンチの上で仰向けになっている人は、美花の予想に反して、顔立ちが整っているイケメン。
「うわぁ…………カッコいい。寝顔が綺麗だし……こんなイケメンも、酔っ払って寝ちゃうんだぁ……」
しばらくの間、美花は、その寝顔に見惚れてしまうけど、顔を背けて、んんっと小さく咳払いをする。
(全然起きる気配がないけど……まさか…………凍死してない……よねぇ?)
彼女は、フゥーッと深く息を吐き出すと、寝ている男の腕を、そっと揺さぶった。
「…………おにーさん? おにーさん? おにーさん、だいじょぶ?」
美花の声掛けに気付いたのか、男はゆっくりと目を覚ましていくと、彼女は男から、汚いものを見ているような眼差しを向けられた。
「……っ…………うぅ……」
ぎこちなく身体を起こした男は、頭が痛いのか、顔を険しくさせながら額を押さえた。
「無事で良かったぁ! こんな寒空の下で寝てたら、下手すると死んじゃうよ?」
「…………フンッ……」
美花は、安心して表情を緩めると、男に舐めるような視線を這わせられている。
「…………馴れ馴れしく声を掛けるな。鬱陶しい」
男は、怒りを滲ませた声音で言い放つと、足元をフラつかせながら、美花の横を過ぎ去っていく。
「おにーさん…………大丈夫かなぁ……? ちゃんと家に帰れたらいいんだけど……」
彼女は、男に冷たく吐き捨てられているのにもかかわらず、遠くなっていく広い背中を見やりながら、ポツリと独りごちた。
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