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二〇二五年がスタートし、新年の各社の挨拶回りも終わると、通常通りに戻りつつある社内。
圭が勤務するハヤマ ミュージカルインストゥルメンツは、ファーレ立川の一角にある十階建の自社ビル。
一階と二階は、吹き抜けになっている開放感のあるロビーと受付、三階から八階が各部署のフロア、九階は社員食堂、十階が役員室のフロアとなっている。
圭が外出先から戻り、十階に向かっていると、副社長室の前で、彼の双子の弟、葉山 怜が腕を組みながら待ち構えているのが見えた。
「…………営業部の課長が、こんな所に何の用だ?」
眉間に皺を刻ませながら、圭は弟の元へ、ゆっくりと歩み寄っていく。
「親父が、お前に社長室に来るように、だってよ。じゃあな。俺はちゃんと伝えたぞ?」
踵を返し、エレベーターに向かう弟の背中を見やった。
ダークグレーのスーツの上に、ハヤマのロゴが入ったナイロン製の黒いブルゾンを羽織っている怜は、これから外回りに向かうのだろう。
現場主義の怜が、役員フロアに来る事なんて、滅多にない。
圭は、嫌な予感を察知すると、凛とした後ろ姿に声を掛けた。
「おい、怜」
フロア全体に緊迫感が漂う中、兄の呼び掛けに怜が振り返り、兄弟は視線をかち合わせた。
「まだ言いたい事があんのか? 俺、これから学校回りに行かなきゃなんねぇんだけど」
「聞きたい事がある」
目力の強い圭の眼差しが、弟の瞳を捉えるが、怜から、さらに鋭い視線を刺し返された。
「お前…………親父に呼び出されたのか?」
返事を聞くまで、外回りには行かせない、と言わんばかりに、圭は怜に目を据える。
「ああ。呼び出された」
「親父に…………何を言われたんだ?」
圭は、焦燥感に覆われつつも平静を装い、弟を睨むと、怜は、しばらく無表情でいた後、唇を卑しく歪ませる。
「…………お前、いつまで課長職を続けるつもりだ? って…………それだけだ」
ほくそ笑むような面持ちの弟に、兄は眉根を寄せながら、強い視線を投げ付ける。
「おっと。そろそろ行かないとマズいな。とりあえず親父の言付け、確かにお前に伝えたからな?」
怜は踵を返して颯爽と歩き出すと、圭は恨めしそうに、弟の背中を凝視していた。