テラーノベル
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長い廊下を、私は夢中で走った。 カーテンがひらひらと舞い、額縁の白紙がふっと揺れる。
まるで館そのものが、私の足音に応えて踊っているみたい。
「どうしてそんなに急ぐの?」
白い髪の少年が笑いながら追いかけてくる。
「急ぎたいから!」
振り返りざまに答えると、スカートがくるりと広がり、空気を切る。
息が弾むたび、私の周りに小さな風が渦を作った。
「落ち着かない子ね」
黒い髪の少女が呆れたように言った。けれど声は楽しそう。
「どうしてそんなに外へ出たいの?」
「閉じ込められるのが嫌いだから!」
言葉は自然に口をついた。
「止まっていたら死んじゃう。風は流れなきゃ風じゃない」
その瞬間、廊下の壁に影のような線が走り、次の瞬間には透き通った気流が流れ出した。
カーテンが大きく膨らみ、額縁の中の白紙にまで淡い青が差す。
私の胸が弾んだ。
「ね、やっぱり風はここにもある!」
少年と少女は同時に立ち止まり、顔を見合わせる。
「……そうだね」
「やっぱり、あなたに似合う部屋がある」
ふたりの笑顔は、可愛らしいけれど――どこか底が見えない。
私はその笑みに導かれるように、さらに奥の扉へと走り出した。
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