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「…………うん。アンタと一緒に……行く」
「あんたの全てを捨てて、沖縄に行く事になるんだぞ? 後悔しないか?」
「…………後悔……しないよ……」
男は、真っ直ぐな視線を、優子にぶつけてくるけど、全てを捨てて、の言葉に、彼女は僅かに狼狽えた。
優子は沖縄に行った事がないし、先行きの見えない未来に、正直なところ、不安しかない。
けれど、拓人の眼差しに負けないように、彼女は見つめ返す。
静寂な寝室に、ピンと張り詰めた空気が流れ、二人は薄暗い中で視線をかち合わせたままの状態。
「…………分かった」
真剣な表情の優子に根負けしたのか、男が面差しを緩ませる。
「あ、それと…………もう一つ……」
拓人が、思い出したようにベッドから起き上がると、リビングに向かい、自身のスマートフォンを手にして戻ってきた。
「どうかしたの?」
「あのさ…………」
男が照れ隠しをしているのか、前髪をワシャワシャと掻きむしっている。
やがて、腹を括ったように、拓人は優子に眼差しを注いだ。
「俺ら…………この一ヶ月近く、色んな場所に行ったけどさ、出先で写真を撮らなかったじゃん?」
「そう言われてみれば……撮ってないねぇ……」
「だからさ…………俺の部屋っていうのもアレなんだけど……」
男が、口にするのを憚っているのか、その先の言葉を伝えようとしない。
唇を引き結んだまま、ずっと黙っている。
「で、アンタは結局、何が言いたいのかなぁ?」
痺れを切らした優子は、ムスッとした声音でせき立てると、男が再び前髪をグシャリと掴む。
「あのさ…………一緒に…………写真撮らない?」
フーッと長くも深いため息を吐き出した拓人が、重たい口を開いた。
「…………へ? 写真!?」
予想すらしなかった男の言葉に、彼女は虚を突かれた。
「恋人同士でもないのに? アンタと写真!?」
「まぁ……そう思うよな。でもさ、あんたは、『ヘタレ勇者と仲間』として、俺と写真を撮ればいいんじゃん?」
そう口にしている拓人の表情が、寂しさを滲ませているように、彼女は感じてしまった。