テラーノベル
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来た道を戻る途中で、優子はカフェを見つけた。
少し休憩したいというのもあり、入店してアイスカフェオレを注文すると、コンセント付きの席に腰を下ろす。
買ったばかりのスマートフォンを充電しながら、彼女は最初にメッセージアプリをダウンロードした。
自身のIDを入力してログインすると、元恋人の本橋豪を始め、昔、合コンで知り合った男たちの連絡先、女性の友人の連絡先が一覧に表示されていく。
新しい携帯番号を登録した後、彼女がアイスカフェオレを口にしながら、スクロールしていくと、その一番下に登録してあったのは、松山廉。
「専務…………登録してあったんだ……」
アプリを開くまで、優子は、すっかり忘れていた。
恐らく、彼と一緒にメディア取材を受けていた時期、何かあった時のために、連絡先を交換したと思う。
トークのページを開くと、二人のやり取りは、交換したその日、ちょっとした挨拶が残っているだけで、以降は白紙のまま。
『松山専務』
彼女は、メッセージ入力画面を開き、廉に向けて指を滑らせるけど、ハッとして動きを止めた。
自分から彼にメッセージを送ってはいけない。
立川のホテルを出ていく三日ほど前、専務と会うのは、これで最後だ、と、言ったじゃないか。
「私…………今さら、何を伝えようとしているのよ……」
微苦笑を浮かべながら、文字をひとつずつ消去していく優子。
(もう、専務と会う事もないんだし……)
彼女は、廉のページを開き、消去ボタンに指先を置こうとした。
けれど、先ほど見た彼の表情や、同伴で一緒に過ごしてきた時の思い出、彼が優子に与えてくれた言葉が脳裏を掠め、彼自体の存在を消してしまうようで、削除ができない。
細い指先が震え、鼓動が次第に大きく脈を打ち鳴らす。
(消さなきゃダメだって……分かっているのに……。弱いな……私……)
優子は、短くため息をついた後、女性の友人と廉の連絡先だけ残し、元彼や他の男の連絡先を消去すると、残りのアイスカフェオレを、一気に飲み干した。
けっこう長い時間、カフェにいたのだろうか、腕時計で時刻を確認すると、十八時十分を指している。
(そろそろ戻らないと……)
優子はカフェを出ると、拓人との待ち合わせの駐車場へ向かった。