テラーノベル
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その日の夕方、わたしはお手紙をぎゅっと胸に抱えて、森へ向かった。だって、星の女王さまに届けるには、きっと森の奥にいる“だれか”の力が必要だと思ったから。
森の中はしんとしていて、木の葉がさわさわ揺れる音だけ。
ときどき鳥の声がしても、すぐに消えてしまう。
でも、不思議とこわくはなかった。
胸の中のお手紙が、わたしを守ってくれている気がした。
小さな泉のほとりに着いたときだった。
水面がふわっと光って、きらきらの粒が舞いあがった。
「……!」
その光はだんだん集まって、
小さな人のかたちになった。
耳が葉っぱのようにとがっていて、
服は花びらみたい。
まるで絵本の中でしか見たことない“精霊”そのもの。
「こんにちは、ミナ」
声は鈴みたいにやさしく響いた。
「どうして、わたしの名前知ってるの?」
「森は全部、聞いているから」
わたしは胸にかかえていた手紙を見せた。
「これ、星の女王さまに届けたいの」
精霊はすこし笑って、
「あなたの字は曲がっているけれど…心はまっすぐだね」
そう言って、手紙をそっと受け取った。
「わたしが夜空まで運んであげるよ」
わたしは思わず手をあわせて、
「ありがとう!」と声をあげた。
そのとき精霊のまわりに、また光の粉がきらきらと舞った。
──星の粉だ。
わたしは目を見開いて、その光を見送った。
女王さまへ続く道は、本当にあるんだ。