テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その夜、わたしは森の泉のそばにいた。昼間に出会った精霊が、「夜になったら見せてあげる」と言ってくれたから。
月の光が水面を照らすと、泉は銀色の鏡みたいになった。
精霊が両手をひらくと、わたしの手紙がふわっと宙に浮かんで、光の粒に包まれた。
「…わぁ…!」
手紙は風船みたいにゆっくり空へのぼっていく。
そのまわりには星の粉がひらひら舞い、夜空に道をつくるみたいだった。
「これで、星の女王さまに届くの?」
わたしが小さな声でたずねると、精霊はうなずいた。
「ええ。きっと女王さまは受け取ってくださる。
心のこもった言葉は、どんな形でも届くから」
わたしは胸の前で両手をぎゅっとあわせた。
──どうか、お兄ちゃんを助けてください。
すると、夜空の星がひとつ、すうっと流れた。
それはまるで、「ちゃんと聞いたよ」と答えてくれたみたい。
「ありがとう…」
声が泉に吸いこまれて、月の光と一緒に揺れた。
その夜、わたしはとても静かな気持ちで眠った。
きっと夢の中でも、星の粉がきらきらしていたと思う。