「どこに行くつもりだ?」
「依頼……」
家に帰り、ライフルバックにハンドガン、護身用にナイフと詰め込んで俺はそれを背負い玄関へ向かった。すると、ちょうど先生が帰ってき、どこに行くのかと俺に尋ねた。いつもは、先生の方が早く帰ってくるため珍しいと思ったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。俺は、先生の言葉を軽く流しつつ靴ひもを締める。先生には、なぜかしつこく聞かれたが、俺は依頼とだけ言って外を出た。いつもなら、あそこまでしつこく聞かないはずなんだがと後からぼんやり思いだしながら、指定された場所まで向かった。
空澄とは連絡がつかないし、あいつの家の番号にかけるも大事になるだろうとやめた。空澄の親には一度もあったことがないため事情を説明するのにも時間がかかるだろうと。なら、俺が言って助けてやるのが得策じゃないかと思った。そう勝手に判断し、俺は目的地へたどり着く。
目的地は、廃医院だった。
「来てくれなかったら、どうしようかと思ったぜ。梓弓クン」
「綴……」
この間街で見かけた白いジャケットに、紫色のマフラー動きやすそうな短パンをはいた綴と数名の黒服の男たちが待ち構えていた。きっとそれが、綴の仕事着なのだろうと察し、俺も俺でいつもの仕事の時に着る服を着てきた。一応の誠意であり、動きやすい服出来て正解だと思う。
綴は、猫かぶりをやめたのか、いつもとは違う口調で目をぎらつかせながら俺を見る。こっちが本物の綴なのだと、俺は見抜いた。
「空澄は何処だ?」
「まーそんな、かっかすんなよ。大丈夫死んでねーし」
と、おかしそうに笑う綴。その態度に思わずこぶしを握ったが、あの黒服の男たちまで相手にすると思うと、こちらが不利なのは変わりない。それに、綴の能力もまだ買っていない状況だ。相手の情報不足で、突っ込むのは自殺行為だ。
「お前たちの目的はなんだ?」
「梓弓クン、質問ばかりだなあ。まあ、大切な友人が攫われたっていうんだから、そうなるのも分からないでもないけどさ、僕はそういうところ嫌いだなあ。やっと見つけた、面白い相手が僕を見てくれないっていうのは、気に食わない」
綴は、俺の方に近づいてき、下から覗き込むように俺を見た。
何を考えているのかわからず、この距離で攻撃されたらまず回避は不可能だと思った。
「お前は、暗殺者なんだな」
「おっ、ピンポーン! そう、暗殺者。ジャックザリッパーって呼ばれている暗殺者。聞いたことない?」
「他の暗殺者には興味がない」
「『先生』に教えてもらってねえのか?」
「……ッ!?」
綴の目がニッと細くなった。
俺は背筋に冷たいものを感じつつも、綴の言葉を頭の中で繰り返す。
(こいつ今『先生』って言ったか?)
俺の思いつく限り、先生とはあの先生しか思い浮かばない。もし、先生がこいつに教えていたとしたら、辻褄はあう。先生は他にも教え子がいるといっていた、その一人が綴ならば……
(落ち着け、だったとしても、先生は関係ない)
そうやって自分を落ち着かせつつ、綴を見る。綴りはにこりと笑うと俺に背を向けて歩き出した。
「いろいろ気になることはあるだろうけど、僕は今日を楽しみにしていたんだぜ?出会った時から、運命感じてたっていっただろ? 同業者のにおい、血の匂い。その大きな手で引き金を引いて、僕を射止めてよ。僕はその目に睨まれてゾクゾクってドーパミン出てるんだからさ!」
狂ったように叫んだ綴りを俺はただ見ていることしかできなかった。ああ、くるっていると思っても、こちらの世界にいるなら可笑しいことでもないと思う。善悪の判断が著しく乏しい奴らが、善悪を知っていても悪ばかりを極める奴らがこの世界では生きているから。
それを分かっているから、綴の狂い具合に何も言わなかった。
「ルールは簡単、この廃医院で僕と二人きりのデスマッチ。それで僕を殺せたら、空澄囮の居場所を教えてあげる」
「お前が勝ったら?」
「そんなの梓弓クンが死ぬだけだし、空澄も死ぬだけ。あっ、後勝ったら僕たちを雇った組織について教えてあげるぜ」
「俺達?」
「そう、俺達。だって、梓弓クンも一回、空澄の暗殺頼まれてるだろ? 依頼人の名が分からない依頼を」
と、綴は全てを見透かしたように言った。
あの三年前の依頼のことを知っているところを見ると、その話は本当らしい。綴りに買って聞きたいことが出来、これは勝負に乗るしかないと思った。否、断れば空澄の命がない。
「やる気になってくれたようで、何より――じゃあ、邪魔者には消えてもらおうかな!」
そういうと綴は、後ろに立っていた黒服の男たちに切りかかった。まさか味方の綴が攻撃してくるとは思わず、一人は首をかき切られ、応戦しようとした一人も一突き、そして拳銃を取り出し攻撃をしようとした男も、その引き金を引くことなく殺されてしまった。その時間はわずか数十秒だった。
(……強い)
八人の自分よりもはるかに背の高い男たちを一人で倒してしまった綴を見て、俺は固唾をのみ込んだ。気を抜けば、すぐに今の男たちのように首と腹を裂かれて死んでしまうだろうと。
「それじゃあ、梓弓クン始めようか。暗殺者二人のデスマッチを」
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