車は50分ほど走ると、目的地に着いた。
都心から少し外れた郊外のようだ。道路標識からすると、調布市か三鷹市あたりだろうか?
壮馬は閑静な住宅街のコインパーキングへ車を停めると、
「着いたよ」
と言って車を降りたので、花純も慌てて降りる。
そして壮馬が当たり前のように手を差し出してきたので、花純は自然にその手を握り歩き始めた。
20メートル程歩くと、真っ白な建物が見えてきた。
店の看板には『シェ・山野』と書かれている。
「フレンチ?」
花純が聞くと、壮馬はそうだよと言って入口へ向かった。
真っ白な扉を開けるとスタッフが二人を出迎える。
「予約していた高城ですが」
「高城様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
品の良い男性スタッフが二人を案内する。
そして奥のフロアへ足を踏み入れた瞬間、花純は思わず声を上げた。
「うわぁ……素敵!」
そこは室内なのに大きな木が何本も植えられており、その隙間にはハーブや花の鉢が置かれていた。
壁からはグリーンネックレスやアイビーなど、垂れ下がる観葉植物がいくつも飾られている。
店の中には緑がいっぱいだ。
高い天井は吹き抜けになっていてガラスで覆われていた。ガラスの向こうには夜空が見える。
店内はなんともいえない解放感に溢れていた。
(ここは室内なのにまるで森の中にいるみたいだわ)
花純は心の中でそう呟く。
席に座ると壮馬が聞いた。
「気に入った?」
「はい、とっても!」
花純は満面の笑みで答える。すると壮馬は満足気に頷いてから言った。
「ここは飲食店のプロデュースをやっている友人が作った店なんだ。君が喜ぶだろうと思って一度連れて来たかったんだよ」
壮馬は微笑みながら言った。
(私の為に? 私が植物好きだから?)
花純は感激していた。
そして心の中がじんわりと温かくなってくる。
「私、育ったのが長野の田舎なので小さい時はいつも森の中で遊んでいたんです。でも上京したらそういう場所がほとんどなくて…で、部屋に観葉植物を置くようになったんです。そうしたらあんなに増えちゃって…」
花純は恥ずかしそうに笑った。
「やっぱり緑がないとホームシックになるのか?」
「そうかもしれないです。コンクリートばかりの東京にいると、やっぱり息が詰まるっていうか……」
その時、レストランのスタッフが飲み物の注文を取りに来た。
「俺はノンアルコールワインだけど、花純は少し飲むといい」
そう言って壮馬はノンアルコールワインと赤ワインを頼む。
「私…あまり飲めませんから…」
「うんわかってるよ。でも帰りは車だから少しならいいだろう?」
壮馬は微笑んで言った。
(飲み過ぎて、また変な失態を見せないようにしないと…)
花純はそう自分に言い聞かせる。
そこへ飲み物が運ばれてきたので二人は乾杯した。
互いにワインを一口飲んだところで、壮馬が話を切り出した。
「ちゃんとしたシチュエーションで交際を申し込んだら、受けてくれるんだったよね?」
突然そんな事を言われたので花純はびっくりする。
「えっと…私そんな事言いましたっけ?」
「おいおい忘れちゃったのか? そうか、君はあの時もワインを飲んでいたんだっけなぁ」
「うーん、でもなんかそんな話をしたような覚えが…」
「ゲストルームでベッドメイクをしている時に話したぞ?」
「あっ、思い出しました。はい、確かに」
花純は互いの母親がマンションに来たあの日、二人で交わした会話の内容をはっきりと思い出した。
そして驚いた。
なぜなら、まさかあの言葉を真に受けて壮馬がその通りに実行するとは思ってもいなかったからだ。
すると壮馬が改めて花純に言った。
「俺は君と真面目に交際したいと思っている。花純、俺と付き合ってくれないか?」
壮馬が真剣な表情で花純を見つめる。
大人の男性の色気を含んだ壮馬の視線は、花純の身体を徐々に熱くする。
そして今朝のように身体の中心部が疼き始めた。
花純はそんな自分の変化に思わず頬を染める。
「えっと……」
「返事は二択。YESかNOだ」
「そ、その前に聞いてもいいですか? なんで私と?」
花純は以前から疑問に思っていた事を聞いた。
副社長であり御曹司でもある年の離れた壮馬が、なぜ自分のような平凡な小娘に交際を申し込むのだろうか?
花純なりに何度も考えてみたが、その答えは一向に見つからない。
その問いに対して壮馬が口を開く。
「君といると安らげるんだ。そして自然体でいられる。君の前では格好つける必要もないしありのままの自分をさらけ出す事が出来るんだ。こんな感覚は初めてだ。だから君とならこれから先ずっと一緒にいられる…そんな気がしたんだ」
壮馬は正直にありのままの気持ちを伝えた。
壮馬の気持ちを聞いた花純はもちろん嬉しかった。しかしそれに対してなんと答えていいのかわからない。
そこで思い切ってもう一つ質問をぶつけてみる事にした。
「えっと…そこに愛はあるんですか?」
花純が言った言葉を聞いて、壮馬は声を出して笑い始めた。
「なんかのCMのキャッチコピーみたいだな」
壮馬はツボにはまったのかしばらく笑い続ける。
そして笑いが収まったところで再び花純の目を見つめて言った。
「もちろんあるよ。俺は君を愛している」
「…………」
花純の心臓の鼓動は、過去最大級と言っていいくらいの激しい音を立てていた。
そして花純なりに一生懸命考える。
(私はどうなの? この人の事を愛しているって言える?)
真剣に人を好きになった事がない花純には、その答えがわからなかった。
だから今の気持ちを正直に壮馬へ伝える事にした。
「あの…私人を好きになるっていう経験がほぼなくて、だから今の時点では副社長の事を愛しているかどうかわからないんです。あ、もちろん嫌いではなく好意は持っていると思うのですが、その『好き』がどのくらいのものなのかがわからなくて……」
それを聞いた壮馬はフッと笑った。
「正直に言ってくれてありがとう。でも今の時点では嫌じゃなくて好意はあるんだよな?」
「あ、はい……」
「それで充分だ。それさえあればあとは任せて。絶対俺を好きにさせてみせるから」
壮馬はそう言うと、ポケットから小箱を取り出した。
そして花純の前に置く。
「?」
「開けてごらん」
花純は言われるがままに小箱のリボンを解いた。そして箱を開ける。中にはグレーのベルベットのケースが入っていた。
花純はそれを出して蓋を開いてみた。
その瞬間、右手を口に当てて驚く。
そこには燦然と輝くダイヤモンドのリングが入っていた。
ダイヤはかなり大きく、その輝きからするとかなりグレードが高そうだ。
花純は手を口に当てたまま壮馬を見る。すると壮馬はうんと頷いてから、
「君に悪い虫がついたら困るからな。だからこの指輪は常にはめていて欲しい」
「でもこれって……」
「婚約指輪だ。俺達は今日から恋人同士だ。そしてこの付き合いの先には結婚がある。ただし結婚に関しては君の気持ちが固まるまで待つつもりだ。これはその間のお守りのようなものだと思って欲しい」
壮馬はそう言って身を乗り出すと、花純の左手を握り薬指に指輪をはめた。
(えっ? ぴったり?)
花純は指輪のサイズがぴったりだったので驚いた。
(この人は魔法使いなの?)
思わず心の中でそう呟く。そして咄嗟に思い浮かんだ『魔法使い』というフレーズが可笑しくて、ついフフッと笑ってしまう。
「ん? 何か可笑しいか?」
「あ、いえ…副社長凄いなと思って。だってサイズもぴったりだし」
「だろう? 俺は魔法使いだからな」
壮馬が偶然そう言ったので、花純はさらにクスクスと笑い出した。
そして笑いながら手のひらを上にあげると、照明にダイヤモンドをかざしてみた。
その瞬間、ダイヤモンドは光を吸収して一層輝きを放つ。
美しいダイヤにすっかり目を奪われていると、壮馬が言った。
「それから、もう『副社長』はやめないか?」
「あっ、ええ確かに…。でもなんて呼べば?」
「壮馬でいい」
「呼び捨て? それはハードルが高いです」
「じゃあ好きに呼んでいいぞ」
そこで花純は考える。
(壮馬さん、壮さん、壮ちゃん……)
一つだけしっくりくるものがあった。
「壮ちゃん!」
それを聞いた途端壮馬は脱力する。なんだか花純ワールドにやられっぱなしだ。
大抵、過去の女達は壮馬の事を呼び捨てにするか『壮馬さん』が主流だった。
しかし花純の特殊な思考回路の中では『壮ちゃん』がいいらしい。
「わかった、それでいいよ」
「わかりました副社長….あ、じゃなくて壮ちゃん!」
花純に改めて『壮ちゃん』と呼ばれた壮馬は、再び身体中の力が抜けてしまいそうだった。
今夜はすっかり花純のペースに飲み込まれている。
壮馬はそんな可愛い花純を今すぐ抱き締めたい衝動にかられる。
「壮ちゃん、ちゃんとお返事して下さい」
「わかった…もう一度」
「壮ちゃん?」
「なんだ? 花純?」
「壮ちゃん!」
「まだやるのか」
「壮ちゃん?」
「はいはい」
「なんだか慣れてきました。やはり反芻行為というのは脳内の認知力を向上させるんですね」
花純がしみじみと言ったので、壮馬は思わずプハッと笑った。
「花純、後で覚えてろよ」
「?」
花純はキョトンとした顔で壮馬を見つめる。
(ちくしょう、なんて可愛いんだ…)
壮馬がデレデレしそうになった時、ちょうど料理が運ばれて来たので二人は一旦話を中断して美味しそうな料理を食べ始めた。
そして二人は素敵なディナータイムを満喫した。
コメント
3件
自然体で居られるのが1番よねー☝️
壮馬さん 改め 壮ちゃん、 交際申し込み&婚約 おめでとう‼️✨💍✨💖ヤッターヽ(´∀`)ノヨカッタネ-🎶 「壮ちゃ~ん😊」「花純~😍」二人の可愛くて微笑ましいやり取り....👩❤️👨 壮ちゃんだけじゃなく読者も思わずニヤけちゃう♥️🤭w 御曹司でクールな凄腕副社長の壮ちゃんを こんなにユルユル デレデレにしちゃうのは 花純ちゃん只一人‼️♥️😁 恋愛が初めて🔰で壮ちゃんを「愛している」かどうかわからない花純ちゃんだけれど、もう本能では 壮ちゃんを求めているし 好きになっているはず....💕 壮ちゃん、あともうひと頑張りよ~♥️🤭ウフフ ファイトォ~❗️オォー‼️💪💏♥️♥️♥️
もぅ、この2人のやり取りが和やかすぎで読んでてニヤニヤ😁ですわ💓 森🌳の中みたいなレストラン🍽️※俊さんプロデュースでしょうか⁉️🤭♡ で、壮馬さんの真剣な交際アピールからの〜「そこに愛はあるんですか?」の花純ンのア◯フルCMの返し+壮ちゃん呼び🤭🤭🤭💕 花純ンと壮ちゃんの温度差はあるけどお互いを好きな気持ちは同じで💞 これから壮ちゃんの無限押しが始まりそう〜♾️🥰💓🩷