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第2話:ヒーローの影
石畳に転がった果物を抱えた子どもを、ヴェルノはそっと地面へ下ろした。
「ケガはない?」灰色の瞳が真剣に見つめる。
だが群衆の視線は冷たく、ざわめきが広がっていく。
「ヴィランの血が……」「あいつが関わるとろくなことがない」
そのとき、風を切るように現れた人物がいた。
水色の髪を陽光に輝かせ、背は高く筋肉質。マントを翻し、胸には鮮やかな紋章。
ヒカル=セリオン。誰もが「正義の血筋」と呼ぶ若きヒーローだった。
「安心しろ、市民よ!」
彼は大きな声で子どもを抱き上げ、群衆に見せるように高々と掲げた。
歓声が湧き、拍手が起こる。
「さすがセリオンだ!」「やっぱりヒーローは違う!」
ヴェルノは一歩引き、手袋の裾を握りしめた。彼が助けたことなど誰も気づかない。
セリオンは群衆に笑みを見せる。その笑顔は眩しいが、目の奥は冷たい光を宿していた。
「この子を救ったのは俺だ。ヴィランの血を引く者に任せられるはずがないだろう?」
そう言うと、人々の疑念は一層ヴェルノに向かう。
「やっぱり怪しいやつだったんだな」「セリオンがいなきゃ危なかった」
灰色の瞳に沈黙が宿る。
ヴェルノは言い返さず、ただ群衆の背を見つめた。
母の声が脳裏にかすかに響く。
――「血がどうであっても、人の手をとることを忘れないで」
セリオンの背は群衆の歓声に包まれ、正義の光として讃えられる。
一方でヴェルノの姿は影の中に沈み、疑いと孤独だけが残されていた。