とある夏の日。
中学2年の赤葦京治は塾へ向かう途中に運命の出会いを果たした。
「かっけぇ…!」
彼の目に映ったそれは1台の改造バイクだった。
年季が入ったそれはバイク好きの赤葦の足を止めた。
「…誰?」
バイクに見入っていた赤葦に声をかけたのは銀髪の少年だった。
長い前髪の間から除く黄金の瞳に捉えられ赤葦は後ずさる。
バイクの持ち主と思われる彼は体格がよくて高校生くらいに見える。
どこかあどけなさが残るその顔にはいくつかの傷ができていて赤葦はすぐに不良だと察した。
「ごめんなさい。バイク、かっこよかったので…」
「まって!」
急いで立ち去ろうとしていた赤葦に制止の声がかかる。
「バイク好きなの?」
思いのほかフレンドリーに声をかけてきた少年はそう尋ねると
「良かったら乗ってく?」
と言った。
とても魅力的なお誘いだが流石に知らない人、それも不良について行くのはなと考えた赤葦は
「これから塾があるので遠慮しときます。」
塾と言っても自習室に行くだけの予定だったので口実に過ぎないが
「そっかぁ。じゃあまた今度な!」
と心底残念そうに言い少年は重そうなバイクを軽々と動かして走り去って行った。
「またこんな点数とって!」
エリート校出身で大企業に務めている赤葦の両親はどんなミスも許さなかった。
今回も模試の点数に納得がいかなかった赤葦の母は机の上に置かれた判定結果を叩きながら怒鳴っている。
「3年生になってからじゃ遅いの!みんなはもっとやってるんだから!」
「はい…母さん…」
でも今回もクラスで1番だったんだよなんていっても聞いて貰えないことを知っている赤葦は言い返さなかった。
「部活なんかやってるからじゃないの?」
おもちゃもゲームの与えられずに育った赤葦にとって部活、バレーは唯一の娯楽であった。
「大丈夫だよ。それに部活でいい成績残せば内申も有利になるし」
母をなんとか説得した赤葦は今日もまた塾へと向かった。
赤葦は塾が終わり帰ろうとしているとバイクに乗った少年に声をかけられる。
「ケイジくん!」
「え…なんで名前…」
「この前会った時カバンにネームタグついてたから!」
また今度とは言っていたがまさか本当にまた会えるとは思っていなかった赤葦は驚いたが
「この後予定ある?」
と聞かれてすぐにないと答えた。
「じゃあ乗ってく?」
「はい。お願いします。」
赤葦は母に『自習してから帰る』と連絡をして、名前も知らない不良について行った。
どこに行くかも聞かずに後ろに座って流れていく景色を眺めていた赤葦に彼は話しかけた。
「そーいえば俺の名前言ってなかったな!俺の事は光太郎って呼んで!」
「分かりました。コウタロウ…さん」
ほぼ初対面だから無理はないが話はあまり弾まずその後バイクが止まるまで会話はなかった。
バイクが止まったのは住宅街から外れた小さな川の前。
光太郎に促されるまま赤葦は河原へと降りて彼の隣に座る。
「ケイジはさ、なんで今日着いてきてくれたの?」
「…..」
「あ〜えっと、前会った時はすげえ俺の事警戒してたし今日もまさか着いてきてくれると思ってなくて」
「家に…帰りたくなくて…あなたなら俺をどこかへ連れ去ってくれるような気がしたんです。」
「でも初対面だよ?」
「それは…勘ですかね…?」
「あははっ!いいな、それ!ところでお前中3?」
「中2です。」
「なんだ一個下か!しっかりしてるしわかんねーわ」
その後は少しずつ話が弾んでいきお互いの事を話している内に2人は打ち解け合って言った。
日が傾き周りが薄暗くなった頃。
不意に光太郎が赤葦の顔に手をかけキスをした。
「…!?何するんですか!」
「ケイジ俺と付き合って」
何にと聞くほど赤葦は野暮ではなかった。
そのまま光太郎が続ける。
「一目惚れ。あの時ケイジじゃなかったらわざわざ引き止めなかった。」
「ちょっとまっ…」
「お試しでいいから!とりあえず、この夏が終わるまでだけでも付き合ってください!」
必死さに押されて赤葦は光太郎と夏の間付き合うことにした。
「よろしくね、ケイジ!」
「よろしくお願いします。」
「おーい、光太郎!飯まだ?」
「俺今帰ってきたとこなんだけど〜」
光太郎の家、木兎家は不良一家である。
母親は昔ヤンチャしてたたちで父親はいないというか知らない。
兄弟は多いが完全に血が繋がっているかは微妙だ。
「あんたまた母ちゃんの昔のバイクのってたの?」
「うん。あれかっけぇから。」
家族分の料理を作っている光太郎に母親が話しかけた。
「まぁいいんだけどね。無免だし事故ったりすんじゃないよ。」
「わーってるって!今日何人?」
「なんも聞いてないけど」
「姉ちゃんは彼氏と外食って言ってたけど…あいつまたどっかいってんの?」
「最近荒れてんだよねぇ、あの子」
あの子とは光太郎の一つ下の弟のことであった。
「まぁ多めに作って残ったら明日の朝でいっか!」
赤葦が塾の日は光太郎が塾まで迎えに行って、そのまま河原に行って話す。
付き合ってるのにデートらしい事はしてないが家が居心地のいいものではない2人にとって週に何度かのそれは特別な時間だった。
「ケイジはバイク好きなんだよね?」
「はい。」
「じゃあ将来乗りたいとか思う?」
「そうですね。でも親が許してくれないと思うんで…」
いつものように塾の近くで光太郎のバイクに乗って河原に向かっている途中の会話だった。
「別に大人になったら勝手に乗れば良くない?」
「そんな…」
「ケイジの人生だもん!ケイジの自由だよ?」
親に支配され育った赤葦は親に放置されて育った光太郎のような正反対の思考に至ることは今までなかったが自分の親がもしかしたらおかしいのではと思った。
「じゃあ俺大人になったらコウタロウさんとツーリングしたいです。」
「おう!」
「早くあなたの背中を追いかけられるようになりたいです。」
「楽しみにしてるな!」
8月下旬、お互い話すネタもなくなりつつあった頃、光太郎が街に行かないかと言い出した。
「いいですね、デートっぽいです。」
「だろ〜?でも、今までのもデートだからな!」
2人で買い物したり美味しそうなものを見つけたら食べたりして楽しんだ。
そろそろ帰るかとなった時に光太郎が「あと一店舗だけ!」と言い小さな雑貨屋に入った。
そこでキーホルダーを2つ買ってきた光太郎は1つを赤葦に渡し、自分の分をカバンに着けた。
「これ、おそろい!」
「いいんですか?ありがとうございます。」
赤葦もカバンに着けて光太郎のバイクで家の近くまで送ってもらった。
「ただいま」
赤葦が家に帰ると両親が待ち構えていた。
「京治、今日は塾よね?」
「そうだよ?」
「あなた街にいなかった?」
聞かれて赤葦は焦ったがすぐに最善の回答を考え答えた。
「ごめんなさい。塾の帰りに友達に会って遊びに行かないかって誘われたんだ。でもスマホの充電切れてたから連絡できなくて…」
「友達?あんなの不良じゃないの!もう絶対遊んじゃダメよ!」
「はい…わかりました。」
口ではそう言ったが赤葦は塾の帰りにまたこっそり会えばいい、そう思っていた。
数日がたちやっと塾の日になった。
赤葦が塾のカバンを持って家を出ようとした時、仕事が休みで家にいた母に
「今日はおやすみよ」
と声をかけられた。
「え、なんで…」
「塾の後またお友達に誘われるかもしれないでしょ、夏期講習は今日で最後だしもう休みの連絡はしておいたから。家で勉強しなさい。」
「でっでも!塾で聞きたい所あるし、それに誘われたって断わればいいでしょう?」
「そうやって言ってまた遊ぶつもりじゃないの?分からないとこなら母さんが教えてあげるから」
今日じゃなきゃダメなのに。
今日は8月31日。明日からは学校が始まり塾は夜遅くになる。
この夏の間はお試しでちゃんと告白の返事ができていない。
何度も光太郎に会ううちに赤葦は恋に落ちていた。
厳密にいつまでと決めていた訳ではないが今日返事をしないともう会えない気がした。
だから、今日じゃなきゃダメなんだ。
この夏が終わってしまうから…
結局そのまま母の監視の元勉強することになり赤葦は外に出ることは出来なかった。
今日は赤葦の塾の日。
そして夏休みが終わる日。
光太郎は朝から出かけていた。
今日改めて告白してちゃんと付き合うんだ!と頭のなかで告白のシュミレーションをしながらバイクをとばしていた。
その時、車が右側から飛び出してきた。
咄嗟に避けて衝突は免れたがそのまま光太郎は転倒してしまった。
「いってぇ…」
すぐに人だかりができてパトカーと救急車が来た。
大した怪我じゃないと言って断ろうとしたが念の為と言われ搬送されることになった。
「このバカ息子め!」
病院に来た母に怒鳴られ、光太郎は少し反省した。
「今日は2人してほんとになにやってんのよ」
「2人?」
「あいつが学校でやらかしてね」
「また?」
「そう。でも今回はちょっとヤバいかも」
「えっ…」
「あとそういえば今日は念の為入院だってさ!じゃあ母ちゃん帰るわ!」
それだけ言い残して光太郎の母は帰って行った。
「入院?でも俺ケイジに会いに行かないと…」
今日はこんなことしている暇はない。
ケイジに会いに行って、ちゃんと告白して、これからも一緒にいたいって伝えるんだ。
今日じゃないと夏が終わってしまう…その前にどうしても会わなければいけない。
でも看護師の目があり抜け出せそうにない。
ダメ元で看護師に聞いてみたがもちろん返事はNOだっだ。
夕方になりいつもの時間はとうに過ぎていたが諦めきれない光太郎は誰も見てない隙に病院を抜け出しあの場所へと向かった。
しかしそこにケイジの姿はなかった。
「もう帰っちゃったのかな」
9月になり二学期が始まった。
外に出れるようになり赤葦は学校の帰り、すぐにいつも迎えに来てくれていた塾の近くやあの河原などに行ってみたが光太郎に会うことは出来なかった。
「あの日俺が行かなかったから告白断ったと思われちゃったかな…」
赤葦は家に帰ると光太郎から貰ったキーホルダーを握りしめ静かに泣いた。
あれから約1年が経ち、赤葦は中3。光太郎は高1になっていた。
赤葦は今年の夏も河原へ行ってみたがやはり光太郎に合うことは出来なかった。
中3になり、親からのプレッシャーは増す一方だったがバレーは引退まで続けた。
中学3年の赤葦京治は友達と高校バレーを見に行った時2度目の運命の出会いを果たした。
「木兎光太郎…」
梟谷学園といえば強豪中の強豪。
そこで1年にしてコートに立っている彼から赤葦は目が離せなくなった。
プレーが上手いのはもちろん、周りとは違う目立つ髪型とか声の大きさとか理由はそれだけではなくて赤葦にはとてもキラキラ輝いて見えた。
「俺、梟谷にする。」
「えぇ!お前親御さんの母校受験するんじゃなかったの?」
「絶対、梟谷!」
一緒に来ていた友達が驚く程に赤葦は自分の進路に興味がなかった。
親に言われた通り敷かれた線路の上を黙って歩いていた。
だからそんな彼が初めて言ったわがままだった。
「認めませんからね!」
家に着くなり母親に志望校を梟谷に変えると言い出し揉めていた。
「嫌だ!俺、梟谷でバレーしたい!」
「京治はもっと上の学校に行って、○○大学にいくんだから!」
「梟谷でも充分上だよ。大学なら梟谷からでも行ける。」
「プロになる訳でもないのにわざわざバレーの為に志望校変える必要はないじゃない!」
「母さんにはわかんないんだよ!とにかく俺は梟谷に行くから!」
話し合いにならずその後赤葦が勝手に進路希望調査を出して三者懇談でも揉めたが結局、
推薦で梟谷を受けることになった。
無事に合格した赤葦は春から梟谷で木兎光太郎のバレーを近くで見えるのを楽しみにしていた。
4月、梟谷男子バレー部は強豪だから新入部員が多い。
しかしその後の過酷な練習で半分以上が脱落する。
2・3年は今年は何人残るのだろうと話していると1年が主将に連れられぞろぞろと入ってきた。
順番に簡単な自己紹介をしていたが2年の木兎光太郎の目に留まる1年はいなかった。
「じゃあ最後のひとり!」
「はい。赤葦京治です。中学ではセッターやってました。入部理由は昨年の大会で…」
「ケイジ?」
今まで退屈そうにしていた木兎が声を上げた。
親しげに下の名前でそう呼んだ木兎に周りから「知り合いかな?」とひそひそ声が聞こえた。
どうして木兎光太郎が俺の名前を?と思った赤葦だったが主将の指示ですぐに木兎と話すことになる。
「じゃあ今から2・3年が1年に1対1でついて色々教えるから。知り合いっぽいし木兎は赤葦くんね」
「ウィっす!」
「ケイジだよね?覚えてない?」
再び木兎に声をかけられ赤葦は困惑していた。
でも初対面のはずなのにそんな気がしなくて…
「…!コウタロウさん!?」
「思い出した?よかった〜 カバンにキーホルダーつけてたしてっきり俺に会いに梟谷来てくれたのかと思ったのに…」
「え…」
お守りと化したあの時のキーホルダーが着いたカバンを指さして木兎が言った。
赤葦はずっと会いたかったコウタロウさんと憧れのスター、木兎光太郎が同一人物だったと気づいた。
「コウタロウさんが木兎光太郎だったんですか…?」
「えっ?ん〜そうだけど」
「だって、髪型違うし」
「邪魔だから固めてんのカッコイーでしょ!」
「もう会えないと思ってたから…」
「ケイジ…」
とそこで主将からの集合がかかって話は一旦中断された。
部活初日とは思えないハードな練習内容に疲れ果てている赤葦に木兎が声をかける。
「大丈夫?あと、今日一緒に帰ろ!」
「大丈夫です。わかりました。」
着替えて荷物をまとめると赤葦と木兎は歩き出した。
そして
「あの時は行けなくてごめん!」「あの日、行けなくてごめんなさい。」
2人が同時にそう言った。
お互い相手の予想外の発言に目を丸くした。
「あの日ケイジも来れなかったの?」
「親に光太郎さんと会っていたのがバレて家から出してもらえなかったんです。」
「そうだったのか!俺だけだと思ってたから」
「俺もです。光太郎さんはどうして?」
「あの日バイクでちょっと事故っちゃってさ、入院してたんだよ」
そう言った瞬間赤葦は木兎の体を心配そうにまじまじと見た。
「今はなんともないよ!大した怪我じゃなかったから一日で退院したし!」
「よかったです。」
「でもその後すぐに弟がやらかして引っ越すことになっちゃってさ、会いに行けなかったんだ。」
「そうだったんですね…」
そこで1度会話が途切れひと呼吸おいて木兎が口を開いた。
「2年前いえなかったけどやっと言える!
ケイジ、俺と付き合って?」
「はい。俺も2年前に言いたかったです。よろしくお願いします。」
2年越しに伝えられた2人の思いは無事叶うことが出来た。
バレー漬けの毎日であの頃よりもデートらしい事も出来なかったけど、
一緒に自主練したり、休みの日にシューズを見に行ったり二人の時間を満喫していた。
そして2人とも進級し、木兎は3年、赤葦は2年になった。
新体制のチームにもすっかり馴染んで来た頃。
「あのさ、京治。」
「ちょっと木兎さん。学校では赤葦でっていつも言ってるでしょう」
「2人っきりだからいいだろ!」
「はぁ、どうしたんですか光太郎さん。」
「あのね、俺高校でバレー辞めることにした。」
「どうして!辞めちゃうんですか?」
「うん。大学はお金が厳しくてさ兄弟も多いし母子家庭だし」
「でも…」
「京治が俺のバレー好きなのも知ってる。俺の世界だって京治とバレーしか必要ない。」
「…..」
「今度の日曜日、空いてる?」
「はい。」
「じゃあいつものとこで待ってる。」
赤葦が久しぶりに中学の頃通っていた塾の近くまで行くと既に木兎がバイクにまたがって待っていた。
「すみません。お待たせしました。」
「ぜーんぜん!むしろ待ってたかったから!」
赤葦は木兎に手渡されたヘルメットを被り後ろに座ったお試しではなく正式に付き合ってから初めてだ。
「2年ぶりですね。」
「そうだな!俺も乗るの2年ぶりだけど!」
「え、大丈夫なんですか?」
「事故ってから1回も乗ってないけど運転はできるって!ほら掴まってろよ!」
河原に着くと初めて来た時と同じ位置に2人で座った。
気温やうるさいセミの鳴き声もあの時とほとんど同じであった。
「赤葦はなんでバレー始めたの?」
「俺は母さんに近所のバレー教室に連れてかれてそれからずっと続けて…ゲームとかしたこと無かったから唯一許してもらえるゲームみたいな感覚でした。」
「へ〜知らなかった!俺も昔からやってたけどね、本気でやったのは中3の終わりごろからなんだ」
「そうだったんですか」
「京治と会えなくなった時に京治もバレーやってたの思い出して強豪校のエースになって見つけてもらおーって思ってもっともっと頑張ったんだ」
「そしたら本当に見つけてくれた」と続けた木兎に赤葦が微笑んだ。
「俺の世界も光太郎さんとバレーとあと俺たちを繋いでくれたバイクくらいだけで充分です。今日いつもの場所でって言われた時からそれ以外は全部捨てる覚悟ですよ。」
「京治…ありがとう…っ…ごめんな。俺のせいで…」
話しながら涙を流した木兎にそっと赤葦が寄り添った。
「光太郎さんのせいじゃないです。仮に光太郎さんがバレーを続けられたとしても俺は決められた大学にしか進めませんし。もう会えなくなるなんて嫌です。」
「俺もだよ。京治と一緒にいられるなら人生でも命でもなんでも捨てれる。」
冗談には聞こえないトーンで木兎がそう言うとポケットから何かを取りだした。
「2年前のあの日、事故った日なんだけど あの時これ買いに行こうと思ってバイク乗ってたんだよね。」
木兎はパカッと小さな箱を開けた。
「京治、俺と結婚してください。」
「喜んで」
お互いに指輪をはめて空にかざすとキラキラと輝いた。
「でも、あの時ってまだ正式に付き合うかどうかの返事まだしてなかったのに用意してたんですか」
「うっ別にいいだろ!」
「まぁ俺もあんま人のこと言えないけど…これ書いて貰えませんか」
赤葦は1枚の紙切れとボールペンを木兎に渡した。
「これって…!」
「婚姻届です。」
その紙には既に妻となる人の欄に赤葦京治と書かれていた。
「苗字どっちにしますか?」
「京治が良ければ木兎がいい!赤葦に貰って欲しい!」
「じゃあそうしましょう。俺今日から木兎京治です。」
「やった〜!なんかすげぇ嬉しい!」
書き終えた婚姻届は京治のポケットに入れてお互いの指にハマったリングにそれぞれ口付けをして川へと向かった。
「京治、愛してる。」
「俺も光太郎さんを愛してます。」
2人は恋人繋ぎをして川へと身を投げた。
8月の終わりまだまだ暑いこの時期の川は少し暖かい。先程まで聞こえていたセミの鳴き声が静かになる。
川の水が口に入る。息が出来なくて苦しいはずなのに2人には恐怖心は一切なくて、ただやっと一緒になれるという解放感だけしかなかった。
happy end…?
8月下旬。都内で男子高校生2人が心中を図り川に入水し17歳(高3)の青年が死亡しました。
一命を取り留めた16歳(高2)の青年もその後自宅で亡くなっているのが発見されました。
手にはキーホルダーとボロボロになった記入済みの婚姻届が握られており婚姻届には本人のものと思われる字で「あなたの背中を追いかけて、すぐに会いに行きます。」と書かれていたことなどから、
後追い自殺として捜査が進められています。
コメント
2件
何となく題名見てたら最後にまさかの深い意味になるとは……