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春の桜色トキシック。
百「 おっさけ~おっさけ~♪ 」
夜桜の魅惑的な色に心酔しながら、俺は夜道をスキップで駆ける。
今日は仕事のプレゼンも上手くいって、上司にも沢山褒められていい一日だったから、自分へのご褒美に一人で宅飲みしようとコンビニに寄ったところだ。
この辺は繁華街として有名だから、夜になってもかなり人が居る。
百「 …ん、? 」
茈「 ……なに、 」
百「 ……綺麗、 」
ぽつりと、無意識に零れた一言だった。
路地裏に座り込んだ少年に月光が当たって、キラキラと輝く姿が美しくて仕方がなかった。こんなにボロボロなのに容姿が整いすぎている。
しかし何だろう、この子の瞳は全て見透かすような瞳だ。
きっと普通の孤児じゃない。この子は絶対に危険だ、有害だ。脳はそうやって信号を出すにも関わらず、俺の体は心の思うがまま。彼に手を差し伸べた。
百「 俺の家、おいでよ。 」
茈「 …、! 」
Toxic。有毒な、有害だと分かっていても惹かれるほどの魅力。
俺は、染められてしまったのかもしれない。
百「 君、名前は? 」
茈「 …茈、いま八歳。 」
百「 へ~、それにしては小さいね。 」
茈「 …そのせいで周りからなめられてんの、 」
百「 あ、ごめんごめん。 」
しかし本当に小柄だ。120もない身長にひと周り以上も小さい手。
孤児とは誰でもこうなのだろうか、それとも彼だけなのだろうか。そんなどうでもいいことを考えながら、晩御飯のメニューを考える。
百「 ご飯作ってくるね。 」
茈「 …うん、 」
コトコト、トントン、ジュージュー。
料理の音は耳触りが良い。昔は声優をしていたのもあって、音を聞くのは好きな方だ。音楽はアニメの曲以外あまり聞かないけど。
人々の生活音、公共の音、動物の鳴き声やその他もろもろ。全て愛おしい音達だ。
誰かの足音も、障害者を誘導する信号の機械音声も、踏切の音も、誰かの行ってらっしゃいも、カラスやスズメの鳴き声だって、全部俺の大好きな音だ。
コトコト、トントン、ジュージュー。…ガタン、
これは料理の音じゃない。リビングの方からしたけど、料理の手を止めたくはない。けれど何か起きていたらと不安になったので、火を止めて包丁を置いて、リビングに向かう。
百「 なんのおt… 」
茈「 ッ…、 ( 走 」
百「 はぁ”……こらこら、逃げないよ。 ( 捕 」
茈「 チッ、!! 」
百「 そんなこったろうと思った… 」
彼が怪しいことは最初からわかっていた。きっと連れ帰ってもなにかやって逃げると思っていた。その上で連れ帰ったのだから、俺は相当バカだ。
彼の手には俺の財布、しかも給料日が近かったから多めのお金が入ってる。
茈も知ってたのだろう。どの会社も給料日はだいたい月の下旬辺にあるから、この時期を狙ってこういう手口のスリをしてきたんだろう。
離せ離せと騒ぎ立てる彼に、眼力で少し圧をかけると、やはりまだ八歳だから怯えて大人しくなってくれた。それぐらいの方が俺のやりたいことができそうだ。
茈「 …つうほうすれば、 」
百「 いいよ、めんどくさい… 」
茈「 …は、? 」
百「 それより、いいの? 」
百「 今俺が茈を外に野放しにすれば、 」
百「 茈はこうやって、 ( 首絞 」
茈「 ッぁ”、!? 」
百「 殺されるかもしれない。 」
華奢な彼の細い首に、大きな手を被せて力を込める。驚きながら苦しい表情の彼が愛おしくて堪らない。あぁ、俺のものにして、ずっと傍に置いておきたい。
食べたいぐらいに愛おしい。これがいわゆるキュートアグレッションなのだろうか。
茈の綺麗な黄金の瞳が段々と曇っていって、大粒の涙が沢山溢れてくる。なにか言おうとしているものの、首が絞まって音になっていない。
あぁ、可愛いなぁ…
茈「 ッぁ”……かはッ”、 ( 震 」
百「 …ん、どう? ( 手離 」
茈「 けほ”ッ、!!ごほっ”… 」
茈「 わかっ”、た…ッから、” ( 半泣 」
百「 分かったならよろしい。 」
百「 家から出ようなんて考えないでね! 」
鈍色の鎖で沢山縛り付けて、離れられないようにしてあげる。
こんなに可愛い俺好みの子が手に入ったのに、手放すわけがないよね。まぁ、鈍くて腐った俺の愛情をこの子が受け止められるとも思ってないけど。
あぁでも、この華奢で小柄なこの子が、俺のために壊れてくれたら…?
可愛いだろうなぁ、絶対。その綺麗で宝石みたいな黄金の瞳が、俺のためにどろどろに蕩けたら、どれほど美しいんだろうか。
百「 もう逃げられないからね、…ッ! 」
茈「 …ッあつ、” 」
百「 !こら、台所は勝手に使わない。 」
彼を連れ帰ってから一週間。まだ彼は言うことをあまり聞いてくれない。
最近は特に言いつけを守らないことが増えた気がする。そろそろ強行的な手段に出ようとしてはいるのだが、それで傷つけては元も子もないので少し躊躇っている。
しかし一週間と過ごしてきて、彼には相当トラウマやらがありそうなことが判明。
それこそ俺の身勝手が行き過ぎてしまうと彼が死んでしまいそうで不安になってしまう。その綺麗な心も体も全て俺のものにする手段は、何かないだろうか。
茈「 ッ…、ごめんなさぃ、 ( 涙目 」
百「 …何かしたかったの? 」
茈「 …おちゃ、のみたぃ、 」
百「 それぐらい言ってよ、考えて。 」
茈「 ぅ、…… 」
そんなこんなで思いついたのが飴と鞭。
ダメなことはキツめに叱って、甘やかす時だけ酷く甘やかしてあげる。茈は賢そうだからきっと分かるんだろう。自分がどうすれば甘やかしてもらえるか。
怒るといつも泣きそうな目をしてこっちを見てくる。瞳の奥はいつも雨。
茈「 ねぇ、なんで外出ちゃだめなの…? 」
百「 …なんでそれを言わなきゃいけないの? 」
茈「 だって、おれがいてもめいわくでしょっ、 」
茈「 はやくすてたらいいじゃん…っ 」
百「 ……はぁ”~っ、 」
茈と過ごしている上で関わりづらいところその一。不定期にやってくるネガティブ。
きっと俺の言動一つ一つに何かきっかけがあったりするんだろうけど、そこの線引きが本当に理解できなくて、いつも悲しいことを口にさせてしまう。
茈の体は細くて折れてしまいそうで。
いつもその細い足でふらふらと歩いていて、ふっと消えたかと思うと目の前に居たり転けてたり。そんな姿だって、全て愛おしい彼の一部なのだけれど。
百「 …俺には茈が必要なの。 」
百「 大丈夫、何があったって追い出さない。 」
茈「 …、やくそくだから、 」
茈「 やぶらなぃ”、でねっ”… ( 泣 」
百「 うん、破らないよ… ( 抱 」
茈と過ごしている上で関わりづらいところその二。不安が募ると泣き止まない。
きっとこれも何か線引きがあるんだろうけど、今回のはかなり線引きが低いみたい。少しでも不安要素があったら涙がこぼれるぐらいには脆いから。
関わりづらさはあるが、上手く扱うことができればいい所だ。
茈はとにかく不安なことは約束したがる。幼い子の指切りげんまんと同じこと。約束を破られることを信頼の無さと結びつけてるんだ。
その茈の心を繋ぎ留める細い細い糸、俺が絡めて解けなくしてあげる。
百「 茈こそ破らないでよ? 」
百「 破った時はタコ殴りにして捨てるからね。 ( 圧 」
茈「 ッひ、”…っ 」
茈「 やぶらなぃ”、からッ”… ( 泣 」
百「 …大丈夫、知ってる。 ( にこ 」
茈「 ぅぁ”、ッ…ぇ”ぐっ、 ( 泣 」
鞭で脆いところを叩き壊して、飴で綻びに付け込んで、内側から支配する。
茈には愛情がないから、少し飴を注ぐだけでも上手いこと俺に依存していってくれる。すでに茈の瞳は濁りが増してきているし。
そんな姿も愛らしくて、惨めで健気で可愛いね。
百「 俺は茈を信じてるからね。 ( 涙拭 」
茈「 ん、ッ……おれ、も、” ( 泣止 」
百「 茈っ! 」
茈「 ぁ、らん…… 」
百「 大丈夫?手枷と足枷、痛くない? 」
茈「 ッ…いたくなぃよ、 ( にへ 」
百「 ……そっか。 」
あれからさらに二週間が経って、茈は完全に俺のもの。
俺の言うことには逆らえないし、自分からなにか行動することだってない。今は手枷と足枷を付けてある程度不自由な生活を送らせているものの、文句はひとつもない。
けれどそんな生活をしている中で一つ、こちらとしては少し困る、茈のある癖が厄介だ。
とにかく自己主張が乏しい。こちら側から問い詰めない限りは、俺が求める答え以外返ってくることがない。
質問をされては顔色を伺って、どれだけ自分の意思と違っても、相手の求める答えを口にしてしまう。この癖は早く直して欲しいが、幼少期から根付いていそうなので、ゆっくり治すことにしている。茈に負担はかけたくないしな。
こんなのでもちゃんと愛はあるのだ。泣き姿は大好きなんだけど。
百「 …ほんとに、痛くない? 」
茈「 いたくないよ、! 」
百「 ……嘘はダメだよ。 ( 頬掴 」
茈「 ッ…、いたぁ、ぃ、”… ( 泣 」
百「 ん、ちょっと一回外すね。 」
素材が痛いのか、サイズが合わないのかは分からないけど、金属製のものを直に固めに手首足首に付けられているんだから、そりゃ痛いよな。
柔らかい、緩衝材のようなものを間に詰めてからもう一度着ける。
茈の手首は細いから、緩衝材がある方がたしかに折れそうになくて安心するな。これはなかなかいい感じになったかもしれない。
百「 もう痛くない? 」
茈「 だいじょぶっ…! 」
百「 ん、良かった。 」
普通はこんなこと嫌がるものじゃないのか、と不思議に思ってしまうんだろうけど、茈いわく、縛られて軟禁されてる方が、愛されてると感じるのだとか。
傷つけないように大事にされている。その意識はよりいっそう俺への好意へ変貌する。
好きも大好きも愛してるも、茈はまだ何も俺に言ってくれないけど、いつかは絶対にそればっかり言っちゃうぐらいまで教育するつもり。
だってほら、たったの三週間でこのザマだもん。
俺にとって茈は、チョロくて扱いやすい玩具であり、俺のためになんでも尽くしてくれる都合のいい人形のよう。流されやすくて困っちゃう。
百「 大好きだよ、茈。 ( ちゅ 」
茈「 ん、ッ……ぅん、 」
あぁほら、見てよこの顔。この表情、!
こんなにも刺々しいのに、光を灯さないその瞳が堪らなく愛おしい。まだ両手の中に収まるほど小さいこの顔を、そのまま取って飾りたい。
今だって、どろどろに蕩けた瞳で見つめてくれている。
初めに会った時のように、鋭く睨みつけてくる三白眼はどこにもなく、加虐的な愛に溺れて、どろどろに濁り腐った黄金の瞳は、今日も俺だけを映し出している。
茈「 …もう、ちょっと、 ( 頬擦 」
百「 ……あは、w 」
俺は茈をToxicだと言ったけれど、世間はきっとそうは言わない。
有害。そしてそれを分かりながらも惹かれてしまうほどの危険な魅力。あの日、月光の元に晒されていた茈は、確かにToxicだった。
美しい花には棘があるものだと言うけれど、棘があるのは本当に花だけだろうか。
その辺の雑草や木だって、よく見れば棘があるかもしれない。クローバーにだって棘はあるのかもしれない。棘は、見えないからこそ美しい。そうでしょ?
本当に警戒すべき人間は、茈じゃなかったのかもしれないね。
好きな子の脆いところを壊して壊して、そのまま自分色に染め上げて縛り付ける。俺にとっては普通の愛情表現なのだけれど。
茈にとってもそれはいいものであって。でも世間からしたら歪んでいて。そんなものを正当化しながら身勝手に生きる俺はなかなかの異端者なようだ。
…もしかすると、本当のToxicは、俺なのかもね、w
束縛に飢えた有害な茈さん、
愛情が進んで狂った百さん。
どちらも正しく、またどちらも同じように曲がっている。
夜桜は月光に照らされてこそ輝ける。
春の夜桜は、月光に目が眩んでしまったらしい。