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#普通
野々さくら
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ありあ
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夏休みも中盤に差し掛かっている頃、茜と焔垂は狗頸駅前にある「カラオケGANGAN狗頸駅前店」に来ていた。
部屋の中には、つい先ほどまで茜が歌っていた曲の余韻が残っている。
「もう大丈夫〜♪ 笑顔で行こう〜♪」
最後のフレーズを気持ちよく歌い切り、茜は満足そうにマイクを下ろした。
その様子を眺めていた焔垂が、メロンソーダを飲みながら感心したように口を開く。
「相変わらず上手いよな。聴いてて心地良いわ」
「まぁ、それほどでも♬」
口では謙遜しながらも、茜の顔はどこか嬉しそうだった。
やがて画面に採点結果が表示される。
「あ、採点採点♬何点出るかな?」
期待に満ちた茜の視線の先で、数字が大きく映し出された。
そこには95.857点と表示されていた。
画面を見る限り、平均点は89.597点らしいため、平均を大幅に上回っているようだ。
「やったぁ〜♬95てぇ〜ん♬記録コ〜シ〜ン♬」
無邪気にはしゃぐ茜を見ながら、焔垂は採点画面に表示されたコメントを読み上げる。
「『あっぱれと言うほかありません』
『ただただ感動するばかりです』
『理想的な歌声に脱帽です』だってよ」
ベタ褒めじゃねーか。すげーな」
「いやぁ、今日は調子良かったからね」
「俺なんて80点行けばいい方だからな・・・」
「てか焔垂は下手すぎね(笑)」
「悪かったな!昔から苦手なんだよ!歌は!」
焔垂がむきになって言い返す。
そんな彼の反応を楽しそうに笑っていた茜だったが、ふと先ほど自分が歌った曲のタイトルを見て、焔垂が首を傾げた。
「てかこのTAMAYA?
TAMAYAって誰?初めて聞いたんだけど」
「は?まぢで言ってんの?
TAMAYA知らないの?」
茜は信じられないものを見るような顔をする。
「いや、いい歌詞だなぁ〜とは思ったけど
TAMAYAなんて聞いた事ないな」
「うわぁ〜まぢ?遅れすぎっしょ」
「誰なんだ?TAMAYAって」
茜は待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「TAMAYAはね?3年前くらいからネットで
バズり出したシンガーソングライターでね」
茜の話では、若者の心を代弁するような歌詞が、茜たちのような高校生を中心に支持されているという。
「トックティックでもみーんな音源に
使ってたりして、もう鬼バズり〜♬って感じ」
「へぇ〜・・・」
流行に疎い焔垂には、いまひとつピンと来ていないらしい。
そんな彼に、茜はさらに畳みかける。
「ちなみに今私が歌った『こころクリーニング』は
TAMAYAの代表曲なの。めっちゃいい歌でしょ?」
「ああ、すげー良かったよ」
「まぁ、この他にもいい曲はいっぱい
あるんだけどね?特に最近リリースした──」
茜はそこで、少しだけ得意げに曲名を告げた。
「『定義の無い言葉の刃物』コレがめっちゃ良いの」
「言葉の刃物?」「これだよこれ」
茜は得意げにLIME MUSICを開き、TAMAYAのアーティストページを開く。
「ちゃんと歌詞見ながら聴いてね?わかった?」
「わかったわかった」
しつこく念押しする茜に、若干うんざりしながら適当に返事をする焔垂。
しかし、その曲を聞いた焔垂はその歌のあまりの完成度に脱帽するのだった。
◇ ◇ ◇
曲名 定義の無い言葉の刃物
作詞・作曲 TAMAYA
大人が都合よく創り上げた
常識が当然とされる世界で
どうやら私の個性は
受け入れられないらしい
普通が正義で個性は悪
そんな世界で私は個性を押し殺し
まるで仮面をつけたように
作為的 に生きた
親に紹介された理想な
相手を好きになったし
親に迷惑をかけない平凡な
服装で出かけたりもした
自分の個性を封じ
私は親の期待に応えるように
無気力に生きた
残されたのは普通によって
創り出された 無個性な人間
自分が持って生まれた本来の色も
忘れてしまった虚無な人間
このままでいいのか?
死ぬまで従属に生きるのか?
私の個性が
受け入れられるその時まで
普通を解き放ち私は叫び続ける
定義の無い言葉の普通を振りかざし
常識は価値観を痛めつける
普通じゃないとか言っちゃって
変わってるねとか言っちゃって
妙ちきりんだとか言っちゃって
お前の時代錯誤を趣味に押し付けるな
定義の無い言葉の普通を振りかざし
常識は価値観を痛めつける
お前のためだとか言っちゃって
将来苦労するとか言っちゃって
おこごとばっかり言っちゃって
お前の人生論で個性を推し量るな
◇ ◇ ◇
その歌は、世間一般の「普通」という言葉には定義がないと言う事を、様々なルビで表現し、その言葉で個性を強制されることへの苦悩と、そこからの解放を訴える力強い歌だった。
コメント
1件
×××さん、第176話、読み終わりました! カラオケのシーン、ふたりの空気感がほんとに心地よくて、読んでいて自然と笑顔になりました。茜ちゃんがTAMAYAを熱く語る姿と、最初はピンと来てないけど最後には脱帽する焔垂くんの反応、すごくリアルで「あるある」って思いました。 そして何より、『定義の無い言葉の刃物』の歌詞——ルビの使い方で「普通」の押し付けと個性の苦しみが見事に表現されていて、胸がぎゅっとなりました。作中歌をここまで物語に溶け込ませられるのは、×××さんの繊細な視点あってこそだなと。 TAMAYAの正体も気になりますね…続き、楽しみにしています🌷