海軍長さまは、出ていく直前、指揮長として命令をした。
「俺もお前も、目的は違えど、出来ることはひとつしかない。指示に従え」
「ネクトさん。さっきのって…」
「あぁ、ごめんな。急に言い合いなんかして」
「いえ、僕は何も思ってませんから…」
正直、普段温厚なネクトさんが海軍長さま相手に、意見をするのは驚いた。
「いいよ、気を遣わなくて。俺は、自分の任務を無闇に扱われたくなかったんだ」
ネクトさんは、海軍長さまが転がしたままのペンを元に戻した。
「ネクトさんの任務ってなんですか?」
「俺の?俺は、さっきも言った通り、機械のメンテナンスが主なんだ。壊れたら直すのも任務さ」
「ネクトさんは、修理屋みたいな感じなんですね」
「分かりやすく言うとそうかな。なにせ、海軍長さまも言ってたけど、あの人は世界を壊すような人だからな」
世界を壊すというのは、一体どういうことなのだろう。全く、想像がつかない。
「俺も詳しくは知らないし、いつも事後報告ばかりなんだよ。でも、何か巨大なものと戦闘をしているようでね」
巨大なもの…。僕は、船を思い浮かべた。
「それは、敵軍の船かなにかですか?」
「人で済めばいいけどぱ」
ネクトさんは、確かにそう言った。あまりにも消えるような声だったから、自信はないけど。
「とにかくだ。 あの人が船をこわすたびに、俺らが再生しに行くんだ。傷口をふさぎにね」
「傷は、戦った証というところですか…」
ネクトさんは、黙って頷き、言葉を続けた。
「だから、ぶつかることに意味があるとは思っているんだ。だからこそ、再生の力が必要なんだって」
「本当に、修理屋ですね」
「やっぱ、こういう仕事は俺たちにしかできないだろ?」
でも、彼の表情は固かった。言葉を飲み込もうと、思い込もうとするように。
「だからこそ、この力を利用されるのは許せなかったんだよ」
彼は、怒っていたと思う。表情は、微笑みを崩していなかったけれど目の奥に炎を秘めているようだった。
「危険な航海とか、幾度目とか。以前からこういうことは多かったんですか?」
きっと、彼は過去に何かあったからあんなに真剣に言ったんだ。人は、経験則でしか語れないから。
「前は、そりゃ色々あったさ。でも、そこは重要じゃない」
ネクトさんは、表情を変えずに、広がったままの海図を折りたたんだ。まるで、過去のことを隠すようにそれを懐へしまい込んだ。
「それより、君だって思ってるだろ。どうして、こんなに目的とか仕事があやふやなのかって」
ネクトさんは、僕を見透かしたように言う。
「だって、普通に考えて船全体の目的がないと、自分の仕事に意味なんて見いだせないよな」
目的は無い?僕は、その言葉に疑問を感じた。だって、目的の有無じゃなくて、僕の知るクルー全員は…。目的を、隠して思い込もうとしているように見えるからだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!