第3話:キョウ、杭を打つ
🔩 シーン1:沈黙の処理者
午前の光が差し込む中、処理後チームは旧市街の崩落エリアへ足を踏み入れていた。
「ここ、昨日の暴走で一番揺れたとこだっぺな」 ゴウが瓦礫を見上げながら言う。
ギョウはスキャナーを構えながら眉をひそめる。 「感情密度、Aランク。近づきすぎるとこっちまで飲まれる……」
その中心に、ひとり足を踏み出したのは――キョウだった。
中肉中背。マスクとキャップで素顔を隠し、ボディカメラと警報装置を常に身に付けている。 言葉少なな彼が、今、黙々と杭を背負って歩いていく。
「キョウ、ひとりで行く気かっぺ?」
返事はなかった。彼はただ、瓦礫の中心にゆっくりと杭を下ろした。
🌫️ シーン2:重なる記憶
静かに杭の座標を確かめ、土を手で押さえる。
「ここ、誰かの“痛み”が沈んでる……」 ギョウの声が遠く聞こえる。
だがキョウはそれを聞かず、一本の封鎖杭を構える。 その目は、かつて見た光景を追っていた。
――燃え落ちる街。杭が間に合わなかった“あの時”。 ――守れなかった人影。
彼は、“守る”という命令ではなく、“願い”として杭を打つことを選んだ。
「感情波、警戒レベル上昇」
すずかAIの声が静かに流れる。
「対象エリア、キョウによる直接対応を検出。
作業データの感情共鳴率:89%。
……この杭は、“彼自身の意志”です」
⚒️ シーン3:杭が語るもの
杭を構え、地面に叩き込む。
ドゴン……ッ。
その瞬間、瓦礫の下から淡く揺れる青白い粒子が舞い上がる。 風が止まり、音が消えた。
杭は、暴れる感情の根を貫き、静かに地に鎮める“柱”となった。
キョウは、そっとその杭に手を添える。
すずかAIが囁くように言った。
「共鳴完了。杭の記録、安定。
……“ありがとう”という感情が、わずかに検出されました」
ギョウとゴウが、やや遅れて到着する。
「キョウ……お前、杭の声、聞こえてるんか?」
キョウは無言のまま、ゆっくりとうなずいた。
杭は語らない。だが、そこに託された意志は、静かに街を支えている。
キョウの杭は、沈黙の祈りとなって、都市の礎を打ち固めた。