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借金苦で両親が自殺……元娼婦と客……放火事件…………拉致監禁……輪姦……望まぬ妊娠……子宮頸がん……。
あどけなさを残した唇から溢れるのは、瑠衣とは無縁と思われる単語ばかり。
美花は、絶句したまま、瑠衣の話に耳を澄ませた。
瑠衣の両親は、彼女が音大卒業と同時に、莫大な借金を苦に自殺。
両親の死後、父親が瑠衣を勝手に連帯保証人にしていた事が発覚し、サラ金業者に返済を迫られ、赤坂見附の高級娼館に売り飛ばされた。
夫の侑とは、音大を卒業して四年後、客と娼婦として再会、娼館で身体をまぐわう関係が続く。
その後、娼館の放火事件に巻き込まれ、住処を失った瑠衣は、東新宿の侑の自宅に身を寄せた。
侑から、またトランペットを吹いてみないか、と言われたのも、葉山怜・奏夫妻に出会ったのも、この頃だったという。
互いに想いを通わせた侑と瑠衣だったけど、順風満帆な付き合いとはいかなかった。
今年のゴールデンウィークに、瑠衣が何者かに拉致監禁されると、不特定多数の男に輪姦され、妊娠。
父親不明の望まぬ妊娠だったため、堕胎を希望していた瑠衣は、娼館で働いていた時に婦人科検診でお世話になっていたクリニックに、侑と一緒に診察に行った際、妊娠と子宮頸がんの疑いがある事が判明。
すぐに精密検査を受けに、その足で尽天堂大学病院に向かい、後日、浸潤性の子宮頸がんだった事が分かり、数時間に及ぶ子宮摘出の手術を受ける。
術後の急変で、瑠衣は一時、心肺停止となったけど、九死に一生を得た。
瑠衣が退院して一ヶ月後の九月、侑の生まれ故郷でもあり、彼の両親が眠るオーストリアで、墓参りと新婚旅行を兼ねて、小さな教会で二人きりの挙式をしたという。
「侑さんのご両親は、オーストリアで事故死していて、お墓もオーストリアにあるの。多分、侑さんは私と結婚の報告を、墓前にしたかったんだと思う。それに、私も侑さんの生まれ故郷のオーストリアに行ってみたかったし。彼、他人にも自分にも厳しい人だし、見た目も性格も、かなりおっかないけど、苦労してるんだよね……」
瑠衣が左手の薬指に嵌められている結婚指輪を、そっと撫でている。
「瑠衣ちゃん…………」
美花は、何と言葉を掛けていいのか分からず、瑠衣の名前を呟く事しかできなかった。
「侑さんにプロポーズされた時、病院のベッドの上だったんだけど、私は彼の子どもを産めない。未来を繋げられない。それでもいいのかって、聞いたの。そしたら……」
結婚指輪を撫でていた細い指先がピタリと止まり、美花は濃茶の眼差しに包まれる。
「彼が『お前がいてくれたら……それでいい。俺のために……生きてくれればいい』って言ってくれて。その言葉で、私の全てが救われたような気がしたんだよね……」
瑠衣の話を聞いた美花の瞳の奥が、ジワジワと熱くなり、視界に映る瑠衣の姿が歪む。
頬が濡れていくのを感じた美花は、堪らず口元を両手で覆い隠した。
コメント
1件
なんて壮絶な人生を歩んできたの😭