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その日杏樹は廊下や階段で役職者に会うと「大丈夫か? 大変だったね」と声をかけられた。

皆杏樹の事を心配してくれているようだ。

そして葛西支店長からも昼休みに支店長室へ寄るようにと言われたので、杏樹は食堂に行く前に支店長室へ向かった。

ドアの前で少し緊張気味にノックをする。


「どうぞ」


杏樹は「失礼します」と言って中に入る。


「どうぞ座って下さい」


葛西はそう言ってからすぐに内線電話をかけ誰かと一言二言交わしてから電話を切る。

それから杏樹の前に座って言った。


「桐谷さん、昨日は大変な事になってしまい申し訳なかったね。この支店の責任者としてすまないと思っています。本当に申し訳なかった」


支店長はそう言ってから深々と頭を下げる。


「そんなっ…支店長のせいではありませんから」

「いやぁ、これは上司の監督不行き届きだよ。私がもっと注意して目を光らせておけばよかったと後悔しているんだ」

「いえ、まさかあんな事になるとは誰も思わないですから支店長のせいではありません」

「そう言ってくれるのは有難いんだが君に嫌な思いをさせた事にはかわりない。いや、嫌な思いどころかあれはりっぱな犯罪だ。それに私がもっと注意していれば防げたかもしれない…そう思うと後悔ばかりだよ」

「え? それってどういう意味ですか?」

「ここだけの話にしてもらえるかな?」

「もちろんです」

「役職者には今朝話したんだが……森田は以前横浜支店で女性関係のトラブルを起こしていてね」

「あ、それなら知ってます」

「お、知ってたか……もう噂になっているんだな? じゃあその前の支店の事も聞いているかな?」

「いえ……まだ何かあるんですか?」

「うん。森田は横浜の前は中野支店にいたんだけどね……そこでもやらかしているんだよ」

「えっ? やらかしたって何を?」

「社内不倫だ。おまけに職場でね。つまり昨日みたいに金庫室で…….って事だ」

「…………」

「金庫は銀行にとっての聖域だ。そこでそんなバカげた行為を……それも夫がいる女子行員とだ。呆れて物も言えないよ。だから多分森田は懲戒解雇になると思う」


杏樹はあまりの衝撃の事実を聞いて驚いていた。しかしすぐに葛西に聞いた。


「でも不倫や二股くらいではクビにはならないのでは? 使い込みとか犯罪まがいの事じゃないとクビにはならないって前に誰かが言っていたような」

「うん、普通はそうだよな。男女関係の不祥事くらいではクビにはならないし、処分も転勤、左遷、出向…そのうちのどれかだろう。残念ながらそれが今の現状だ」

「じゃあなぜ森田さんは懲戒解雇に?」

「まあ3度目というのもあるだろうな。それと森田には得意先への融資の件でちょっと色々とあってね……」


それは早乙女家具の件だろうとすぐにわかった。


「懲戒解雇の辞令はもう出たのですか?」

「辞令はこれからだ。で、その件に関しだが桐谷さんは本当に被害届を出さなくてもいいんだね?」

「はい、大丈夫です」

「そうか。辛い中よく決断してくれたね、ありがとう。心から礼を言わせてもらうよ。今回の件がもし警察沙汰になり世間に知られたらうちの店はお客様からの信頼を失い支店の評価も下がってしまう。だから桐谷さんが穏便に済ませようとしてくれた事は銀行側としてもとても助かるんだよ。辛い思いをしたのに本当にありがとう」


葛西は再び深々と頭を下げた。


「いえ、支店長、もう頭を下げないで下さい。私は銀行側がきちんと処分して下さるならそれで充分です」

「ありがとう。本当に助かったよ」


その時ノックの音が響いた。


「どうぞ」


葛西が声をかけると優弥が入って来たので杏樹は驚く。優弥も支店長室に杏樹がいて驚いたようだ。


「支店長、何か?」

「おお、来たか。君も座れ」

「はい……」

「君達二人をここへ呼んだのはね……実は見ちゃったんだよ」


「「ハッ?」」


二人は支店長の口から予想外の言葉が出てきたので驚く。

そこで優弥が葛西に聞いた。


「支店長、見たって何をですか?」

「うーん、そのなんていうのかなぁ? ラブラブチュッチュ?」


葛西はそう言ってガハハと笑った。

その瞬間優弥と杏樹はハッとして顔を見合わせる。


「ちなみに…その……ラブラブチュッチュとは?」

「なーにとぼけてるんだ? 君達二人が今朝車の中でチュッチュしてた事だよ」


「「!」」


優弥は言葉を失い杏樹は頬を真っ赤に染めた。

そこで慌てて優弥が言った。


「支店長、それは……」

「まあそんなに動揺しなくてもいいから。二人は付き合っているんだろう?」


「「…………」」


「おや? 付き合ってないのか? 付き合っていないのにチュッチュしたのか?」


葛西は意地悪く言ってから再びガハハと笑った。

そこで優弥が降参したというように口を開く。


「支店長の仰る通りです。私達はつい最近交際を始めました」


その言葉に葛西は「ほらやっぱり」という顔をした。


「ハハッ、やっぱりな。なに…私は責めてるんじゃあないよ。二人が仲良さそうなのを見てしまったから一応確認だけしておこうと思っただけだ。だからそんなに怯えるな」

「でも、職場恋愛をしたらどちらかが転勤…ですよね?」

「なんだ、それを恐れているのか?」


そこで葛西は一度座り直すと身を乗り出して二人に聞いた。


「ちなみに結婚を前提で付き合ってるんだろうな?」

「もちろんです」


優弥が即答し杏樹もコクリと頷く。


「そうか、それなら安心だ。本来ならば社内恋愛が発覚した時点ですぐにどちらかが転勤。まあ普通はそうなるところだが今回は見逃してやろう。うちの店には黒崎副支店長がいないと困るし、桐谷さんも確かまだ引越したばかりだよな?」

「いいんですか?」

「もちろん。でも銀行内ではのラブラブチュッチュは禁止だぞ! もちろん森田みたいに金庫でのラブラブチュッチュもだ」

「私はそんな馬鹿な事はしません」


優弥はきっぱりと言い切る。


「で、結婚したら桐谷さんは仕事はどうするつもりなんだ?」


葛西は杏樹に聞いた。

いきなりそんな事を聞かれてもまだプロポーズもされていないのに杏樹は何と答えていいのかわからない。

口ごもる杏樹の代わりに優弥が答える。


「結婚したら杏樹には仕事を辞めてもらおうと思います。でも彼女がどうしても仕事を続けたいと言うなら銀行の時短パートへチェンジしてもらおうかと…」


杏樹は驚いていた。まさか優弥がそこまで考えているとは思ってもいない。


「おお、それがいいな。フルで働くとどうしても夫婦間がギスギスしがちだ。それにうちのパートの時給は元社員だとかなり優遇されるからな。お、なんならうちの支店でパートに入ってもらってもいいしな…うん、それがいい」


葛西はうんうんと満足気に頷く。そして続けた。


「まあそういう事なら朝のラブラブチュッチュは見なかった事にしておこう。ただし……」

「何ですか?」


優弥が緊張気味に聞き返す。


「仲人は私にやらせてくれ」


なんだそんな事かと二人はホッとする。


「もちろん、お仲人は支店長以外には考えられません。杏樹の了承を得たら支店長に頼むつもりでいました」

「そうかそうか、桐谷さん、仲人は私でもいいかな?」

「もちろんです」


杏樹の答えに葛西は嬉しそうに頷く。

しかし杏樹はドキドキしていた。いつの間にか結婚話が具体的に進んでいるからだ。



その後二人は支店長室を出た。そして廊下の隅でヒソヒソと話す。


「びっくりしたな、まさか呼び出されてあんな話になるとは」

「あの時見られていたなんて……もう銀行の近くでのラブラブチュッチュは禁止ですっ」


杏樹は頬をプクッと膨らませながら優弥をたしなめる。

しかし優弥はニヤッと笑って杏樹の耳元にこう囁いた。


「俺はいつでも杏樹とラブラブチュッチュをしたいのになぁ」


そして優弥は素早く杏樹の頭にチュッとキスをする。

驚いた杏樹は顔を真っ赤にしながら思い切り優弥の腕を叩いた。


それから二人は笑いながら一緒に食堂へ向かった。

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