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「ふーん。それで?置いて走ってきたって訳?あっそう。で、ここに来たの。ふーん。」
不機嫌そうな高い声が頭上で呟いている。
「、、、。」
しっかりとは覚えてないが、俺があの女と言い合ってる時にルツから止められた。
案の定被害者ぶったあいつにルツが騙されて心配した。
それを見たら胸の中に小さな針が刺さった。
だからルツを無理やり連れて走った。
走っても走っても針が取れなくて、とにかく走った。
やっと息が切れて、キツくなった。
あつい。あつい。熱い。
あついのは、嫌いなんだよ。
久しぶりに息が切れた。視界が揺れた。
視界の端に足があった。
汗が一気に冷めた。
「ごめんなさい。」
咄嗟に声が出た。ルツに向けたものではない。その視界の端にいる存在に向けたものだった。失態だった。逃げるためとはいえ乱暴にルツを連れてきた。約束に反するんじゃないか?先生を裏切ることをしてしまったのか?
考え出すと汗が止まらなかった。
「・・・う、」
なんと言おうとしたのか、いや何も言おうとしていない。ただ声が出てしまって、寒かった。
「ロロ、」
ルツが俺の名前を呼んだ。
「あの日、何を、言われたの?」
あの日、あの日?ルツが言うあの日はきっと先生が死んだ日だろう。
「ルツ。」
は?
「なあに?」
何を言われた、だって?
何その言い方。
「ルツ。」
まるで、先生が、
「うん。」
俺に、
「ルツ」
命令したみたいな言い方。
はぁ?
なにそれ
俺は、あの日、先生と
「ルツ、」
約束したんだ!それなのに、それなのに、なんでそんな言い方するんだよ。
意味わかんない。
誰の為だと、
先生は、ルツのためにーーーーー。
『シクロロ。』
耳元で声が響いた。
何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も夢で聞いた声だ。
そうだ、俺はルツを守るために存在するんだ。
思いっきり握りしめようとした手をルツから離した。
でも、今の気持ちがおさまらない。
今はーーーーむりだ。
気がつけばこの家にいた。
「・・・帰らなくていいの?」
セルナーシャがやけに優しい声で言った。少し心配しているのだろうか。
ソファのクッションに顔を押さえつけた。セルナーシャからの優しさが今は痛い。いや、いつもか。今自分がどんな顔しているのか想像できなかった。
「ココア飲む?」
小さく頷いたけど気づいたかな。
セルナーシャが入れてくれたココアの湯気が漂った。行くあてもなく彷徨い、やがて消えた。
「寝っ転がって飲まないの!」
無視してうつ伏せのまま口をつけた。
「あつっ、、、熱い。」
「え?氷入れたわよ。四つ。」
少し冷まそう。テーブルにコップを置いた。
「「たっだいまあーーーー!!」」
元気な声が響いた。
ロッケイとロッカクが帰ってきた。
「え!?ロロ!」
「わあーー!来てたんだあ!!」
すごい速さで飛んできてきた。
起き上がる気力もなくそのまま目を向けた。意外に近い。
「あれっ。ロロ何か落ち込んでます?」
「あっそれ私も思ったー。何かあったの?」
なんで分かったんだろう。セルナーシャにはバレなかったのに。
「・・・ケンカ、した、、だけ。」
違う。一方的に怒っているだけだ。
「そうなんだ。」
そう言うと二人が抱きついてきた。
苦しいんだが、
「なに?」
「バグをするとストレスが減ると聞いたので!」
「ふたりだから二倍だしね!」
なにそれ。
胸の中にさっきのココアが注がれたような感覚があった。
そのせいか、胸が苦しくてムズムズしてどうしようもない気分になった。
「離せ。苦しい。」
「あっごめん。」
力は弱まったがそれでも離してはくれなかった。なんで、と口に出そうとしたが結局言葉にはならなかった。
「そういえば、スビナ達は元気だったか?最近顔を出せてないからな。」
「めっちゃ元気だったよー?てかー。スビナとライカがまた喧嘩してて大変だった!もう乱闘騒ぎだよ!」
「皆燃えてるみたいです。次会った時はロロから一本取るって叫んでました。」
「そうか、次が楽しみだな。」
スビナ、ライカ、クガルト、クハル、リク、サエラ、マリン、ヤッシュウ、ネシメ。
ロッケイ達と同じく俺が見つけた少年女子達だ。いい歳の奴もいるけどな。
身体能力が高かったり、情報網として使えそうな奴らだ。
ほぼほぼの奴は、治安の悪い場所でたむろっていたから少し挑発したら乗ってきたので相手してやったらついてきた。
他は噂で聞いた奴を片っ端からあたっていってスカウトした奴らだ。
元々ロッケイとロッカクが稽古していた空き地がそいつらの溜まり場になっていった。
週に一回ほどの頻度で会いに行っていたけど、最近は行けていない。
元気にやってるなら良かった。使えないやつはいらないからな。
「じゃあ、今日は泊まるの?」
別に泊まろうと思ってきたわけではない。でも、
「帰りたくは、ない。」
やっと離してくれた。
「そっか、じゃぁ!一緒にご飯食べて、一緒に今日は寝よ?」
ロッカクが嬉しそうに言った。
そんなに俺がいるだけで嬉しいのか?別に人一人増えるだけじゃないか。
「いや、ご飯はいらない。」
「えー!いらないの?セルさん今日のご飯なーに??」
コーヒーを飲んでいたセルナーシャが、目線をかえず答えた。
「オムライス。」
「ロロ本当に要らないんですか?お腹空きません?」
「ん。それよりも、、、あ。」
「「「?」」」
起き上がってそのまま立ち上がった。
しゃがんでソファの前にいたロッケイとロッカクがポカンとして見上げていた。
「汗かいてたからシャワー浴びてくる。」
忘れてた。
「はぁ!?そのままソファに寝っ転がってたの!?最悪!」
すごい形相で睨まれた。
「シャワー浴びてる間にご飯食べといたら?」
「「はーい。」」
こんなに汗をかいたのはいつぶりだろう。
身体が冷たくなっていた。さっきは少しあつかったんだけどな。
そういえば着替えどうしよう。汗だくだから洋服着れないな。
一応出てみると、知らない服が置いてあった。ロッケイが置いてあったのかな。
「なぁ。この服でかい。だれの、、、」
食べ終わってゆっくりしていた三人がこっちを向いた。
「、、、おい。なに「ぶはっ!!あはははははは!!!」
ロッカクが吹き出した。
「ロロっその服っ!!デカすぎ!あははっ」
残りの二人も肩が震えてるから笑ってるんだろう。
「っそれ、俺のっふふふっです。」
確かにでかいけど、けど、そんなに笑うか。確かにデカすぎて手が出ないし首元もほぼ出てるけど!
「お前ら、覚えてろよ。」
腹立つ。
「わーー!怒らないでっ。ロロ!!」
叫びながら走ってくるロッカクをセルナーシャが止める。
「コラ!そういうのはお風呂はいってから!」
残念そうにしてトボトボとお風呂に入っていった。
そういう所を見ると、まだ子供なんだなと実感する。
二人がお風呂に入っていくと、急に静かになったリビングにセルナーシャが飲むコーヒーでもの香りで包まれた。
「セルナーシャ。」
喋りかけた俺も、喋りかけられたセルナーシャも動かなかった。それが当たり前。
「あいつら、いい奴だと思うか?」
そう言った時セルナーシャがこちらを向いたのが分かった。俺はソファーに座ったまま動かず俯いた。
「どっちの事言ったの?」
「・・・どっちだろうな。」
セルナーシャが立ち上がり、隣に座った。
「話して。」
真剣な眼差しだった。
「、、、。」
手が触れた。セルナーシャが俺の手を自分の手で包んで、握った。人に触られるのは好きじゃない。でも、振り払う気にはなれなかった。
「別にお前が調べた情報を疑ってる訳じゃない。あの会社は黒だ。裏で悪事を働いてる。」
入社して半年で俺はセルナーシャに出会った。そこであの会社の裏を調べた。
同意なしの臓器売買、人身売買、調べれば調べるほど出てきた。
別にそれは良かったが、臓器売買や人身売買の出どころ。
それは、
身寄りの無い新入社員。
八割が身寄りの無い新入社員だった。だいたい三年間で『出荷』される。
だから、備えた。
セルナーシャと組み、ロッカクやロッケイ達を育て、スビナ達も鍛えた。
コマは揃った。
それでも、、、
「裏は裏で違う奴らがいるっていうことは、無いのか?」
二年と五ヶ月。ずっっと疑った。ルツが危険な目に遭わないように。
「、、、可能性は低いわ。高い会社なら有り得るけれど、小さな株式会社では、、、。」
「そう、、、。」
信じたい訳じゃ無い。
ルツに何て言えばいいのか、分からないだけだ。ルツが信じた人達は自分を殺そうとしていて、今までの事は全部嘘。何て言えばいいのかわかる訳無い。
「シクロロはどう思ったの?」
「、、、俺?」
「当たり前でしょ、疑い始めたのは貴方よ。貴方の気持ちが最優先よ。」
自分の、気持ち?
そんな物、無い。
いや、
「わからない。」
小さくセルナーシャがため息をついた。
握っていた手を俺の頬に移動させた。両手で顔を挟まれた。なんで?
「会社の人は“貴方にとって”良い人だった?この三年間、一度だって心が揺れる事は無かった?」
良い人。俺にとっての良い人の基準はなんだ?ルツに危害を加えない者?今までの良い人は誰だ?、、、、、先生。
俺が生きる意味をくれた人。信じてる人。良い人、、、かは分からない。俺には判断は、出来ない。
でも、ルツがあいつらと話して、笑って、喜んでる所を見ると、俺は居場所がないように思う。ルツは、きっと俺がいなくても、大丈夫。
「、、、、、、あった。」
そう言った時。何が解けた。
「あった。何回もあったよ!何回も、、!!だけど、ルツに危険が及ぶ者は・・・。、、、わかんねえ。もう、わかんねえよ。だって、だって優しいんだよ、、、。どんなに突き飛ばしても、あしらっても、話しかけてくるんだ。裏を取ってやろうとしても、
『シクロロ君はどんな感じ?』
『まだ、警戒されてます、、、。やっぱり過去に色々あったみたいです。仕方ないと思います。』
『ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、あの子達に寄り添ってあげたいんだ。彼らの居場所を私達が守っていこう。だって彼らはまだ、、、子供なんだから。』
『そうですね。』
、、、。俺は、先生と約束したんだ。ルツを、ルツを守るって。だから、、でも、、、。」
セルナーシャが俺を抱き寄せた。
その時自分が泣いていることに気づいた。悲しいなんて感情がまだ残っていたのか。なぜか止まらなかった。
「セルナーシャ、、、、、おれ、どうしたらいい?」
心臓に糸が絡まって締め付けて、解けない。
セルナーシャが背中をさすると少し、楽になった。言葉がポロポロと溢れた。
「苦手なんだ。誰かを守るなんて、、、。守り方も知らないのに。、、、俺なりに、やってきたんだ、、、。先生が、いなくなって、、、二人になって、、、知らない場所で、、知らない人達と、、。」
セルナーシャは静かにずっと聞いていた。珍しく何も言わず、ずっと、俺の気がすむまで、、、。