テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
380
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
黒い巨大な目が、空に浮かんでいた。
それだけで、人が死んでいた。
道路の真ん中で倒れる人。
耳を押さえて泣き出す人。
意味もなく笑い始める人。
見ているだけで精神を壊される。
冬真は寒気で動けなかった。
「あれ……何なんだよ……」
声が震える。
悠臣が険しい顔で言った。
「《天眼(てんがん)》……災害指定の最上位だ」
冬真:「最上位……?」
悠臣:「国が滅ぶレベル」
サラッと言う内容じゃない。
窓の外では、すでに街の一部が崩壊していた。
空気が重い。
呼吸しづらい。
湊が舌打ちする。
「なんでこんなのが急に出るんだよ……!」
獅子堂は低い声で命令した。
「総員出動。避難誘導を優先しろ」
「でも局長!」
隊員の一人が叫ぶ。
「攻撃は!? 討伐はどうするんですか!」
獅子堂は数秒黙った。
そして。
「……灰崎が来るまで待つ」
空気が止まる。
冬真は思わず聞き返した。
「待つって……」
「言っただろ」
獅子堂は窓の外を見る。
「アレを殺せるのは、灰崎蓮司だけだ」
その言い方は、信頼じゃなかった。
もっと嫌なものだ。
“仕方なく認めてる”感じ。
悠臣がボソッと呟く。
「ほんと化け物だな、あの人……」
数十分後。
第三区画。
街は地獄になっていた。
建物は崩れ、道路は割れ、黒い雨が降り続いている。
冬真たちは避難誘導をしていた。
「こっちです!! 急いで!!」
泣いている子供を抱え、冬真が走る。
遠くで爆発音。
悲鳴。
怪物の咆哮。
最悪だった。
「冬真!!」
湊が叫ぶ。
「上!!」
冬真が顔を上げる。
巨大な瓦礫が落ちてきていた。
避けきれない。
冬真が歯を食いしばった、その時。
――止まった。
ピタリ、と。
空中で。
「……え?」
周囲の人間も固まる。
落ちるはずの瓦礫が、空中で静止していた。
まるで時間が止まったみたいに。
そして。
コツ、コツ、と足音。
一人の男が歩いてきた。
黒い傘。
長いコート。
気だるそうな顔。
灰崎蓮司。
冬真の心臓が跳ねる。
蓮司は瓦礫を見上げる。
「邪魔」
ボソッと言った。
次の瞬間。
瓦礫が消えた。
粉々ですらない。
存在そのものが無くなったみたいに。
周囲が静まり返る。
蓮司は冬真を見る。
「避難終わったか」
冬真:「……あ、あぁ」
「なら下がってろ」
その声は静かだった。
でも。
逆らえる感じがしない。
冬真は思わず聞く。
「アンタ……何する気だ」
蓮司は少し考えた。
「仕事」
それだけ言って歩き出す。
空の巨大な目へ向かって。
冬真は気付く。
周りの隊員たちが、みんな黙って道を開けていた。
恐れている。
味方なのに。
その背中を。
「灰崎ィ!!」
湊が叫んだ。
蓮司が止まる。
湊の目は怒りで燃えていた。
「迅のこと、説明しろ」
空気が張り詰める。
冬真も息を呑んだ。
だが。
蓮司は振り返らない。
「嫌だ」
「……っ!!」
湊の影が広がる。
殺気が漏れる。
冬真が止めようとした瞬間。
蓮司がボソッと言った。
「朝霧」
湊の動きが止まる。
「お前、迅の最後の言葉覚えてるか」
湊の顔色が変わった。
蓮司は淡々と続ける。
「“みんなを頼む”」
冬真も覚えている。
迅は死ぬ直前、確かにそう言った。
蓮司がゆっくり振り返る。
その目は、ひどく冷めていた。
「敵がよく言うセリフだ」
冬真の頭が真っ白になる。
湊が怒鳴った。
「黙れェ!!」
影が襲いかかる。
だが。
届く前に。
全部、消えた。
湊の影そのものが。
「……は?」
湊が固まる。
能力が消された。
蓮司は眠そうに目を細める。
「今のお前じゃ勝てない」
「……ッ」
「頭冷やせ」
その時。
空の巨大な目が、ゆっくり開いた。
その瞬間。
世界が揺れる。
ドゴォォォォン!!!!
衝撃波。
建物が吹き飛ぶ。
冬真たちは耐えるだけで精一杯だった。
「ぐっ……!!」
蓮司だけが普通に立っている。
黒い雨の中。
コートを揺らしながら。
空を見上げていた。
その背中は。
不思議なくらい、寂しそうだった。
そして。
蓮司は小さく呟く。
「……また、お前か」
まるで。
昔から知っている相手を見るみたいに。