テラーノベル
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その頃、柊は高城不動産ホールディングスのオフィスビルにいた。ここには、高城不動産ソリューションズの本社も入っている。
本社での用事を済ませた彼は、先輩の板垣優斗と一階のカフェでコーヒーを飲んでいた。
「それって、あの有名シェフの京極君彦?」
「はい。新たな出店地を探しているそうです」
「はぁーっ、また店出すの? あそこ、結構ヤバいって聞いたけど……」
「そうなんですか?」
「彼が手掛けた店は、最近不調らしいよ。ほら、前に有名女優とのダブル不倫騒動があったろう? あの後から売り上げが急激に落ちてるって聞いたけどなぁ」
「ああ、そんな騒動ありましたね。彼は既婚者だったんだ」
「いや、不倫騒動の後に離婚してるから、今はバツイチだな。で、実物はどんな感じだった?」
「やたら派手な印象でしたよ。まるでタレントみたいな……」
「やっぱりそうかー。人は追い込まれるほど、自分を大きく見せようとするからな。羽振りがよさそうに大きく見せて融資を引き出す。これ、経営者の基本ね!」
「なるほど」
「倒産寸前の会社が、急にCMをバンバン打ったりするのも、まさにそれだよ」
「たしかに……そういう会社ほど、あっという間に消えたりしますからね」
「特に、親のすねをかじってコネで仕事を広げているような人間は、そんなもんだよ」
優斗は苦笑いをしながら続けた。
「お前んとこの女子社員、手を出されないように気をつけろよ。あの男、かなり手が早いって有名だからな」
「ははっ、まさか! 不動産会社の社員にまで手は出さないでしょう」
「いやいや、女癖の悪い奴は、女と見れば手当たり次第だぞ」
「…………」
優斗の言葉を聞いた柊は、京極の接客を花梨と美桜に担当させたことを後悔していた。
「おや? その顔は、何か心配なことでもあるのか?」
「いえ……」
「まさかお前、社内に気になる子がいるんじゃないだろうな?」
「違いますよ……」
柊はそう言って、コーヒーを一口飲んだ。
「そろそろお前も結婚すればいいのにって壮馬も言ってたぞ。こっちに戻ってきたらまた忙しくなるから、今のうちにってさ……」
「壮馬さんが? 参りましたね……俺は焦って結婚する気なんてないですから」
「くぅ~、さすがモテモテのプレイボーイ! 言うことが違うねぇ」
「からかわないでくださいよ。今は昔みたいに遊んでませんから」
柊はバツが悪そうに答えると、ふと気になったことを優斗に尋ねた。
「先輩は、優香さんと結婚を決めたきっかけって、なんだったんですか?」
ふいにそんな質問をされた優斗は、驚いて飲みかけのコーヒーを吹きそうになった。
「ど、どうした? お前がそんなこと聞いてくるなんて」
「いえ、ちょっと気になっただけです。どういうきっかけで結婚を意識するようになったのかなと思って」
「うーん、そうだな……。最初、俺と優香はなんでも話せる友達だった。男女の違いなんて意識せずに普通に話してたし、時には派手に喧嘩もした。そんなことが続くうちに、なんでも話せる間柄になっててさ。でも、いつしか彼女を女として見るようになってたんだ」
「そのきっかけは、何だったんですか?」
「俺が優香を意識し始めた時、まず最初に気になったのは声のトーンだ。聞き慣れたはずの声が、妙に心地良く感じてさ。それから、香水の香りや滑らかな肌を意識するようになって、だんだん女として意識し始めた。そうしたら、今まで見えなかった彼女の弱さが目につくようになったんだ」
「それで、守ってあげたいと思うようになった?」
「まあ、そんなところだ」
優斗は当時を思い出し、照れたように笑った。
「なんだよ、柊! お前、やっぱり気になる子がいるんだろ?」
「違いますよ……」
「隠すなんて水くさいぞ! でも、もしあの時の俺と同じような気持ちになってるなら、その気持ちは大事にしろよ。こんなこと、そうそうあるもんじゃないからな」
「わかってます……正直自分でも戸惑ってます……」
「ははっ、なんだよ、やっぱり気になる子がいるんじゃないか!」
「そう……なのかな?」
「なんだよ。はっきりターゲットが決まってるなら、アタックしたらいいじゃないか」
「そういうわけにもいきませんよ」
「まあ確かに、社内の子じゃ、やりにくいよなあ」
「はい……」
「でも、放っておいて別の男にかっさらわれたりしたら後悔するぞ! 例えば、京極君彦とかさ」
その言葉に、柊はドキッとする。
戸惑う彼の様子を見て、優斗が笑いながら言った。
「あはは、どうしちゃったの、柊くん! こりゃ、完全に恋の病にかかってるなー」
「先輩! からかい過ぎですよ!」
「あはは、ごめんごめん。まあでも、俺から言えるのはただ一言! 『自分に正直になれ!』……だよ」
(自分に正直に?)
柊が心の中でそう呟いていると、優斗は嬉しそうに目を細めながら、残りのコーヒーを飲み干した。
コメント
24件
はい,柊さん自分の心には素直になりましょうねー。花梨オンリーloveねー!
柊さん〜早速花梨ちゃんが京極に言い寄られてますよ|ノД・)ヒソヒソ 柊さんがいない時に京極を案内しないといけないのが💦 先輩の優斗さんの話しを聞いたら益々花梨ちゃんを女性として意識しちゃうんじゃない?(⁎˃ᴗ˂⁎)♡⤴︎⤴︎💕💕
優斗さんが登場だぁ~😃 ありがとうございます(._.) お元気ですか? 奥さまお元気ですか?