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ヒナは驚いた。
_ついに、世界が壊れたのか?
いや、とうに壊れているのか?
…分からないままであった。
_ヒナは辺りを見渡す
「…メイド達はいない。」
「…ルカ兄も、菓子ちゃんもいない…?」
「…?」
ヒナは不思議に思い、だだっ広い広間を歩いて、奥に見える廊下に出ようとした。
「…あれ?」
…そうしようとした瞬間、幼い子供が、ヒナの目の前に現れた。
_近づいて見てみると、正体は_幼い頃の自分であった。
体育座りをしたまま、俯いている少女だ。
(…あぁ…)
何となく、わかってしまう。
_何年も虐げられ、1人殻の中に閉じこもってしまった_そんな自分であることを
ヒナは少女の啜り泣く声を聞きながら、ゆっくりと少女に近づくと、優しく肩を叩いた。
「…大丈夫?」
ヒナは優しく声をかけた。
少女は思いきり鼻をすすると、ヒナの方を向き、少し驚いた。
「…あなたは…?」
少女はうるうるとした目のまま、聞いてきた。
ヒナは少し言い方に迷いながら答える。
「…ううん…大人になった…あなたって言えばいいのかな…。 」
ヒナは苦し紛れにそう言った。
「…おとな…」
幼いヒナは俯いた。
「…でも、わたしじゃないみたい」
幼いヒナは、今のヒナを見てそう言った。
「…私じゃないみたい、かぁ。」
ヒナは困ったように笑って、頷いた。
「…そうかもね。」
ヒナは、幼いヒナの隣に座った。
潤んだ目でこちらを見つめる幼いヒナが、なんだかおかしくて。
「…ねぇ、ちっちゃい私。」
何となく、話しかけてみた。
「…?」
「私はさ…どうしちゃったんだろ。」
「ずっと守るために頑張ってきたのに、その結果後悔して、苦しくなって…」
幼いヒナは、この広大なほど広がる館の広間で、静かにヒナの話を聞いた。
シャンデリアがかすかに揺れ、机の上には、沢山のご馳走が並べられ、ヒナかルカが小さい頃に描いたであろう、家族の絵が飾られている。
そんな中_幼いヒナ1人だけが、この場所にいる。
_奇妙な空間ではある、だが_2人にとっては、ひどく安心するような_心地良さがあった。
_ずっとここに居たら、幸せかな。
_なんて、つい、そう思ってしまうほどに。
「…ね、ちっちゃい私。」
「…なに?」
「…私、頑張れたかな。」
「私…間違ってなかったかな」
その声は、段々と弱いものに変わっていった。
「わたし…ヒーローになれてた、かなぁ…」
震えて、前と同じ子供に戻っていくかのようであった。
ヒナは涙ぐんで、弱音を吐露した。
_目をそらしていたのだ。
_自分は、ずっとこの場所にいる、雛鳥のままだったことから。
今こうやって、成長出来ているのかすら、彼女には分からなかった。
全てが空回って、誰かが悲しんで
_それがあまりにも嫌で、自分すら憎たらしがった。
_この場所を離れた時、どう向き合えばいいのかも分からないのに
_本当に、大人になれているのかすら、分からなかった。
「…」
幼いヒナは、泣くヒナを見つめた。
そして、呟いた。
「…そっか」
「…わかった、わたしが、わたしっぽくない理由。」
ヒナは驚いた顔をした。
「…え?」
あまりに腑抜けていて、素っ頓狂な声だ。
幼いヒナは、そんなヒナの手を握って、
「……おとな?のわたしは、だれかをまもる”ヒーロー”なんでしょ?」
「なら、いまのわたしとはちがうよ。」
「…え…」
「でも、私は、ずっと守られてばっかで… 」
「そんなの、みーんなそうじゃん!」
「まえ、授業でならったよ。」
「…みーんな、ルール?に守られてるんでしょ?」
「でもおとなのわたしは、それでもって、だれかを守ったんでしょ?」
「わかんないけど、それでいいんじゃないかなっておもう。」
「おとなとか、わかんないけどさ。」
「わたし、ヒーローみたいなひとがクラスにいたら、すっごくうれしいし、かっこいいなっておもう。」
「おとなのわたしは、ルカ兄みたいで…」
幼いヒナは、ヒナを見上げた。
陽だまりに照らされた天使のようで、あまりに綺麗だった。
幼いヒナは、思いっきり笑って見せた。
「すっごい、かっこいいよ!」
_幼いヒナのそういう眼差しが、まるでひまわりのようであった。
_それなら、今ここにいる”大人”は、彼岸花だろう。
_永久ともいえる、悲しみが宿っていたからだ。
_だが、 幼いヒナの言葉に、ヒナは目を見開いた。
「…私が、ルカ兄みたい?」
幼いヒナは頷いた。
_意識したことなどなかった。
ずっと、変わらないと思っていた。
ずっと、ルカを追い続ける存在のままだと
_そう思っていた。
だが、幼いヒナが、今のヒナに向ける目は _
ヒナが、何年、何十年と追いかけて続けてきた
ルカに対する目と_同じだったからだ。
「…私…」
「…おとなのわたしは、かっこいいヒーローだよ。」
「…う。」
「うん…っ…」
大人のヒナは、みるみるうちに涙を浮かべ、ほろほろと泣き出した。
「…ありがと…ありがとう…」
「んー?なんでないてるの?」
そんな幼いヒナの問いに、笑いながらううん、と首を振った。
「ごめんね。…迷ってて、ずっと。」
「私は…ルカ兄みたいにはなれないって、思ってたから…。」
「ずっと強がってるのに、どうしても、弱くて…誰かに頼りっきりだと、思ってたから…。」
「…んー、でも、ルカ兄だってそうだよ!」
幼いヒナは笑った。
「わたしの前でころんで泣いたり、紙でゆびを切って、いたがったりしてたもん!」
ヒナは、はっとしたように微笑んだ。
「…そっか、ふふ。」
少し、おかしそうに笑った。
「…そうだった、ね。」
「…あったなぁ、そんなこと…。」