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俺は食器を流しに置いて、歯を磨きに洗面所に向かった。
そのあと、るかがぬるっと起きてきて、
寝ぼけた目で洗面所の前に立つ。
「……どいて」
「おはよう、くらい言え」
「うるさい、まだ言語使える状態じゃない」
るかは無表情のまま歯ブラシをくわえて、
鏡の中の自分をぼんやり見てる。
昨日の夜中、寝そびれてふたりで徹夜の散歩をしたことは、
あえて、どちらも口にしなかった。
⸻
るかが制服のスカートを直しながら、玄関の鏡の前に立つ。
俺はネクタイをゆるく締めて、リュックを背負ってた。
「何時出るの?」
「ギリで行く。そっち早いんでしょ」
「今日は朝イチあるからな。電車混むな……」
「うわ、最悪。こっちは歩きで間に合うからマシだけど」
そう言いながら、るかは玄関の靴をつま先で整えてる。
その仕草に、なんとなく
“他人と暮らしてる”っていう距離感を思い出した。
「昨日の夜、外出たのバレたら怒られるかな」
「誰に?」
「先生とか」
「別に言わなきゃバレないでしょ」
「ふーん……あんた、そういうとこズルいよね」
「褒めてる?」
「褒めてない」
⸻
「じゃ、行ってくるわ」
「うん」
「……夜、特に用事なければ適当に」
「わかってる」
⸻
るかはひらりと手を振って、
ゆるい歩幅で通学路の方に消えていった。
玄関に残った空気は、
昨日の夜よりずっと軽くて、でも
ほんの少しだけ名残惜しかった。