テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
瑠衣が何者かに拉致されて以降、侑は眠れない夜を過ごしていた。
平日は仕事で立川音大や東京総芸大へ行き、動揺する心に蓋をして粛々とレッスンを熟す。
合間に瑠衣のスマホへ電話を掛けてみるが、電源が入っていないアナウンスが規則正しく伝えてくる。
(瑠衣…………一体どこにいるんだ……!!)
やがて大型連休に入ると自宅へ籠り、外出するのは、近所のコンビニへ食事を買いに行くだけ。
恋人が連れ去られてしまった侑には、大型連休なんて関係のない事。
——とにかく瑠衣が無事でいてくれればいい。生きて俺の元へ帰ってきて欲しい。
侑の望みはそれだけだ。
彼女がいない自宅は静か過ぎて、何も手に付かない。
もしかしたら、ひょっこりと瑠衣が帰ってくるかもしれないと思うと、連休中に外出する気なんて全くしなかった。
コンビニへ行く事すらも憚れらるくらいだ。
(ひとまず朝飯でも買いに行くか……)
侑は重い腰を上げ、財布とスマホ、自宅の鍵を掴んで外に出た。
いつも立ち寄るコンビニへ行く途中に、大きなホールの前を通るが、普段は閑散としているホールの正面玄関前に人が十人ほど集まっている。
(何だ……?)
侑はそのまま通り過ぎようとしながら、そこを見やると、人が倒れているようだった。
人混みの隙間から見えた、黒のTシャツワンピースから覗く細い脚に華奢な身体、ベージュブラウンのボブの女性。
気を失っているのか瞼を閉じ、ぐったりと横向きに倒れていた。
(まさか…………瑠衣!?)
行方不明当時と着ている服が違い、大分痩せ細ってしまっているが、それは紛れもなく瑠衣だった。
「瑠衣!!」
侑が彼女の側に駆け寄ると人混みは弾かれたように散り、侑と瑠衣の二人だけになる。
背中に腕を通して彼女を支え、目を覚ますまで声を掛け続けた。
顔は窶れ、目の下には濃いクマができた瑠衣から、思わず顔を背ける侑。
(まさか……この一週間…………ほとんど食わなかったのか?)
一回り小さくなってしまったと思われる瑠衣に、恐怖と不安が侑の胸中を駆け巡っていく。
「瑠衣! 起きろ! 目を覚ませ!!」
執拗なまでに侑は呼び掛けていると、彼女の瞼が小さく震え始めた。