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#ギャグ・コメディ
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北実side
北実「……起きろ南。」
朝の日差しが差し込む部屋で、俺は南実の布団を揺する。
返事なし。
北実「南…」
南実「……んー…」
少しだけ動くが、また静かになる。
北実「もう出る時間だぞ。」
南実「…あと五分……」
ここ最近は頑張って起きていたが、どうやら今日は限界らしい。
完全に布団と一体化している。
北実「五分じゃ済まないだろお前。」
南実「…済むから……」
済まない。
俺はため息をつき、布団を少し引っ張った。
南実「……寒い。」
北実「起きろ。」
南実「うぅ……やだ……」
しばらく攻防が続いたあと──
南実「……わかったよ…」
南実はようやく上半身を起こした。
髪はぼさぼさ、目も半分閉じている。
南実「森、だっけ……」
北実「そうだ。」
南実「また森かぁ……」
完全に寝ぼけた声でそう言いながら、のろのろと立ち上がった。
どうにか準備を終えて、寮のロビーに降りる。
すでに、ほとんどのメンバーが集まっていた。
利亜「お、来たんね!」
利亜が手を振る。
利亜「南実、顔死んでるんね…大丈夫なんね?」
南実「朝弱いんだよ……」
南実は机に突っ伏した。
国雲「また森らしいアルよ。」
国雲が腕を組んで言う。
国雲「しかも前とは別の場所アル。」
空斗「森ばっかだね。」
空斗が肩をすくめる。
廉蘇「まぁ、森は魔物多いから依頼出しやすいんだろ。」
廉蘇が軽く言う。
海斗「前は見事にバラけたからな。」
海斗が静かに言った。
海斗「今回は気をつけないとな。」
陸斗「当然だ。」
陸斗が短く答える。
陸斗「はぐれるな。それだけ守れ。」
軍人みたいな指示に、翡翠がこくこく頷いていた。
日和「森かぁ。」
日和が楽しそうに言う。
日和「かわいい動物とかいるかな?」
太希「魔物しかいない可能性が高いぞ。」
太希が真面目に返す。
日和「えー!」
太希「観光ではないからな。」
那知が髪をかき上げる。
那知「だが、私のような優秀な者がいれば問題ないだろう。」
太希「…はいはい。」
廉蘇が笑う。
廉蘇「自分で言うなよ。」
那知「事実だろう?」
廉蘇「ほー、ゴブリンでも優秀になれるのか。」
那知「あ?やるか、オーク野郎。」
清雨「また始まったアル…」
清雨が呆れた声を出す。
湾海は静かに微笑んでいた。
枢臣「全員揃ったな。」
枢臣が確認する。
枢臣「依頼内容は単純だ。森の魔物の数が増えているらしい。」
海斗「調査と、可能なら討伐。」
海斗が補足する。
帝偉「長居はしないほうがいいな。」
帝偉が腕を組む。
帝偉「危なそうならすぐ引け。」
零王「了解なんね!」
零王が元気よく手を上げた。
枢臣「それじゃあ──」
枢臣が言う。
枢臣「出発しよう。」
米太「おー!」
米太が勢いよく叫ぶ。
米太「Forest mission!」
嗣行「…うるさい。」
嗣行がぼそっと言った。
俺は軽く息を吐く。
また──森だ。
だが、初めてではない。
少し慣れた空気のまま、俺たちは寮を出た。
王都を抜け、
そして──
前とは違う森へ向かった。
森に入って、しばらく。
陸斗「……来るぞ。」
陸斗が低く言った。
次の瞬間、草むらが大きく揺れる。
飛び出してきたのは、スライムの群れだった。
空斗「うわ、朝一でそれ?」
空斗が笑う。
空斗「柔らかそうだから楽だね!」
だが、次の瞬間には動いていた。
落ちていた石がふわりと浮き、空斗の手の動きに合わせて一直線に飛ぶ。
ドッ、と鈍い音。
スライムが弾けた。
空斗「おー、ナイスショット!」
零王が鉄の棒を振り回しながら突っ込む。
零王「ボクも行くんね!」
陸斗「突っ込みすぎるなよ。」
陸斗が刀を抜く。
スッ、と一閃。
近づいてきたスライムが、音もなく真っ二つになった。
海斗「陸斗、二体来てるぞ。」
海斗が短く言ってすぐに銃声。
パンッ。
ゴブリンの額を正確に撃ち抜いた。
陸斗「まだ来るぞ海斗。」
陸斗の言葉通り、今度はコボルトが数体飛び出してくる。
利亜「ボクに任せるんね!」
利亜が笑った次の瞬間、姿が消えた。
次の瞬間には敵の背後にいる。
短剣が喉を切り裂く。
琉聖「次は右だよ!」
琉聖が声を上げる。
利亜は迷いなく跳び、振り向きざまにもう一体を仕留めた。
利亜「ナイス判断なんね!」
琉聖「う、うん!」
その横で──
ドゴォン!!
巨大な音。
米太「うおおおお!!」
米太がロングソードを振り下ろす。
衝撃と同時に風圧が広がり、ゴブリンが吹き飛んだ。
米太「テンション上がってきたー!」
加奈登「兄さん!」
加奈登が慌てて駆け寄る。
加奈登「前出すぎだよ!」
米太「大丈夫大丈夫!」
加奈登「大丈夫じゃないよ!」
加奈登は戦斧を構えながら、兄の周りを守るように立つ。
加奈登「危ないのは僕が止めるから!」
米太「Wow、頼もしいぜ!」
その時。
嗣行「うるさいぞ。」
低い声。
嗣行だった。
巨大な大剣が横薙ぎに振られる。
一瞬、位置がずれたように見え──
次の瞬間、オークの胴体が斜めに裂けた。
ドサッ。
だが背後からゴブリンが跳びかかる。
紅葉「嗣行兄さん危ない!!」
紅葉の声。
次の瞬間、糸が空を走る。
引き寄せられた木の枝がゴブリンを叩き落とした。
紅葉「……」
紅葉は静かに立っている。
しかし目が笑っていない。
紅葉「嗣行兄さんを傷つけようとしたね?」
ゴブリンに向ける声は冷たい。
紅葉「許さない。」
ドゴッ。
枝がもう一度叩きつけられ、ゴブリンは完全に沈んだ。
紅葉「嗣行兄さん、大丈夫?♡」
嗣行「……問題ない。」
嗣行は短く答える。
紅葉は満足そうに微笑んだ。
その近くではレイピア同士が鋭く動く。
愛蘭「ずいぶん遅いね。」
愛蘭が言う。
叶英「そちらこそ遅れていますよ。」
叶英が笑う。
二人は同時に踏み込み、
愛蘭が地面に赤い線を描く。
その線が光り、二人の身体が一気に加速した。
ズンッ!!
ゴブリンの群れが一瞬で切り裂かれる。
愛蘭「動きだけはいいね?」
叶英「貴方も同じでしょう?」
軽く睨み合う。
その横で──
廉蘇「だからお前は雑なんだよ!」
廉蘇が叫ぶ。
巨大な鎌を振るい、爆音を発生させる。
音の衝撃でオークが吹き飛ぶ。
那知「雑なのは貴様だ!」
那知が銃を撃ちながら怒鳴る。
那知「戦術というものを──」
バンッ!
那知「理解しろ!」
廉蘇「うるせぇナルシスト!」
那知「誰がナルシストだ!」
完全に口喧嘩。
零王「うるさいんね2人とも!」
零王が鉄のハンマーを振り回す。
零王「魔物まだいるなんね!」
那知「お前は少し黙れ!…というか、なんでハンマーなんだ!」
零王「できたからなんね!」
那知「理由になってない!」
その横で。
太希「利亜! 後ろ!」
太希の銃声。
ゴブリンが弾かれる。
利亜「太希!助かったんね!」
太希「油断するな。」
太希は真面目な顔のままだ。
太希「お前は動きが雑すぎるんだ。」
利亜「もう、うるさいんね!」
その間にも、魔物は次々と現れる。
ホーンラビット。
巨大な狼型の魔物。
ゴブリンシャーマン。
だが──
南実「北、いくよ!」
南実の声。
次の瞬間、俺は腕を掴まれてぶんっ、と放り投げられる。
同時に体が一気に加速する。
風が唸る。
そのまま俺は戦鎚を振り上げる。
触れた瞬間、重さを一気に増やす。
ドォンッ!!
地面ごと、オークが潰れた。
空斗「威力やば!」
空斗が笑う。
陸斗「空斗、まだ来てる。」
陸斗が言う。
しかし数分後。
最後のコボルトを倒すと、森が静かになった。
帝偉「……終わりか?」
帝偉が周囲を見回す。
零王「今回はかなり多かったんね。」
零王が鉄武器を消しながら言う。
海斗が少しだけ眉をひそめた。
海斗「……妙だな。」
南実「何が?」
南実が聞く。
海斗は森の奥を見る。
海斗「……いや。」
少し考えて、
首を振った。
海斗「気のせいだ。」
だが、さっきの魔物たち──
どこか、
逃げているようにも見えた。
誰も、まだ気づいていなかった。
森の奥に、
何かがいることに。
森から出ようとした、その時だった。
南実「……あれ?」
南実が足を止める。
北実「どうした?」
俺が視線を向けると、南実は森の奥を指さした。
南実「なんか、あれ見て。」
視線の先。
木々の隙間から、妙に目立つものが見える。
日向「……ピンクの建物…ですか?」
日向が目を細める。
森の中にあるはずのない、派手な色。
しかもかなり大きい。
海斗「建物だと……?」
海斗が呟く。
よく見ると、それは確かに建物だった。
しかも普通の家ではない。
塔のような装飾、旗のような布、丸い屋根。
どう見ても──
北実「……サーカス?」
俺が言った瞬間だった。
零王「行くんね!!!」
零王が全力で走り出した。
利亜「あっ!」
琉聖「ちょっ⁈」
それに続くように──
南実「サーカス!? 行く行く行く!!」
南実が突っ走る。
日和「え、なにそれ面白そう!」
日和も一緒にダッシュ。
米太「サーカス!? それは見に行くしかないだろ!!let’s go!!」
米太が大ジャンプして走り出す。
利亜「ちょっと待って!ボクも行くんね!」
利亜も勢いよく追いかける。
翡翠「ヒスイもー!!」
翡翠も走り出した。
日向「待ってください日和、翡翠さん!」
日向が即座に追いかける。
陸斗「翡翠、走るな!危ないぞ!」
陸斗が追う。
陸斗「日和も止まれ!!」
二人まとめて捕獲対象。
加奈登「兄さん!!」
加奈登が慌てて追いかける。
加奈登「転ぶよ!?」
太希「利亜ァ!!」
太希も走り出す。
琉聖「勝手に行かないで!父さんも止まって!」
琉聖もダッシュ。
──数秒で、半分以上が走っていった。
残されたメンバーはしばらく沈黙する。
空斗が遠くの追いかけっこを眺める。
空斗「カオスだね。兄さん行っちゃったし。」
海斗「面倒だな…」
海斗も頷く。
湾海「……どうする?」
湾海が静かに聞いた。
俺は少し考え、ため息をつく。
北実「このまま帰るわけにもいかないしな…」
海斗「説得するのも面倒だろうな」
廉蘇が肩をすくめる。
廉蘇「どうせあいつらはもう行く気満々だろ。」
枢臣「……だろうな。」
枢臣がスナイパーライフルを担ぎ直す。
北実「少しだけ見て帰るか。」
帝偉「そうだな。」
帝偉も同意する。
帝偉「問題がなければそれでいい。」
俺たちは歩き出した。
北実「行こう。」
残りのメンバーも仕方なく後を追う。
ゼインside
森の中央。
昨日、俺のスキルで移動させた桃色で派手なサーカス劇場は、木々の間に堂々と鎮座している。
普通の人間が見れば、ただの異様な建物だ。
だが中身は──
狂人の巣だ。
俺は舞台裏の廊下を歩く。
今日、この場所に勇者が来る。
昨日ラフレン様が言った言葉が頭に残っている。
ラフレン「遊ぼうか。」
……あの人は本気だ。
伝説の勇者。
そんな相手に「遊び」と言える存在は、世界でも数少ないだろう。
そして──
今回ばかりは、普段なかなか揃わない団員も全員いる。
廊下の先から、すでに騒がしい声が聞こえる。
舞台裏。
そこは完全なカオスだった。
エリシア「わぁ……今日も素敵な夢になりそう。」
静かに微笑んでいるのは
エリシア・ノクティル。
優しすぎる看護師のような口調だが、中身は精神を夢に閉じ込める狂気の救済者だ。
ヴァルツ「勇者の人格……どんな仮面になるかなぁ?」
白黒の髪を揺らしながら仮面を並べている男。
ヴァルツ・マスケラ。
人格を仮面で上書きする狂った芸術家。
カノン「静粛に。舞台は音で完成する。」
燕尾服姿で静かに指揮棒を振るっているのは
カノン・ディアストラ。
戦場を音楽として楽しむ狂った指揮者。
その隣では──
リゼル「待って、今の配置違う……いや違わない?……あれ?」
頭を抱えている女性。
リゼル・クロノヴァ。
過去10秒を改変する能力のせいで、自分の記憶すら信用できない。
ミオル「勇者の身体構造……楽しみですね。」
白衣の男。
ミオル・ヴァイゼン。
治療と実験の境界が消えた狂医者。
ガルド「勇者!? 強ぇのか!? 強ぇよな!?」
大声で笑っている筋肉男。
ガルド・ブレイヴァ。
純粋な戦闘狂。
その天井には──
アノマ「天井は床。床は天井。勇者は上。いや下。違う。自分は天井。」
壁を歩いている存在。
アノマ・ゼログラ。
この団で一番危険な狂人だ。
ファリナ「ふふ、幻獣たちも喜んでるわ。」
優しく微笑む女性。
フェリナ・ルーミエラ。
幻獣を無限に生み出す優しい狂人。
ラズ「今日の運勢は……お、ジョーカーだ。」
トランプを回している男。
ラズ・ジョーカーズ。
運命すら賭けるギャンブラー。
ヴェルク「……勇者の血、追尾が楽しそうだ。」
壁に武器を並べている男。
ヴェルク・ハウンド。
狩猟本能の塊。
シエラ「毒は何種類にしましょうかしら。」
優雅に瓶を並べている女。
シエラ・トキシア。
苦しみを美と呼ぶサディスト。
ノアズ「勇者……ポケットに入るかな。」
ポケットを覗いている男。
ノアズ・ポケット。
何でも異空間に収納する収集狂。
ルミナ「光の演出は私が担当するわ。」
傲慢な態度の女。
ルミナ・セラフィア。
自分を神だと思っている奴だ。
ピノ「ぼくの兵隊、勇者と遊びたいって!」
小さな少年。
ピノ・マーチェ。
玩具を兵器に変える戦争好き。
グラン「武器奪う役は俺だな!」
巨大な男。
グラン・マグネド。
磁力で武器を奪う略奪者。
そして──
ミラグ「鏡の中の俺が言ってる。勇者は面白いって。」
鏡を覗きながら話している男。
ミラグ・スペクトラ。
鏡の中を移動する狂人。
……全員いる。
この団の狂人たちが。
その中心に立っているのは──
ラフレン様。
桃色の髪を揺らし、舞台中央でくるりと回る。
ラフレン「みんな準備いい?」
団員たちが一斉に騒ぐ。
エリシア「夢を見せます!」
ヴァルツ「人格作る!」
カノン「音楽は完成だ。」
シエラ「毒も完璧よ。」
ガルド「戦わせろォ!!」
完全に収拾がつかない。
だがラフレン様は楽しそうに笑う。
ラフレン「いいねぇ。今日の舞台、最高だよ!」
そのときだった。
外が騒がしくなる。
団員全員の動きが止まる。
ピノが言う。
ピノ「……来た?」
ラズがカードをめくる。
ラズ「お、ハートのエース。」
ガルドが拳を鳴らす。
ガルド「勇者か!!」
俺はゆっくり息を吐く。
入口の方から、声が聞こえる。
森の奥。
勇者たちが、ついにこの劇場を見つけたらしい。
ラフレン様は、くすっと笑う。
そして舞台の幕を指で弾く。
ラフレン「さぁさぁ皆さん。」
声が弾む。
ラフレン「まずは普通にショーをやろうか。」
団員たちが一斉に笑う。
狂気のサーカス。
観客は──
勇者パーティー。
ラフレン様は両腕を広げる。
ラフレン「開演だよ。」
北実side
森を抜けると、それは想像以上だった。
巨大な建物。
いや、劇場と言った方が正しい。
壁は派手なピンク。
屋根には金色の装飾。
カラフルな旗が風に揺れている。
そして入り口の上には、大きな看板。
そこに書かれていた文字は──
南実たちは、すでにその入り口の前で立ち止まっていた。
まるで今にも中へ突撃しそうな勢いで。
ゼインside
俺は舞台袖から、入口の方を見ていた。
──ついに来た。
外が騒がしい。
森の方から、楽しそうな声が聞こえてくる。
どうやら、本当にサーカスを見に来たらしい。
警戒の気配は……薄い。
いや、数人はちゃんと周囲を見ている。
だが大半は──
完全に観客だ。
俺は思わず口元を歪めた。
ゼイン(……いいじゃないか。)
胸の奥で、もう一人の俺が暴れそうになる。
戦いたい。
試したい。
壊したい
だが──
俺は拳を握って、それを抑え込む。
ゼイン(まだだ。)
今日はショーだ。
その後で──遊ぶ。
俺がそう考えていると、隣から軽い声がした。
ラフレン「来たねぇ。」
振り向くまでもない。
ラフレン様だ。
ピエロの仮面の下で、楽しそうに笑っている。
ラフレン「思ったより多いなぁ。最高じゃん。」
ゼイン「……そうですね。」
俺は短く答えた。
舞台の幕の向こう。
客席の扉が開く。
勇者達が次々と入ってきた。
驚くほど普通の顔をしている。
楽しそうに客席を見回す者。
舞台装置を見て感心している者。
警戒しつつも入ってくる者。
だが、誰も──
ここが戦場になるとは思っていない。
ラフレン様が一歩前へ出る。
ラフレン「じゃあ、始めよっか。」
次の瞬間──
舞台の幕が勢いよく開いた。
ラフレン様が両腕を広げる。
そして、劇場全体に響く声で叫んだ。
ラフレン「Ladies & Gentlemen!!」
照明が一斉に灯る。
ラフレン「笑いと狂気のスペシャルステージ――開幕だよ〜!!!」
客席がざわめく。
その瞬間、音楽が鳴り始めた。
カノンが舞台中央に立つ。
燕尾服を翻し、優雅に指揮棒を振る。
カノン「ようこそ。桃影のサーカス団のショーへ。」
次の瞬間。
音が刃になった。
空中に浮かぶ音符のような衝撃波が舞い、
舞台装置を正確に切り裂いていく。
木の板が綺麗に分断され、
落ちる前に再び音で支えられる。
客席から「おお…!」と声が上がる。
カノンは優雅に一礼した。
カノン「本日の演出担当、カノン・ディアストラです。」
音楽が止まり、カノンが上を向く。
その瞬間──
舞台の天井を誰かが歩いた。
アノマだ。
重力が狂っている。
天井を歩きながら、意味不明な言葉を呟いている。
アノマ「逆……右……世界……落ちない……」
次の瞬間。
客席の上に置かれたボールが、
突然上に落ちた。
天井へ。
そして横へ。
さらに壁へ。
完全に重力が狂っている。
観客席から笑いと驚きが起きる。
アノマはそのまま天井に座り込み、
アノマ「ラフレン、上、右、面白い。」
と言っていた。
ゼイン(……相変わらずだ。)
次は軽い足音。
舞台の中央に出てきたのは──
エリシアだ。
眠そうに微笑みながら観客を見ている。
エリシア「大丈夫……怖くないよ。」
彼女が手を伸ばした瞬間、
観客の数人が──
ふっと眠る。
夢を見ている。
その夢は舞台に映し出される。
理想の景色。
美しい思い出。
観客は幸せそうに笑っている。
エリシアは優しく囁いた。
エリシア「ここにいればいいの。」
俺は腕を組む。
ゼイン(……精神系のショーは危ない気もするが。)
客席は普通に楽しんでいる。
まあいい。
次に飛び出したのはピノ。
ピノ「みんなー!遊ぼう!」
床から大量の玩具が現れる。
兵隊、車、ロボット、ぬいぐるみ。
それらが一斉に動き出す。
100体の玩具軍団。
戦車の玩具が紙吹雪の砲撃を撃ち、
ロボットが踊り、
兵隊が行進する。
子供の観客が大はしゃぎしている。
翡翠「すごーい!おもちゃがいっぱい!」
ピノは満足そうだった。
ピノ「ね!楽しいでしょ!」
次に舞台に現れたのはラズ。
トランプを取り出す。
ラズ「さーて、今日の運勢は?」
カードを引く。
ハートの10。
次の瞬間、
ハート型の爆発が舞台に広がった。
花火みたいな光。
ラズ「お、当たり。」
ラズは笑う。
ラズ「次は誰かな〜?」
その後もショーは続く。
ヴェルクが空中のナイフを分裂させ、
フェリナが幻獣を召喚し、
グランが磁力で鉄球を操り、
シエラが毒を花のように噴き上げ、
ノアズがポケットからあり得ない量の物を出し、
ミラグが鏡の中から現れて観客を驚かせる。
ミオルは再生を操作して腕が千切れては戻るという狂ったマジックを披露し、
リゼルは
リゼル「さっきの動き、失敗したからやり直す…」
と言って時間を巻き戻して再演した。
ガルドは拳を振り上げ、衝撃波で巨大な火の輪を粉砕。
観客席から拍手が起きた。
ゼイン(……盛り上がってるな。)
そしてラフレン様が再び舞台に出る。
手には黒い箱。
ラフレン「さてさて!本日の特別マジック!」
箱の中に手を入れる。
ラフレン「出てくるのは何かな?」
取り出したのは──
巨大な土の塊。
客席が爆笑する。
ラフレン「おっと!外れ!」
もう一度。
今度は短剣。
ラフレン「危ない危ない!」
さらにもう一度。
今度は風船。
ラフレン様はそれを客席に投げた。
歓声が上がる。
ラフレン「ランダムボックス!何が出るかは神のみぞ知る!」
そして最後に、
ラフレン様が俺を見る。
ラフレン「ゼイン。」
俺は舞台に出た。
観客の視線が集まる。
俺は軽く肩を回し、手を振る。
その瞬間。
劇場の装飾が一瞬で入れ替わった。
椅子
旗
照明
舞台装置
全部が位置を変える。
劇場が一瞬で別の構造になる。
観客が驚きの声を上げる。
俺は腕を下ろした。
ラフレン様が拍手した。
そしてラフレン様は再び観客を見渡す。
仮面の奥の笑顔が──
少しだけ狂っていた。
ラフレン「さぁて。」
声が低くなる。
ラフレン「ショーは楽しんでもらえたかな?」
観客席を見る。
勇者達の顔。
楽しそうな者。
驚いている者。
ラフレン様は腕を広げた。
ラフレン「ここからは──」
くすっと笑う。
ラフレン「第二部の始まり。」
俺の胸の奥の何かが、
完全に目を覚ました。
ゼイン(……来る。)
ラフレン様が囁く。
ラフレン「さぁ、遊ぼうか。」
to be continue