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「お浜さん、今日は、お戻りが早かったですね」
櫻子が照れ隠しを兼ねてか、お浜へ言った。
「ああ、珠子が、帰らなきゃ行けないと、ごね出してねぇ。まあ、お玉も、疲れてる感じだったから、引き上げて来たのさ」
「そうですか。お玉ちゃんは、確かにまだ小さいから、大人のようにはいきませんよね」
心得てるよ、安心おし、と、お浜は、櫻子へ微笑みかけるが、珠子はその場の空気などお構いなしで、何故か、奥向き、台所へ声をかけた。
「ヤスヨ!!出来てるでしょうね!!」
珠子の催促に、ヤスヨが何か包みを持って、転がり出て来る。
「は、はい!珠子お嬢様」
珠子は、ヤスヨから、包みを引ったくると、これまた、声をあげた。
「虎!!人力出してっ!!」
そして、小走りで玄関へ向かった。
「ヤスさん、なんだい?ありゃ?」
お浜の問にヤスヨも、訳がわからないのだと、困り顔で答えた。
「お嬢様が、弁当を作くっておけといいだしてねぇ。龍さんに届けるんだとか……」
「へ?!龍へ?!」
早くしなさいと、珠子が虎へ当たり散らす声が聞こえて来る。
「神宮建設の現場へ……行くつもりなのかい?」
「なんでも……龍さんとの約束だからって……」
本当に、訳が分からないようで、ヤスヨは、困りきっていた。
「はあ……龍と約束?!こりゃ、いよいよ燃え上がっちまったか……。っていうか、龍のやつと、いつ約束なんかしたんだろ?」
お浜が、なかばぼやくように呟くと、金原が、肩を揺らしながら、言う。
「……珠子さんにも、春が来たのさ。だが、相手が、うちの龍だとは……」
「……弁当で、気を引こうって、乙女心かねぇ」
えっ、と、お浜の一言にヤスヨが声をあげ、渋い顔をした。
「じゃあ、お浜さん、ずっと、あたしが、弁当作るってことですか?!珠子お嬢様は、炊事なんて、できないどころか、はなからやる気ないんですよ?!」
「なら……」
櫻子が、呆れ果てているヤスヨとお浜へ言った。
「私がお作りします。龍さんのお食事、どうされているのか、気になっていたんです……」
いやいやいや、と、お浜、ヤスヨ、おまけに、お玉までが、首をフリフリ、櫻子を止めた。
「……あの?」
「手出し無用って事だ」
金原に止めのように言われ、櫻子は混乱した。
「珠子、龍さん、龍さん!!」
お玉が、きゃっきゃと楽しげに笑いながら、袂から小さな紙袋を取り出すと、中身をばらまいた。
「うわっ、痛てっ!!」
パラパラとそれは、宙を舞って、金原の頭に降り注ぐ。
「まあ!おはじき!お玉ちゃん、これ、どうしたの?」
櫻子は、散らばったおはじきを集めながら、お玉を見る。
「あい!虎ちゃん!!」
どうやら、虎に買ってもらったようなのだが、お玉は、変わらず、おはじきをまき続けた。
「あ!お玉ちゃん!もしかして!」
櫻子が、金原へ視線を移す。
「……ひょっとして……あの、おひねりのつもり……なのか?」
はぁ、と、金原は息をつく。
1,983
#宵待ち亭
#夢
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