その夜西村はセルリアンガーデンホテルの一室にいた。
今夜は山岳出版編集部の朝倉亜由美とホテルでディナーを楽しんだ後、亜由美を部屋へ誘ってみた。すると思っていた通り亜由美はのこのことついて来た。
亜由美が初対面の時から西村の事を異性として意識していたのには気付いていた。だから今夜誘った。しかしこんなにあっさりと落ちるとは思ってもいなかったので西村も少し驚く。
激しい情事が終わると亜由美は西村の胸に手を置き身体をピッタリとくっつけて来る。亜由美の顔にかかった髪の毛を優しく取り払ってやると亜由美は甘えたような声を出してから話し始めた。
「あなたが食事の時に言っていた『peak hunt5』の佐伯ってね、むかつくのよ」
亜由美は身体の関係を持った途端西村に気を許したのか聞いてもいない事を自分から話し始めた。
「むかつくって、何が?」
西村を聞いて亜由美は憤慨しながら言った。
「前に一緒に仕事をした時にね、私の方からお食事に行きませんかって誘ったの。そうしたら忙しいとかなんとか言って断って来たのよ。女に恥をかかせる男って最低!」
亜由美は西村の左腕に自分の胸をグイグイと押し付けてきたので西村はその硬く尖った部分を指で刺激してやりながら思った。
(今俺が抱いた女は佐伯にさえ相手にされなかった女なのか?)
西村は思わず苦笑いをする。しかしその顔を隠しながら言った。
「もう決まった人がいるんじゃないか? もういい歳の男だし」
「ううん、いないと思う。だって長野にロケに行った時に宿の女に色目を使っていたもの!」
亜由美は更に不機嫌になる。
「長野?」
「そう。佐伯が定宿にしている山荘があるんだけどね、そこで働いていたシングルマザーよ。若すぎて子供みたいな子! ああいう若いだけが取り柄の女が趣味なのかなって思ったら食事に行かなくて正解って思ったわ」
亜由美がうんざりといった表情をする。
(それ以前にお前は相手にもされなかったんだろう?)
西村は思わず笑いがこみ上げてくる。そして必死に笑いを抑えると亜由美を冷ややかに見つめた。
(シングルマザーは優羽の事だな……)
その時西村は、去年信濃大町の道の駅で5年ぶりに優羽と再会した時の事を思い出していた。
あの時確かに優羽は岳大といた。優羽と岳大、そして小さな男の子と三人でまるで仲の良い家族のようにアイスクリームを食べていた。
あの時の三人の楽しそうな様子が西村の頭にちらつく。
あれは6~7年前、西村が今の地位に着く前に社長である父親に言い渡されてMDの仕事をしている時の事だった。
MDは、マーチャンダイザーの略でファッション業界のマーケットやトレンドを分析し商品企画や販売計画、そして予算や売り上げ等に関わる全ての事を取り仕切るかなり重要なポストだった。
MDは定期的にデパート内の店舗を巡回して店の状態をチェックする。また現場のスタッフとコミュニケーションを取る事も必須だった。
西村はこのMD時代に優羽と知り合った。
西村はどこに行ってもちやほやされた。西村が御曹司である事は優羽には言っていなかった。しかし一部の社員はその事を知っていたので西村を見る度に彼の周りに群がり色仕掛けをしてくる。西村はどこへ行ってもどんな場所でも常にモテていた。だから西村は既婚でありながらいつも女遊びを繰り返してた。
しかし優羽と出会ってからの西村は変わった。西村は優羽に一目ぼれした。そして優羽を自分のものにする事を決意する。その為にそれまで遊びで付き合っていた女達とは手を切った。
しかしこれまでの西村の手口は優羽には全く通用しなかった。優羽は西村に全く興味を示さなかったのだ。
西村は自分に振り向かない優羽の事をなんとか落とそうとしてあの手この手でチャンスを作っていく。
優羽の警戒心を解く為に西村は偶然の出会いを何度も仕掛ける。それはデパートの社員食堂だったり帰り道に偶然一緒になったりと、あくまでも偶然出会った素振りをした。
何度も偶然が重なりそこから徐々に会話が増えていき優羽の実家が信濃大町であることを知った。信濃大町の隣町にちょうど西村家の別荘があったので、西村はその町の出身だと嘘をついてさらに優羽と親睦を深めていった。そして二人は交際を始める。
西村は純粋無垢で初心な優羽が可愛くて仕方がなかった。優羽は他のどんな女よりも西村を夢中にさせた。
優羽と過ごす時間は西村にとってこの上ない癒しの時間になっていった。
西村は既婚者だったが優羽にはバツイチだと嘘をついて付き合い始めた。
西村の妻はとても美しく上品で優しい申し分のない女だった。しかし妻は取引先の会社の社長令嬢だったので妻に対して常に気を使う関係は西村にとってストレスでしかなかった。そして家に安らげる場所がなかった。
そんな西村は次第に優羽にのめり込み心から優羽の事を愛し大切に思うようになっていた。
そんな時優羽の妊娠が発覚した。
そこで急に目が覚めた。
どう考えても優羽とは一緒にはなれないとわかっていた西村は突然優羽の元から去った。
その後優羽がどうなったか気にはなっていた。
しかし優羽にはスタイリストになりたいという夢があったので、てっきり子供の事は諦めたと思っていた。
しかしあの日信濃大町で小さな男の子といる優羽を見て西村の身体に衝撃が走った。あの男児は自分の息子なのだとすぐにわかった。
西村がずっと黙っている事に苛立った亜由美は甘えるように西村に身体を擦りつけると言った。
「ねぇ、私またしたくなってきちゃった……」
亜由美の言葉で西村は急に現実に引き戻される。それと同時に西村は萎えていた。
こんな女と寝た自分が馬鹿だったのだと思う。
西村がしばらく躊躇しているとしびれを切らした亜由美が西村の上に跨ってきた。
そんな亜由美の事を冷めた目で下から見つめていると、亜由美は自分から西村を絡め取ってきた。
仕方なく西村が下から突き上げると亜由美は安っぽく「アンアン」と声を出してよがり始めた。
そんな亜由美を冷ややかに見つめながら西村は優羽と純粋に愛し合っていたあの頃に思いを馳せていた。
コメント
6件
のめり込み心から愛するようなり大切に思うようになってった。 嘘だらけの最低な男だと思うけど、けど、これだけは事実であって欲しいと思います。そうじゃないと2人が報われないと思うから…
逃した優羽ちゃんは大きかったけど、それ以前に御曹司西村はチヤホヤされて浮気や不倫、挙げ句の果てに優羽ちゃんを騙して付き合って妊娠したら逃げる💨なんて男の風上にも置けない💢😡😤 朝倉も既婚者の西村に誘われてベッドを共にしたけど、やりたい放題の西村が優羽ちゃんを回想する事すら気持ち悪い🤮 流星くんは優羽ちゃんの子供であって西村は関係ない。認知もしてないんだからこれ以上2人に関わらないでほしい😡🗯️
「アンアンと」声を出して→「アンアン」と声を出して