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「こちらも素敵ですよー。ハイネックタイプですが、腕や胸元のギリギリにまでリーフレースを使っているんですー。後方から見た時のシルエットは長めのスカートっぽいデザインですが、前から見るとミニスカートタイプになっているので、魔物との戦闘時にはショーツがチラ見えして沸ること間違いなしですよー。こちらの商品も男性向けを展開しているので、夫婦でお揃いの物を着て、周囲にラブラブアピールする事が可能ですー」
こちらがドン引き状態になっている事に気が付いていないのか、そもそも気にしていないのか。アンズは構わず服を選んでは、僕らの元に次々持って来る。オススメポイントはイカれているが、デザインはどれも文句なしの品ばかりだ。ルスのまな板胸をちゃんと考慮して選んでいるし、どれも子供っぽい細身のボディラインを綺麗に見せてくれそうだ。ただ、ルス向けの服を最初にチョイスしているせいで、男性向けに作られたお揃いのデザインの方が僕に似合っているかどうかは、正直ちょっと微妙なものも混じっている。
「んー…… 。だけど、どれも『コレだ!』って感じじゃないですねぇー」
色々と選びながら本人もその事に気が付いていたみたいで、アンズが棚に服を戻しながら唸りをあげた。
「そうだー。いっそ、オーダーメイドにしましょうかー。お二人とも推せるくらいに素敵な雰囲気ですから絶対楽しそうですしー。支払いは材料費と人件費だけで結構なので、どうですかー?」
「え?で、でも」
背後から一切出て来ないまま、僕の服をギュッと掴んでルスが困った声色で呟いた。オーダーメイドの装備はどうしたってお高いので、割り引いてもらえるとなるとどうしたって気になるが、初対面の者にそこまで甘えてもいいんだろうか?という気持ちが邪魔をしているのだろう。もしくは単純に、『こんな変質者に頼んでも大丈夫なんだろうか?』という怖さがあるのかもしれない。
「今この場で即ご依頼頂けたら、オマケで総レースのショーツとえっちなデザインのフロントホックタイプのブラも作っちゃいますよー。ここは敢えて幼児体型を活かしてのクマさんパンツもアリかもですけど、ソレは追々でー。奥様は脚のラインが綺麗なのでガーターベルトもつけちゃいましょうかー。そちらは靴下を履いたままのえっちとかをするのにオススメしますー。旦那さん向けの装備は雄っぱいを強調する物にしましょうねー。逞しい胸に刺激されて奥様が昼間から濡れちゃうでしょうから、勢い余って青姦って流れを期待して、後衛職向けデザインにとかに拘るのはやめて、すぐに出せる様に是非とも露出度高めの方向でいきましょうかー」
(…… コイツは、何を言っているんだ?)
接客トークとは到底言えない発言の変態度合いが一気に加速した。当人は興奮気味なのか、穏やかな口調はそのままながらも鼻息は荒い。
「い、いや、だけど流石にそこまでして頂くのは…… 」
獣耳を伏せ、モフっとした尻尾の状態には警戒の色が見える程にルスの引きっぷりが半端ない。もしかするとこんな露骨な変態を見るのは初めての事なのだろう。
「この店にも悪いし、お断りするよ」
これ以上は関わらない方が良いなと思い、ハッキリ断ったのだが、どうも聞いてくれそうな雰囲気ではない。
「お店の方は心配入りませんよー。だって、この店は——」まで言った頃、最初に声を掛けて来た店員が店の奥から戻って来た。そしてこちらの様子に気が付いた途端、顔面を蒼白にして「店長っ!」と叫んでアンズの言葉を掻き消した。
「店長は、接客は絶対にしないで下さいって、何度も言ってますよねぇ⁉︎」
すみません、すみませんと何度もこちらに向かって頭を下げ、店員がアンズの背中を押して店奥に追いやろうとする。だが店員の力が全く及ばず、数センチしか前に進めていない。そんな様子を前にして、珍しく『頑張れ!』と応援したくなった。早くこの汚物級の変質者をルスの前から排除してくれ。
「言われてるけどー、素敵なカップルだったからー」
悪びれもなくそう言って、アンズが「ははっ」と笑った。服飾を選ぶセンスは優れていても、性格がこれでは店員が相当苦労していそうだ。
「で。オーダーメイド、どうしますかー?彫金ギルドにも所属しているので、杖の加工や魔装具なんかもお揃いに出来ちゃいますよー」
「店長っ!何でそんなに執着してるんですかっ!」
ぐぎぎぎっとこぼしながら必死に背を押しているが、アンズはその場からビクともしなくなった。店員側の力不足というよりかは、アンズが何かしらの力を使っているのだろう。
「…… 彫金?彫金もやれるんですか?」
獣耳をピクッと動かし、ルスが彼女の言葉に釣られた瞬間をアンズは見逃さなかった。糸目の奥で茶色い瞳をキラッと輝かせ、ルスの小さな手を掴んで僕の背後から彼女を引っ張り出す。そしてその場で揃ってくるっと回り、「何でもお引き受けしますよー。直接お届けもしますから、送料も無料ですー。今なら同じ物を二個つけちゃいましょうー」と、ゆったりとした口調に喜色をのせて言った。
「同郷のよしみってやつで、彫金の方は無料でプレゼントしちゃいますー」
「え?同郷…… ?」
ルスの顔色が少し曇った。過去の自分が頭をよぎったのかもしれない。
「はいー。奥様は、日本出身でしょうー?」
「な、なんで、まぁ、そう…… です、けど」
「時々、翻訳石が光っていなかったんでー。『あ、これは普通にこっちの言葉が通じているなー』って気が付いたんですよー。ただそれだけなんで、今後詮索とかをする気は無いんでご安心をー。ボディデザインなんかも、いかにも日本人が好みそうなキャラっぽい印象ですしねー」
ふふっと笑い、アンズが頭を傾げた。口元に狐みたいな笑みを浮かべて頬を赤く染めている。
「推したいくらいに、とっても可愛いですよー」
その言葉を聞いた瞬間、シュバルツのドヤ顔がアンズの背後に浮かぶ。どうやらコレはまた、変な虫がルスについてしまったみたいだ。
「体格差もあるから、旦那さんに押し倒されたらすっぽり隠れちゃいますねー。お口が小さいから色々と大変そうですけど、既にご夫婦になったって事は克服済みって事でしょうから、お二人で頑張ったんですかー?あー今程壁に生まれたら良かったと思った瞬間はないですよー。自分が壁だったなら、長い時間を掛けてしっかりほぐして、馴染ませて、それでも愛が大き過ぎてナカが一杯で辛くって、どうしても泣いちゃう奥様の目尻を年上の旦那さんが興奮気味に舐めて拭き取るとか見られたのにー」
捉え所のない表情でゆるりと微笑み、アンズが口元を綻ばせる。ルスの方は頭の中に疑問符しか浮かんでいない様な顔だ。
対照的な二人の間に割って入り、この変質者からルスを再び背後に隠す。すると僕のそんな行動がまた彼女の琴線に触れたのか、瞳に涙を浮かべながらの祈るみたいにして両の手を組んだ。
アンズが叫んだ言葉の意味が全くわからず、その場に居た三人の体が固まる。
もう早く家に帰りたい…… 。そう思ったのはきっと僕だけじゃないはずだ。