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翌日は、運良く土曜日だった。
今の僕は、駿にどんな顔をして会えばいいか、正直分からない。けれど、この休みを利用して少しでも状況を進展させようと、僕は スマホを手に取る。そして、昨晩話したばかりのトワくんとのトーク画面を開いた。
透真《おはよう。今日空いてたりする?急にごめんね。良かったら少しでも話せないかな?》
とても急な誘いだということは分かっていた。けど、きっと直接話すことで、何か得られるものがあるはず。そんなことを考えていると、すぐに返事がかえってきた。
トワ《おはよう、駿さん》
トワ《ごめん、今日は今から部活で、ちょうど家を出るところだったんだ》
あ、そういえば、部活に入ってるって言ってたっけ。
そうか。トワくんは僕みたいに暇じゃないんだ。
透真《そっか、気にしないで。部活は何部に入ってるんだっけ?》
トワ《バドミントンだよ》
透真《バドミントン、きつそうだね。頑張ってね》
トワ《ありがとうー。じゃあ行ってくるね》
透真《行ってらっしゃい》
会話を終えたあと、部活後やに会えないか…なんてことを考える。しかし、それは部活で疲れきったトワくんの更なる負担になってしまうかもしれない。そもそも、部活が夕方まである…なんて可能性も否定できない。終わる時間を聞いておけば良かった、と後悔する。
「背に腹はかえられない…」
僕は罪悪感を覚えながら、出かけている妹の部屋に忍び込んだ。目的は、部活動のスケジュール表。確か、学校のプリントの類は壁に貼ってあると言っていたはずだ。
壁に貼ってあるプリントを見ていくと、【北中学校 部活動スケジュール表】と書かれたプリントが目に入る。
「これだ…」
妹がトワくんと同じ学校で良かった。そう思い、指ですーっとなぞりながら、バドミントン部を探す。
「バドミントン部…あった。ええと、7月8日は…」
【練習なし】
……え?
おかしい。今日は、7月8日じゃ無かったのか?そう思い、スマホの電源をつけるも、日付はしっかりと7月8日と表示されている。
練習、なし?
そうだとしたらおかしい。トワくんが僕に嘘をついた事になる。そこまでして、トワくんは僕と会いたくないのだろうか。けれど、彼になにかしてしまった覚えはない。
…僕に会いたくない理由がある?
そのとき、
「…なんで勝手に入ってんの?」
という怒った声に、僕ははっとして振り返る。
「ご、ごめん結…部活のスケジュール表が見たかったんだ」
「は、なんで?」
「ちょっと…バドミントン部が気になって。ねえ結、今日ってバドミントン部は、今部活やってる?」
「バドミントン部?やってないと思うけど。休日の部活あってもだいたい午後からだし 」
「午後…か」
やっぱり、今日は部活がないんだ。だとしたら、トワくんはどうして嘘なんか…
「用が済んだなら、早くあっち行って」
「あ、あぁ、ごめん、ありがとう」
追い払われるように結の部屋から離れると、僕は自室に戻ってスマホを取りだし、再度トワくんとのトーク画面を開く。
透真《ごめん、トワくん。今日が部活あるって、本当?》
透真《妹から、バドミントン部は今日休みだって聞いてさ》
やっぱり、既読はつかない。本当に気づいていないのか、あるいは、気づいてて返していないのか…
そのうち、返信は来るだろうと思っていた。
けれどその日、トワくんから返事が来ることは、無かった。
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「かあさん、俺ってさ、嘘が下手だと思う?」
俺がそう訊くと、かあさんは笑い混じりに「うーん、そうかもしれないね」と答える。
「やっぱり?」
「駿は、単純な嘘でもすぐにわかるよ」そうかあさんにいわれ、俺は肩を落とす。
「単純な嘘でも、かぁ…。じゃあ、〝複雑な嘘〟は、もっとバレるってことか」
「複雑な嘘?」かあさんは首を傾げる。
「うん。実はさ、俺親友に嘘ついてんだよね、色々」
「あら…それは良くないね。一体どんな嘘をついているの?」かあさんは訊きたそうにしていたが、俺は首を振った。
「それは、内緒。かあさんきっと呆れるから。…まあでも」
「いつかはバレるだろう。かあさんにも、…親友にも」
そのとき、ピコン、とスマホの通知が鳴った。透真からだった。
「……ああ、ちょうど親友からだ。じゃあまた後で。かあさん」
「えぇ。…お友達は大切にね」かあさんの言葉に、俺はピタッと立ち止まる。そして、かあさんのほうを振り返って、
「もちろん」
と、笑って答えてみせた。