テラーノベル
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レキシリーダに触れる前
机の上に、装置が置かれている。
夕方の光が窓から差し込み、
表面をなぞっている。
光沢は控えめで、
使われるのを待つ道具の顔をしている。
椅子に深く座り、
背もたれに体を預ける。
膝まで届くベージュのスカートは、
少しだけ皺が寄っている。
上着は薄手で、
肩のあたりが身体に合っていない。
髪は耳にかけられたまま、
そのまま戻されていない。
手は膝の上。
指先は何度か開いて、
また閉じる。
触れるだけでいい、
と書いてあった気がする。
だが、どの言葉に触れるかは、
どこにも書いていなかった。
言葉は、
たくさんある。
思い浮かぶもの。
浮かばないまま残っているもの。
名前を付けたことのない感情。
どれも、
今ここに出してしまっていいのか、
分からない。
机の端に置いたレキシリーダは、
沈黙している。
待つでもなく、
急かすでもなく。
時間だけが進む。
窓の外で、
車の音が遠くなる。
装置と自分の間に、
何も置かれていない空間が、
少しずつ重くなる。
まだ、
触れていない。
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