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ここはトラウマ克服のグループセラピー会場。

今日もたくさんの人たちが、このセラピーに集まり、自分の中の秘めた恐怖に打ち勝つために、その体験談を話に来た。

けれども、今日のセラピーメンバーの中には一人、セラピーへの参加どころか、人の集まるところで話す事自体さえ初めてであろうと察せるほどの、よそよそしさが目立つ、粗暴な口調の、見慣れない男が居た。

その男は幾分か歳を食っており、髪は全然白髪だった。

その男は、自分の話す時間がやってくると、徐に、かつ、どこか焦っているかのように、自分の体験を話し始めた。

「どうだっていい、それがいつ起きたかなんて、それがどう始まったかなんて。

けど、最低限の説明が必要だってンなら。

そうだな、たしか梅雨入り頃だった。俺はやつとばったりでくわしちまったんだ。

えぇと…その日は、やけに雲が重だるくて大きくて、嫌気が差すくらいの鈍い灰色をしていたのをよく覚えてる。それだけだ。

日付なんて覚えていやしない。でも、たしか平日だった…うろ覚えだが。ンなことはどうでもいいか。

そいつは、木造の小屋の、とたん屋根の下で雨宿りしてた。雨なんか降っていやしなかったってのに、そいつは確かに雨が止むのを待っていた。

時折、その惨めな顔を屋根の外に覗かせて空を見上げたり、水なんかそこに溜まってやしないってのに、仕切りに靴汚れや地面を嫌そうに見たり。

俺はそいつが気色悪いと思った。見た瞬間だ。誰だってそうだろう?雨が降ってねえのに雨宿りしてやがるやつがいたら、”変な輩もいたもんだ”ってなハナシだ。

けど、俺はその前に、とある儲け話で失敗したばかりで、変なやつだろうが、なんだろうが、誰でもいいから関わって、相談して、シャキッと———————というか、はっきり言えば傷の舐め合いだ。それがしたかった。バカらしいけどよ、どうせなら俺と似たような奴がいてくれりゃあって頭の片隅で考えながら、とにかくそれができる相手を、誰かを探してた。

で、そんなわけだから、俺はやつに話しかけに行っちまった。

それが全てもの始まりだ。バカなことをしたよ、本当にバカだった。

いいか——こういう風に”誰でもいいから相談”なんていうのは一番やっちゃいけない。自暴自棄になるな、相談相手はしっかり選べ。

はぁ、俺はいつもこうなんだ。

そもそも、パチン…いや、儲け話に負けたからって、あんなに落ち込む必要も、ムキになる必要なんてありゃしねえんだ。

前に彼女に振られた時だって、お袋に電——-いや、待て待て、話が逸れたな。いいか…

俺はやつの方へ歩いてった。

やさぐれた歩き方で、タバコ蒸しながらさ。

やつは俺に気づいた。でも、やつは実に白々しかった。俺が横にきても、雨宿りのふりをやめなかった。

俺は話しかけた。元々の目的は、この変なやつと相談することなんだから、当たり前だが。

「雨も降ってないのに雨宿りか、変わってるな、あんた。」

俺は言った。が、やつは、まるで俺の言ったことが何一つ汲み取れなかったかのような表情を浮かべただけで、俺には何も言葉を返さなかった。

俺はもちろん奇妙に思った。

思わないはずはない。

けど、ありうる可能性として、聞こえなかったとか、あるいはいきなり話しかけらたもんだから、何を言われたかわからなかったとか、あるだろうから、俺は念のため、もう一度話しかけた。

もちろん、こんな静かな曇天の下、何も聞こえなかったとか、こんなオヤジに限って人見知りってこともないとは思ったが。

俺は、こいつの次の反応次第で、こいつが”本当”におかしなやつか、あるいはマトモなおかしなやつかを見極めて、前者だったならとっととこの場を去ってやるってのを腹に決めた。

「雨宿りかい?あんた?」

俺は少しさっきより大きめに、やつにそう声をかけた。

するとやつは反応した。

やつは俺の声を聞き上げると、惨めな顔に皺くちゃの笑顔を作り出し、大きく首を上下に、何度も何度も振った。

そして言った。「なんかね!!TELLERって言うアプリのね!!前に見たことのある小説とか見てるとね!!最後の、関連する小説とかが出てくるところにね!!全く関係ないBLとかクソったれのロリコンとかのエロ系のが出てきやがるんだ!!最悪なんだ!!君もそう思うよね!!いやぁあああ!!雨止まないなぁ!!止まないなぁ!!ねぇええ!!」

俺は、やつのきったねぇ口から出てくるそれらの言葉が完全に耳に入ってくる前に、自分の青ざめた顔をそのままに、奴に背を向けて早足でその場をさった。

俺は、奴が本当は何を伝えたかったのかとか、どういう意味だったのかとか、そんなこともどうでもいい。ただ、あれは恐怖でしかなかった。奴には正気がなかった、それだけなのに。

やつは白々しくなんかなかった。あいつは、あの穢れた目で雨を見ていたんだよ。この世に無いものをよ。

俺はやつが怖かったんだ。

こんな俺でも怖かったんだ。

あいつが、降ってもいねえ雨を見ていたってんなら、俺は、本当は降ってる雨が見えていないんじゃないかって、そう思っちまったんだ。

いいか、分かっただろ。それだけだ。

俺がここで言いたかったのはこれだけだ。…あばよ。」


そういうと、男は足早に席を立ち、このセラピーが終わる前に、次の人が話を始める前に、どこかへ去って行ったのだった。

けど、男の隣にいた、コンビニに勤めるジョニーが言った。

「怖がるところそこじゃねぇだろ。」



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