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「国王陛下と王太子殿下から、五年ぶりに戻った新しい公爵と公爵令嬢に会いたいと、王宮に招かれましたの」
私のその言葉に、彼は飲んでいた紅茶が気管に入ったらしく、むせた。
ごほごほと咳き込む彼に、私は「大丈夫ですか!?」と言いながら彼の隣の座り、彼の背中をさする。
やっと咳が収まったらしい彼は、私の方を向いて、私の肩を両手で掴んだ。つ、強い。
彼のその行動に、私は目を見開く。
「さっき、何と言った?」
怒ってるような低い声だった。
「え、ですから、陛下と王太子殿下に王宮に招かれたと……」
「それはいつだ?」
ずいずいと迫ってくる彼に、私はしどろもどろに答える。
「ら、来週です」
私のその答えを聞くと、彼は私の肩を掴む手の強さを緩め、私の肩から手を放した。
彼は何かを考えるような顔をした後、「わかった」と短く答える。
な、何だったんだ……?
彼のさっきの行動に私は首を傾げた。
翌週、ルウィルクは王宮の廊下をすたすたと歩いていた。
今日は、リリアーナと彼女の兄が王家に招かれる日だった。
ルウィルクは、リリアーナが心配だった。
それは、相手が王家だからではない。むしろリリアーナならばうまくやるだろう。
違う、問題点はそっちではない。
問題は王太子にあるのだ。王太子は、王宮では有名な女たらしだった。
毎回違う女を王宮に連れ込んでは口説く。王太子の女遊びには、国王も呆れていた。
がしかし、王家には王太子しか王位を継承できる者がいないため、王位継承権を破棄しようにもできないのだ。
王太子はそれを十分にわかって女を連れ込んでいた。
リリアーナは器量がとてもよく、公爵令嬢としての品位と礼儀を兼ね備え、その上底なしのお人好しだ。
間違いなく王太子の標的となるだろう。
ルウィルクはそれが心配だった。
もし彼女が王太子に恋をしてしまったらと考えるだけで身震いがする。
王太子は、中身はクズだが、顔だけは良かった。
輝くような金髪に、エメラルドグリーンの瞳、高い鼻に薄い唇。
王太子のこの容姿に惑わされる女が多かった。
ルウィルクは、王太子から人は見た目で判断してはならないと学んだ。
と、ルウィルクは王宮の中庭に出た。
花に囲まれている中、庭に用意された席で、公爵、リリアーナ、国王、王太子が向かい合うようにして座っていた。なにやら楽しそうに笑っている。リリアーナも笑っていた。
(楽しそうだな……)
ルウィルクに向けるものとは違う、屈託のない笑顔。
(ちょっと待て)
ルウィルクは、彼女の笑顔が少し様子がおかしいことに気づいた。どこかひきつっているような……。
(もしかして……)
この面会を、彼女が本心から楽しんでいないことに気づいたルウィルクは、ほっと胸をなで下ろした。
(良かった。杞憂だったようだな)
さて、王宮に残っている仕事をさっさと終わらせて帰ろう。
ルウィルクは踵を返し、宮殿に入っていった。