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僕は、昔から異常に記憶力が良かった。
生まれた時から今までの記憶、全て残っていた。
匂いや痛み、味なども明確に覚えていたし、
両親に優しくされた時の温もり、温かみも覚えていたし──
小学生になって虐められた時の痛みや苦しさなども全て覚えていた。
生まれてから、僕は親から愛情を注いでもらって過ごした。
少し無関心で、あまり思ったことを言わなくても、親は優しく接してくれた。
4歳で初めて絵を描いた。
僕はお父さんとお母さんを描いた。
当然、クレオンを握って間もない時期だから、決して上手いとはいえなかった。
それでも、両親は、上手いと言って喜んでくれた。
僕は、褒められたくて、その日から思ったことを沢山言うようになった。
今日はお母さんが作ってくれた何が美味しかったからそれが食べたいだとか。
お父さんと一緒に行った公園が楽しかったからまた遊んで欲しいだとか。
沢山意見を言った。
最初のうちは「よく覚えてるね〜」と喜んでくれた。
だから、もっと褒められたくて、「何月何日に誰が何をしてくれてそれがどうだった」とか、詳細まで話すようになったんだ。
そしたら、親は、顔を青ざめて、僕を軽蔑するような目で見た。
そして、両親は…大人は、僕のことを「気持ち悪い、化け物だ」と言ったんだ。
僕は、なんで彼らの態度が変わったのか分からなかった。
その日を境に彼らが冷たくなったまま、僕は小学生になった。
なんで嫌われたのか分からなかった僕は、褒められたくて、同じような発言を続けた。
クラスメイトたちは、低学年の頃は、「よく覚えてるね!」と褒めてくれた。
僕は、それが嬉しかった。
だけど、高学年になってくると、こんな声が聞こえた。
「弥晴くんってさ、日付とか時間まで覚えててすごいけど…そこまで来ると気持ち悪いよね」
そこで僕はようやく気づいたんだ。
この記憶力は異常だと。
それでも僕は、きっとどこかにこの記憶力を認めてくれる人がいると信じて、覚えているのを隠そうとするのはしなかった。
小学校を卒業してもそんな人はいなかった。
次は日付や時間までは言わないでおこう。
中学生になって、日付時間の情報は言わなくても、何気ない日常を覚えていることが異常だと言われて虐められた。
それなら次はイベント事とか、そういったことを…
高校生。
テストでどんな問題が出たのか友達と話していた。
友達はだいたい最後の方の問題か最初の方の問題の話をしていた。
中間の方の問題も話した方がいいと思って切り出したら…
「……!お前…よくそんな問題覚えてたな…」
「俺なんてその問題なんて答えたか忘れたよ〜」
失敗したと思った。
案の定、クラスメイトが常々思っていたらしい違和感が繋がってまた気持ち悪いと虐められるようになった。
大学生。
今度こそは。
そう思っていた。
ただ、バイトをしていたにもかかわらず保っていた上位の成績、自分で組んだから覚えていたために学校では全く確認しなかった授業予定、1度参考資料を読んだら書くことが出来たレポート達。
そこまで注意が回らなかったせいで、また台無しになった。
3年生になって僕は考えた。
『あと2年耐えたらまた新しい生活が始まる』
『でも、今度こそ上手くいくって思えるのだろうか』
僕の人生、ほぼ全てこんな状況だった。
だったらいっそ、この辛さから逃げたかった。
頑張っても頑張っても、何も変わらなかったのだから。
頑張っても頑張っても、昔から苦しさは、何一つ変わらなかったのだから。
その日の夜、僕は、
『今日は夜にバイトがあるんだ』
嘘をついて家を出た。
『……あれ?ここは…』
死ぬ気で家を出て5分。
突然意識を失ったが、目が覚めた時には全く見覚えのない神社が目の前にあった。
『神社…?この付近に神社なんて…』
「あ、目覚めた?」
神社の中から現れたのは見覚えのない少女。
『ここは…あなたは…』
「私は月影未彩。この神社、月影神社の巫女だよ!」
『神社…巫女…この付近に神社なんて…え…?』
「まずは君の名前を教えてもらえるかな?」
『あ…えと…祥氷弥晴…です…』
「弥晴くん、ねぇ、君、何かあったんだよね。ここに来る人は、みんな何かがあるんだ。」
『……!』
その言葉を聞いて僕は察した。
自分はニュースにもなっていた「楼鏡市神隠し事件」に巻き込まれたのだ、と。
そして、都市伝説によれば、事件に巻き込まれた人は新しい世界で楽しく暮らす、という情報があったことも思い出した。
『……僕は、生まれつき記憶力が異常に良かったんだ。それがきっかけで、親にも、小学校から大学の同学年にも、気持ち悪いと言われて避けられて虐められて。こんな毎日が続くくらいなら死んでやろうと思って、家を出た。そしたら…』
「……なるほどね。おかしいよね。ただ“記憶力が良い”だけなのに、気持ち悪いなんて。人間はいつもそうだ。平均より秀でたところがあると“気持ち悪い”と煙たぐ。」
『っ……!』
初めて理解者に出会えたと思った。
「大丈夫、この町、麗流楼水の住人はみんな何かを抱えて死にたくなるくらい辛い思いをしてここに来ている。きっと、君のことも受け入れてくれるよ。」
「さて、祥氷弥晴さん。あなたを麗流楼水に歓迎します!」