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#衝撃のラスト
山根利広
578
#オリジナル
28
そんなとき、一郎の目にスーパー銭湯が目に入った。
「お、いいぞ!」
街の喧騒が夕暮れに染まる中、この施設は地元民の憩いの場として賑わっていた。広々とした湯船、サウナ、休憩スペースが完備され、平日夕方でもサラリーマンや学生がちらほら訪れる。まさに、一郎の歪んだ欲望を満たすのに最適な舞台だ。壺を握りしめ、彼の心臓は興奮で早鐘のように鳴っていた。
「よし、舞台はここだ。次は獲物を探すぜ。幸せそうなツラした女を、徹底的に潰してやる」
一郎は壺から妖怪を呼び起こし、まずは「蜃」の力を試した。蜃は幻を操る妖怪で、壺の力により一郎は幻影を自在に制御できる。街路を歩き回り、獲物を物色する。
やがて、買い物袋を提げた大学生風の女性、美香が視界に入った。彼女は20歳そこそこ、明るい茶髪をポニーテールにまとめ、スマホを片手に軽やかな足取りで歩いている。笑顔がこぼれ、友人とのメッセージに返信している様子から、平凡だが満ち足りた日常が透けて見えた。一郎の胸に、嫉妬と憎悪が渦巻く。
「こいつだ。完璧だぜ。まずは道を迷わせて、銭湯に引きずり込む」
壺を振って「ウバ」を召喚した。ウバは道を迷わす妖怪で、相手の感覚を微妙に狂わせ、指定の場所へ導く。一郎は美香の後を、影のように尾行し始めた。ウバに低く命令を下す。
「ウバ、あの女をスーパー銭湯の入り口まで連れてけ。自然に、疲労を感じさせて休憩したくなるように。急がず、じわじわとだ」
ウバの気配が空気に溶け込み、美香の周囲の景色を歪め始めた。美香は本来の帰宅ルートを歩いているつもりだった。信号を渡り、馴染みの商店街を抜け——しかし、ウバの力で道標が微妙にずれ、街灯の影が長く伸び、彼女の足取りを惑わせる。額に薄い汗が浮かび、買い物袋の重さが普段より堪えるように感じ始めた。
「あれ……? ここ、いつもの道じゃない? なんか方向感覚がおかしいわ。疲れたな……お風呂で汗を流そうかな。近くに銭湯あったっけ?」
美香の足は、無意識のうちに銭湯の方へ向き変わっていた。入り口に到着し、彼女はためらいなく受付へ。女湯のチケットを購入し、脱衣所へ向かう。一郎もその後をつけ、男湯で息を潜めていた。心の中で、悪魔のような喜びが膨れ上がる。
「次だ。蜃、まずは全員に幻をかけろ。あの女が女湯に入ったように見せかけ、誰も違和感を抱かせねえように。完璧に、隙なく」
蜃の幻が銭湯全体を覆った。美香は女湯の脱衣所に入ったと思い込み、服を一枚一枚脱ぎ捨てた。ブラウス、スカート、下着——全裸になり、タオルを肩にかけ湯船へ。だが現実では、ウバの力で彼女を男湯の方へ誘導していた。周囲の男湯客—――汗だくのサラリーマン、筋肉質の中年男、若者たち—――も蜃の力で、美香の存在を「ただの男湯の風景」として認識。彼女の裸体が視界に入っても、誰も眉をひそめない。美香自身も、幻の中で女湯の柔らかな照明と女性客の姿を見、安心して湯船に浸かった。
「はあ……いいお湯。今日の買い物でクタクタだったけど、これで生き返るわ」
湯気が立ち上る中、美香は目を閉じ、のんびりと肩まで浸かる。隣の「女性」(実際は髭面の男)が声をかけても、彼女は笑顔で応じる。
「混んでますね。でもリラックスできますよね」
男はうなずき、会話を続けるが、幻のベールが全てを覆い、異常は露呈しない。一郎は外で壺を握りしめ、緊張した息遣いで待機。汗が額を伝う。いつ崩すか――そのタイミングが、最大の快楽だ。
(続く)
コメント
1件
重い……でも、こういうじわじわくる恐怖がたまらないです。美香が無防備で、一郎の計画が完璧に進んでいくのが怖いのに、続きが気になって仕方ない。この世界観、好きです。