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14歳の少年、太郎は、親からネグレクト気味の扱いを受けていた。そんなある日、倒れている老人を見かける。財布をくすねるつもりで近づいたが、老人に気づかれ、ごまかしているうちに、老人から「助けてくれた」と勘違いされた。そして、お礼として妖怪を捕まえ、使役することのできる壺をもらった。壺の力は本物だった。その壺で妖怪を捕まえ、夜道を歩く女子高生などにいたずらをして遊んでいた。
ところが、太郎が壺を忘れて学校に行っている間に、父二郎が兄一郎(太郎の伯父)にその壺を渡してしまう。一郎は一時的な壺の所有者として、すでにとらえた妖怪を使役する力を得た。ろくでなしの一郎は、その壺の力を使って周囲の人間を破滅させようとした。
そんな一郎は、妖怪の力を使って、一人の女性を男湯に誘い込んだ。「蜃」という妖怪の生み出す幻で、まだ誰もそのことに気づいていない……。
「よし、ここからだ。蜃、今度はあの女だけに幻をかけ続けろ。周りの野郎どもには、真実を見せろ。女が全裸で男湯にいるって現実を、な」
蜃の力が切り替わった。男湯の客たちから幻が剥がれ、美香の本当の姿が露わになる。最初は一瞬の沈黙。湯船の水音だけが響く。やがて、客の一人が目を丸くした。
「……おい、あれ……女だぞ? 若い女が、裸で湯船に……」
ざわめきが広がる。隣の男が息を飲み、視線を集中させる。美香はまだ幻に囚われ、自分が女湯にいると思い込んでいる。無防備に足を組み替え、湯をすくって体にかけ、周囲の視線に気づかず微笑む。
「ふふ、今日の湯加減、最高ね」
客たちの目が熱を帯び、好奇と欲望が混じり合う。ひそひそ声が大きくなり、一人がスマホをそっと取り出す。もう一人は近づき、声をかけ始めた。
「君、ここがどこだか知ってる?」
美香は幻の中で「女湯の親切なおばさん」として受け止め、笑って答える。
「え? もちろんよ。みんなリラックスしてるわよね」
状況は急速にエスカレートした。視線が刺すように集中し、笑い声が漏れ、誰かが写真を撮り始める。美香の心臓は、無意識に高鳴り始めるが、幻がそれを抑え込む。一郎は外で、壺を通じてその空気を味わい、震えるほどの興奮を感じていた。彼女の人生が、今、崩壊しつつある。
「完璧だぜ。もう少し味わったら……終わりだ」
一郎は壺を強く振り、蜃に最後の命令を下した。
「蜃、あの女の幻を、今すぐ解け」
蜃の力が美香から剥がれた。突然、周囲の景色が歪み、本当の男湯が現れる。髭面の男たち、湯気の向こうの視線——そして、自分が全裸で囲まれている現実。美香の目が見開かれ、血の気が引く。
「え……? ここ……男湯? 私、裸で……みんな見て……!?」
パニックが爆発した。体を隠そうと手を回すが、遅すぎる。客たちの嘲笑と驚きの声が響き、フラッシュが光る。美香は悲鳴を上げ、湯船から飛び出し、タオルを掴んで逃げ出した。足がもつれ、転びそうになりながら、脱衣所へ。外へ出た瞬間、涙が溢れ、恥辱が彼女を飲み込んだ。一郎は路地裏でその一部始終を想像し、満足げに息を吐いた。壺をしまい、闇に溶け込む。
「ふん、いい気味だ。次はもっと派手にやるぜ」
学校から帰った太郎は、壺の消失に気づき、青ざめていたが——それは、嵐の予感に過ぎなかった。
(男湯編・終わり)
コメント
3件
ああ、このエピソード、読んでいてすごく居心地の悪さを感じました……。一郎の悪意が手に取るように伝わってきて、美香さんの無防備な姿があまりにも無惨で。特に「幻が解けた瞬間のパニック」の描写が生々しくて、読んでいるこっちまで息が詰まるようでした。壺を取り戻せていない太郎のことが心配でなりません。次がどうなるか、気になって仕方ないです。