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「ヤバい! この曲、トランペットソロも綺麗なメロディだけど、ピアノの伴奏がエモいんですけど!」
「うん……私もそう思う」
「でも、この曲も爽やかでいいよね! 旦那さんがラッパソロ吹いて、奥さんが作曲してピアノで伴奏してるのって、素敵過ぎるんですけど!」
「夫婦で音楽を作り上げているのがいい……よね」
瑠衣の話し方がまだぎこちない感じではあるが、どうやら、女性二人は瑠衣のコンクールに向けて曲を二曲に絞り込んだようだった。
「二曲ともピアノの伴奏はそんなに難しくなさそうだし、コンペティションの練習の合間に譜読みできそう……! あ、そうだ。私、来週の金曜日は休みだし、銀座のハヤマで楽譜を探しに行かない? 怜さん、いいよね?」
ニッコリ笑いながら恋人の怜に許可を取る奏が、クールな外見に似合わず可愛いな、と瑠衣が思っていると、怜は目を細めて『ああ、行っておいで』と答えている。
「響野先生。来週の金曜日、瑠衣ちゃんと一緒に銀座のハヤマへ行きたいんですけど、いいですか?」
「ああ。是非とも連れ出してやってくれないか?」
「じゃあ瑠衣ちゃん、せっかくだし、連絡先交換しようよ」
「うん」
瑠衣と奏は、それぞれメッセージアプリを開き、互いの連絡先を交換しているうちに、すっかり外は夜の帳が下りていた。
「すっかり長居してしまったな。今度は二人で東新宿の自宅に来るといい。九條も喜ぶだろう。お二人とも、お邪魔しました」
「葉山さん、かっ……奏ちゃん、お邪魔しました」
「また遊びに来て下さいね」
「侑、九條さん、またな」
怜と奏に見送られた侑と瑠衣は、挨拶を済ませて豊田のマンションを後にした。
八王子インターから中央道に乗り、東新宿の侑の自宅へ戻りながら、瑠衣は新たな出会いのきっかけを与えてくれた侑に感謝の気持ちで溢れていた。
「響野先生」
「…………どうした?」
ステアリングを握りながら前方を見やる侑に、瑠衣は照れながらポツリと呟く。
「……今日の顔合わせ…………とても楽しかったです。ありがとうございました」
瑠衣の言葉に、一重の瞳を薄らと細め、唇を微かに緩める侑。
「…………良かったな」
「…………はい」
オレンジの光が連なっている中を、侑が運転する黒のSUV車が走り抜けていった。