テラーノベル
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リフォーム現場に着くと、部屋の中から大きな作業音が響いていた。
今日は水回りの工事をしているらしい。
凛が先に部屋へ入り、作業中の職人たちに声をかける。
「お疲れ様です」
その声に、キッチンで作業をしていた職人たちが手を止め、一斉に振り向いた。
「あれ~、二階堂ちゃん、どうしたの? 今日は休みだろう?」
「休みなんですけど、これは別件なので様子を見に来ました。あ、こちらはオーナーの真壁さんです」
凛が颯介を紹介すると、彼は軽く会釈した。
「どうも、お疲れ様です」
「「「 お世話になってます!」」」
職人たちが挨拶を返すと、颯介は来る途中で買った差し入れを差し出した。
「よかったら、休憩のときにでも」
「これはこれは、お気遣いありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
そのとき、後ろにいた年配の職人がにこやかに声をかけてきた。
「おや、今日はずいぶんおしゃれしてるじゃないか。凛ちゃん、このあとデートでもあるのかい?」
その言葉に、凛はドキッとする。
「あ……実はこのあと、ちょっとした会食があるんですよ」
咄嗟に誤魔化した凛は、作り笑いを浮かべた。
「なんか怪しいな~。本当はデートなんじゃないの~?」
「そうそう。それは絶対、男と会う格好だな」
図星を突かれた凛は、苦笑しながら返す。
「やだぁ、マサさんったら、またご冗談を~」
凛の慌てぶりに、職人たちは楽しそうに笑い声を上げた。
「バスルームはもう終わってるんですよね? ちょっと見せてもらいますね~」
これ以上突っ込まれるのはまずいと判断した凛は、颯介の腕をつかんでバスルームへ向かった。
バスルームへ行くと、颯介が微笑みながら言う。
「ずいぶん仲がいいんだな」
「マサさんは、私がまだひよっ子だった頃からの付き合いで、今ではお父さんみたいな存在なんです」
「見ててそう思ったよ。いい関係だね」
「あの人たちにしごいてもらったおかげで、今の私があるって思ってますから……」
下請けの職人を軽んじる不動産業界の人間は多い。だが凛は、彼らと密にコミュニケーションを取りながら仕事をしてきた。
どれだけ会社が大きくても、彼らがいなければ仕事は成り立たない。
それを理解している凛は、常に同じ目線で向き合うことを大切にしていた。それが彼女のモットーでもある。
一通り現場を見て回った二人は、職人たちに挨拶をしてから車へ戻った。
走り出した車の中で、凛が尋ねる。
「で、次はどこに?」
「とりあえず、カフェに行って例のものを見ようか」
「あ、はい。そういえば……沢渡さんは?」
すっかり奈美の存在を忘れていた凛が聞いた。
「しっかり後ろについてきてるよ」
「本当ですか?」
凛が後ろを振り返ると、先ほどと同じタクシーがぴったりとついてきていた。
(一日中タクシーで追うつもり? いったいいくら料金がかかるのよ……)
小さくため息をつきながら、そこまでして颯介を追う奈美に驚きを覚える。
しばらく走ると、車は銀座の街へ入っていった。
「銀座……ですか?」
「うん。ここで少し時間をつぶしてから、ディナーに行こう」
「分かりました」
すでにデートコースは颯介の中で決まっているようで、凛が口を挟む余地はない。
(女性をエスコートするときって、いつもこんな感じなのかな……)
そんなことを思いながら、凛は土曜の昼下がりの街並みをぼんやりと眺めた。
コインパーキングに車を停め、二人はカフェへ向かった。
窓際の席に向かい合って座り、コーヒーを注文する。
飲み物が来るまでの間、奈美が入ってくるかもしれないと周囲を注意深く見ていたが、その気配はなかった。
やがてコーヒーが運ばれてくると、颯介が一口飲んで言った。
「じゃあ、見てみようか」
凛は小さく頷き、バッグからカメラを取り出して颯介に渡した。
颯介はすぐにmicroSDカードを引き抜き、携帯に挿して再生を始める。
二人は画面に視線を固定したまま、じっと映像を追った。
しばらく見ていた凛がぽつりと言う。
「最初は何も映ってませんね」
「社内に人が多い時間帯は動けないだろうから、昼休みか終業後だろうな」
颯介が再生速度を上げると、凛が退社する様子が映った。
「あ、私が帰るときです」
「じゃあ、このあとだな」
凛が退社したあと、しばらく映像が続く。
すると突然、カメラの前を肌色の何かが横切った。
「手……ですか?」
「だな」
再生を続けると、突然ボールペンのペン先が画面に映り込み、誰かがペン立てからボールペンを取っていく場面が映った。
「あっ!」
凛が声を上げるが、颯介は黙ったまま画面を凝視している。
やがて、凛の机の前にいた人物が立ち去り、バッグを手に出口へ向かう姿が映った。
その人物は女性だった。
ピンクのカーディガンにベージュのミニスカート……奈美の服装そのものだ。
「これ、沢渡さんです」
「うん。でも顔が映ってないな」
「間違いありません! 服もバッグも見覚えがありますから」
「うーん、顔が映ってくれないとなぁ……」
そのとき、入口から勢いよく入ってきた男性社員が奈美とぶつかった。
その拍子に、奈美のバッグの中身が床に散らばる。
男性は慌てて謝りながら拾い集め、奈美も一緒にかがんで荷物を集める。
その瞬間、奈美がこちらを向き、顔がはっきりと映り込んだ。
「あっ、やっぱり沢渡さん!」
「やったな。顔が映っていれば立派な証拠になる」
「はい……」
予想していたとはいえ、映像に映った奈美の顔を目にした瞬間、凛の胸は重く沈み、がっかりした思いがじんわりと広がっていった。
コメント
24件
職人さんを大事にし、仕事に対して真摯な姿勢の凛ちゃんからしたら、同じ職場に奈美みたいな女がいるのはすごくショックだろうなあ…😔 大丈夫! 颯介さんは、ちゃんと見てるよ…🍀✨️✨️

風邪っぴきの発熱中で、コメまともに出来ません😱 ても…奈美最悪は理解出来ました💦 ごめんなさい(_ _;)
仕事に対する姿勢は大切。颯介さんはよくわかっていると思います。 カメラに映っていてよかった‼️ それにしてもずっと付いてくるけどナミはどこまで来るんだろ? 相手にされていないのにね〜