テラーノベル
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数週間前。その日の宗太郎は、ひよりと人形の姿を見ていられず、とうとう声を荒らげてしまった。
「ひより!いい加減にしろよ」
ひよりが振り返る。
「それは有栖じゃない!
ただの人形だろ?いい加減に現実を──」
「何言ってんの?」
宗太郎の言葉を遮るように、ひよりは怪訝な表情を浮かべた。
「有栖が人形な訳ないでしょ?」
そして何事もなかったかのように、傍らにいる日本人形へ視線を戻す。
「ねー?ひよりー?」
まるで幼い娘に話しかけるような、優しい声だった。
「パパおかしくなっちゃいましたね〜♬」
ひよりはそう語りかけながら、愛おしそうに人形の頭を撫でる。
その姿を見た瞬間、宗太郎の胸に言いようのない恐怖が込み上げた。
「おかしいのはひよりだろ?」
声が震える。
「その人形買ってからおかしいぞ?」
すると、ひよりの表情が一変した。
「人形なんて言わないで!!」
鋭い声が部屋に響き渡る。
ひよりは人形を庇うように抱き寄せ、宗太郎を睨みつけた。
「自分の娘を人形だなんて、どうかしてるよ!?」
その言葉に、宗太郎は何も返せなかった。
ひよりにとって、目の前にいるのは人形などではない。
紛れもなく自分たちの娘、有栖なのだ。
少なくとも、この時のひよりにはそう見えていた。
◇ ◇ ◇
「ひよりは人形を有栖に見立ててるというよりも
本当に人形を有栖だと思い込んでるみたいで」
宗太郎の言葉を聞き、美月は黙ったまま彼を見つめる。
「俺も最初は受け入れられませんでした。けど──」
宗太郎は一度、言葉を詰まらせた。
実際にひよりは、その人形を買ってから以前のような明るさを取り戻していた。
それは紛れもない事実だった。
「そう思ったら、もうこのままでも
良いのかな?って、そうも思いました」
「まあ、そうね・・・」
美月は複雑そうに答える。
「このまま有栖が生きて帰ってきたと
そう思ってくれてれば、ひよりは自分を
責める事は無いんだ。ずっと笑顔で
居てくれるんだって、そう思ったんです」
それが正しいことなのかは、宗太郎にも分からなかった。
「複雑ではありましたが、それは事実だから
もう何も言わないという事にしました」
そしていつしか、宗太郎自身もその生活に合わせるようになった。
「俺も人形に有栖って呼びかけたりして」
美月は何も言わず、宗太郎の話を聞いていた。
「そう思えばこんな生活でも
案外悪く無いなって、そう思えました」
少なくとも、ひよりが笑っていてくれる。
それだけで十分なのかもしれない。
そう思っていた。
「けど──」
「けど?」
美月が聞き返す。
宗太郎の表情が、わずかに曇った。
「最近ひよりの様子がおかしくなったんです」
「おかしく?」
「今までは人形に笑顔で語りかけたのに
今はなんというか、虚ろな目というか、正気を
感じない目で人形に語りかける様になったんです」
それは、ただ娘を失った悲しみから人形に依存しているような姿とは違っていた。
「まるで何かに取り憑かれたみたいに」
「取り憑かれた・・・」
美月が小さく呟く。
「もしかしたら、ひよりが買った人形が
いわく付きなのか?と思ったりもしました」
「いわく付きね・・・」
「よくありますよね?髪が
日に日に長くなる日本人形とかって」
「まあ、確かによく聞く話よね」
宗太郎は意を決したように、美月を真っ直ぐ見た。
「だから赤迫先生が顧問やってる
怪異探求倶楽部に依頼したいんです」
その言葉に、美月の表情がわずかに変わる。
「確か赤迫先生のクラスの白縫さんって
霊感があって霊視や除霊が出来るんですよね?
確かその力で前に詐欺師の悪事を暴いたとか」
「話は大体分かった・・・けどね?」
美月は真剣な目で宗太郎を見据える。
「確かに彼女はは霊感があるわよ?
でも彼女まだ高校生
危ない目に遭わせる訳にはいかない」
「は、はい・・それはもちろんです」
美月のもっともな言葉に、宗太郎は少したじろぐ。
美月は教師だ。
たとえ信愛に特別な力があったとしても、危険かもしれない場所へ生徒を送り出すことを簡単に了承できるはずがない。
「だから今、私の口から
適当なことを言うわけにはいかない」
美月はそう前置きすると、宗太郎を真っ直ぐ見つめた。
「だからこの話を高館先生の口からみんなに
話してみて。その後の判断は生徒に任せる」
宗太郎は黙って耳を傾ける。
「もしみんなが手に負えないと 判断した場合は
申し訳ないけど高館先生の 依頼を引き受ける訳にはいかない」
「はい・・・分かりました」
信愛に特別な力があるとはいえ、彼女はまだ高校生だ。
危険な目に遭わせるわけにはいかない。
その一線だけは、顧問である美月としても譲ることができなかった。
「なら明日の昼休みに部室に行ってましょう」
「分かりました」
宗太郎が頷くと、美月は改めて念を押すように告げた。
「そこで高館先生から事情を話してみて」
「分かりました」
宗太郎はもう一度、しっかりと頷いた。
コメント
1件
×××さん、こんばんはみぅです🖤 今回のエピ、すごく重くて胸が締め付けられました……。ひよりさんが人形を本物の有栖だと思い込んでる描写、ただの依存じゃなくて“そう生きるしかなかった”んだなって伝わってきて。宗太郎さんが「このままでもいいのかな」って折れるところも、正解なんてないんだろうなって思いました。 そして“虚ろな目で語りかける”とか、ラストの依頼に繋がる流れもゾクッとくる。次が気になる……!
#普通
野々さくら
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ありあ
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