グソンは、リンを見るなり、自分の侍従とした。
色白で、華奢な体が目を引いたのだ。
すぐさま、手塩にかけ、磨きあげた。
そのかいあって、リンは文官・武官から声がかかるようになった。
だが、見習い中は主人とする宦官にのみ従わなければならない。
宮殿内の細々とした事を学ばせる為だが、従者関係を作ることで、宦官の縦社会を維持させるためでもある。
もちろん、寵妾になることが奨励されているわけではないが、彼ら宦官が、名を上げるには王の勅命が下るのを待つのみ。
よほどの運がない限り、山ほどいる競争相手の中から、ぬきんでることなど不可能に近い。
実力者の寵妾になって、甘い汁を吸うことが、宦官にとって一番の処世術だった。
「グソン様、はやく表側へ出入りなされませ。そうすれば、私はずっとお側にいられます」
少年は、言って、甘えてくる。
「ああ、そのために、こんな時間まで勤めているのだよ」
ふわりと、甘い香りがグソンの鼻をくすぐった。
(……湯を浴びたのだろうか。)
思いつつ、肩に頭をもたせかけてくるリンが沿わす手を、そっと握ってやる。
リンは、自分の役目をわきまえ、グソンの好みをしっかり守っていた。
住居にいるときは、できるだけゆったりと衣を纏《まとい》、束ねる髪も鬢《びん》を少したらしておく。
主人、グソンは、儚《はかな》い風情をことのほか好む。なにより、こうして、頭をもたせかけるのを、一番気にいっていると、良く理解していた。
「蜜蝋の香り?」
「うん、相変わらず鼻が利くな」
「女の長様は、ずいぶん優雅に暮らされているのですね。ご執心の妃は、蜜蝋などお使いになっていないのに。そうそう、来週あたり、お戻りになるそうですよ。これで、また、帰ってこなくなりますね。妃様のお部屋に行かれたら、朝までお戻りにはならないのだから……」
「おや、嫉妬かい?仕方ないだろう?私はこれでも男なんだから」
リンの拗ねた口振りは、グソンの心をくすぐった。
わざと冷たくあしらうと――、
案の定、リンは口ごもり、いじらしく振る舞った。
「今はそんなことを言っているけれど、でもね、リンお前もいずれ私から離れてしまう……」
グソンは、リンの耳元に、そっと口づける。
びくりと、寄り添っている華奢な体が揺れた。
意気消沈している少年の姿は、それなりに、憂いがある。が、グソンのためにと、思いを重ねているリンを見ると、なぜか、指先が涼しくなった。
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