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地下水路。
張り詰めた空気。
誰も動かない。
ロビンフットの紫の瞳だけが、愉快そうに細められていた。
その時。
アルドが、一歩前へ出る。
水を踏む音。
ぴちゃん――
ロビンフットの口元が吊り上がる。
「来る?」
同時。
弓を引く。
異常な速度。
ギリ、と弦が軋んだ瞬間――
バチンッ!!
音が響くより先に。
アルドの目の前には、既に矢があった。
ドンッ!!!
凄まじい衝撃音。
背後のコンクリート壁に矢が突き刺さる。
蜘蛛の巣状にヒビが走った。
ユナの顔が引き攣る。
「は……?」
速すぎる。
目で追えない。
だが。
アルドは既に顔を横へ逸らしていた。
コンマ一秒。
それだけで回避している。
ロビンフットの片目が細まる。
「ほんとに見えてるんだ」
アルドは答えない。
即座に杖を向ける。
詠唱なし。
魔力が圧縮される。
その瞬間。
カチッ。
小さな音。
背後。
ほんの一瞬。
アルドの目だけが動く。
「――下がれ」
ドゴォォォンッ!!!!
爆炎。
衝撃波。
地下通路が吹き飛ぶ。
瓦礫が降り注ぎ、熱風が全員を叩きつけた。
リシアが腕で顔を庇う。
「っ……!」
視界が土煙で埋まる。
崩落。
轟音。
地下水路そのものが揺れる。
数秒後。
煙の奥から、ロビンフットの声だけが響く。
「さっきの矢尻にね」
軽い口調。
「少し仕掛けておいたのさ」
笑う気配。
「……って、聞こえないか」
土煙の向こう。
ロビンフットがゆっくり立ち上がる。
紫の瞳が周囲を探す。
「さてと」
弓を肩へ乗せる。
「例の魔道士さんは、どこかな?」
「動くな」
背後。
ロビンフットの笑みが止まる。
いつの間にか。
アルドが立っていた。
無傷。
杖を首元へ向けている。
ロビンフットが、ゆっくり目を細めた。
「なるほど、テレポートか」
肩をすくめる。
「魔道士さんもよくやるね」
アルドの瞳は冷えていた。
「10秒以内だ」
低い声。
「ここに潜んでいた隊員達が居たらしい」
杖先がわずかに押し込まれる。
「どこへやった」
数秒。
ロビンフットは黙ったあと――
ふっと笑った。
「君達の仲間だったか」
軽い調子。
「それならアジトに“保管”してるよ」
その言葉に、ユナの表情が険しくなる。
「……保管?」
ロビンフットは悪びれもなく続けた。
「ちゃんと生きてる」
「今のところはね」
空気が冷える。
アルドが視線だけ後ろへ向けた。
「……らしいぞ」
リシアは即座に判断する。
「なら、アジトへ向かう」
短く告げる。
「場所は把握済みよ」
ユナがロビンフットを睨む。
「この人はどうするの?」
リシアの目が鋭くなる。
「まだ吐いてもらうことはある」
「そのまま身柄を拘束――」
「了解」
ドランが前へ出る。
アルドも杖を少し下げた。
「なら、なんか拘束魔法でも――」
ガシッ。
突然。
アルドの杖を、ロビンフットが掴む。
「……っ?」
一瞬。
ロビンフットが笑った。
「■■■ ―― ◼︎◼︎▧▧」
誰にも理解できない言葉。
濁ったような。
重なったような。
まるで“音そのものが壊れている”言語。
言葉として認識できない。
だが。
アルドだけは、目を細めていた。
その瞳に、わずかな驚きが走る。
(……古代術式?)
ロビンフットが笑う。
まるで、“通じた”ことを確認するように。
「■■■?」
短い言葉。
アルドは数秒、沈黙した後――
杖を下ろした。
リシアが目を見開く。
「アルド?」
だがアルドは答えない。
静かにロビンフットを見る。
そして、ぽつりと呟く。
「……面倒なことになったな」
その瞬間。
ロビンフットの腕が、霧のように透け始める。
空間が揺らぐ。
腕。
肩。
首。
身体。
同時に、アルドの輪郭まで崩れていく。
リシアが叫ぶ。
「待ちなさい!!」
レインが飛び出す。
だが届かない。
ロビンフットは最後まで笑っていた。
「じゃあね」
次の瞬間。
空間が歪む。
アルドとロビンフットの姿が、同時に消えた。
地下水路に、静寂だけが残る。
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