その頃、高城壮馬は副社長室で電話をしていた。
「はい…よろしくお願いいたします。では来週お待ちしております。それでは失礼いたします」
電話を切った壮馬は、すぐに電話の内容をパソコンに入力する。
その後、仕事の続きに戻ると部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
入って来たのは秘書の稲取麗子だった。
麗子は27歳。
壮馬の本社内での秘書業務を担当している。
社外での秘書は専務の優斗が兼務しているので、麗子が秘書業務をするのは社内だけだった。
麗子はこの会社の秘書課へ入って五年目。壮馬の担当になったのは昨年からだ。
秘書課に在籍する秘書の中では断トツの美人で、スタイルもいい。
彼女が去年から壮馬の秘書になった背景には、社長である父の思惑が絡んでいる。
「早く結婚しろ!」
壮馬は最近父親と顔を合わせると、このセリフばかりを言われる。
おそらく身近な秘書でもいいから、なんとか壮馬を結婚させようと躍起になっているようだ。
麗子は壮馬のデスクへ近づくと、
「コーヒーをどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「本日は副社長のお母様のお誕生日でしたね。定時にタクシーをお呼びしましょうか?」
「優斗に送ってもらうから大丈夫だ、ありがとう」
「承知しました」
麗子はそう返事をしたがすぐに立ち去る様子がない。
不思議に思った壮馬は顔を上げる。
「ん? まだ何か?」
「あ、いえ、あの…先週まで毎日、日に何度も電話をかけてきた女性から、最近ぱったり電話が来ないのですが、何かあ
ったのかなと…」
突然秘書にそんな事を聞かれたので、壮馬は右の眉をぴくりと上げる。
「ああ…それだったら彼女からは今後一切連絡は来ないと思いますから」
「それって…?」
麗子が期待を込めた瞳で問いかける。
しかしそんな麗子の反応に、壮馬は怪訝な顔をする。
「プライベートな事を全て秘書に言う必要があるのかな?」
その時麗子はハッとした顔をする。
「あっ、す、すみませんっ、大変失礼いたしました」
麗子は顔を真っ赤にしたまま慌てて一礼をすると、逃げるように副社長室を後にした。
(結局彼女も今までの秘書達となんら変わりはないんだな…)
壮馬はため息と共にそんな風に思った。
壮馬の秘書になる女性達は、必ずといっていいほど壮馬に様々なアピールをしてきた。
それぞれタイプは違ったが、大抵は色仕掛けか良妻賢母風の両方に別れる。
そんな中、麗子は割と真面目に秘書業務をこなしていた。
今までの秘書と比べても、謙虚で物静かで出しゃばる事もない。
だから壮馬は今度こそはまともな秘書に出会えたと思っていたが、
どうやらその考えは見当違いのようだった。
壮馬は両手を頭の後ろで組むと、くるりと椅子を回して窓の外を見つめた。
澄み切った青空を見つめながらぼんやりとする。
あの日もこんな青空だった。
少し緩い風が吹いていた気もする。
壮馬はその時、花純と出逢った時の事を思い出していた。
真剣な表情で木々達を見ていた花純の顔が頭から離れない。
仕事の合間や自宅にいるふとした瞬間、なぜかいつも彼女の顔が思い浮かぶ。
こんな経験は初めてだった。
だからかなり戸惑っていた。
次の瞬間壮馬はフッと笑う。
そして組んでいた両手を離しくるり机の方へ向いてから再びパソコンへ向かった。
その頃、花純はエレベーターの中にいた。
空中庭園がある10階までは行った事があるが、それ以上の階には行った事がないので少し緊張していた。
このアレンジで本当に大丈夫だろうか?
依頼人が満足するようなものに仕上がっただろうか?
花純は不安になる。
その時、エレベーターが40階に到着した。
花純は緊張した面持ちで高城不動産ホールディングスの受付へ向かった。
受付には美しい女性二人が座っていた。
「「いらっしゃいませ」」
女性二人は反射的に満面の笑みで花純に声をかけたが、
花純がジーンズにエプロン姿の花屋の店員だと分かると途端に愛想笑いをやめる。
そのあからさまな態度の変わりように花純は驚きながらも、
「お忙しいところをすみません、副社長室へお届けものなのですが…」
すると片方の受付嬢が少し小ばかにした態度で言った。
「49階まで上がって右へ進むと副社長室があります」
(うわぁ…なんか怖い…うちの本社の受付嬢の方がよっぽど愛想がいいわ)
そう思いながら、花純は、
「ありがとうございます」
と二人に会釈をし、再びエレベーターへ乗った。
49階へ向かう途中、何人かの社員がエレベーターへ乗り込んでくる。
どの社員もきちんとしたスーツを身に纏い、清潔感に溢れた爽やかな社員ばかりだ。
いかにも仕事がデキそうな感じだ。
(ここはうちの本社とは違うわね…)
花純の会社には、いかにもデキる感じの人は少なかった。
コネ入社じゃない社員の中には、ごく少数高城不動産にいるようなデキるタイプの人もいたが、
基本ほとんどは緩い感じの社員が多かった。
会社によって随分違うものだなと花純は思う。
そんな事を考えていると、途中からエレベーターに乗って来た社員達が次々とエレベーターを降りて行く。
そしてとうとう花純一人だけになった。
それは、この上の階が役員専用のフロアだという事を表していた。
そしてエレベーターは、49階の最上階へと到着した。
(なんか緊張する…)
花純はそう思いながら、エレベーターを降りた。
コメント
3件
受付嬢の感じ悪っ‼️そしてさらに待ち構えてるのは麗子… 皆さん壮馬さん狙いでしょうが残念なことに既に花純ちゃんで頭はいっぱい💞 それは「初恋」ではないでしょうか?壮馬さん?
壮馬さん、やはり頭の中は花純ちゃんでいっぱい⁉️ ふとした時に頭に浮かんでしまうのって、それはね....🤭💞ウフフ ご本人が もうすぐやって来ますよ~❤️💐✨
壮馬さん、花純ンが素敵な花束を持ってきましたよ〜🌷まさかと思うけど秘書がいて渡しときます,で終わりなんてことはないよね?? それにしても受付は外見で判断して顔に出したらダメでしょ?それに麗子もよく副社長に女性関係を聞けるな‼️誰でも呆れるわ😮💨