テラーノベル
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最上階の廊下は、カーペットや壁の造りが他の階とは異なり重厚感に溢れていた。
(役員専用フロアだから凄いわ……)
花純は急に今ここにいる自分が場違いなような気がしてきた。
そして途端に居心地が悪くなる。
(さっさと配達を終えて帰ろう)
そう思い早足で歩き始めた。
受付嬢に言われた通り、廊下を右へ進むと『副社長室』というプレートが見えた。
花純は一度深呼吸をすると、勇気を出してドアをノックした。
すると中からは女性の声がしてすぐにドアが開いた。
ドアを開けた女性は麗子だった。
「一階の青山花壇です。いつもお世話になっております。ご注文の品をお届けに参りました」
麗子はわかっていたようで、特に驚く様子もなく落ち着いた声で言った。
「どうぞ中へお入りください」
「あっ、いえ…配達だけですから」
「副社長からは中へお通しするように言われておりますので」
麗子は花純に中に入るよう促す。
そして花純を先導して奥のドアをノックした。
「はい」
中からは低い男性の声が聞こえてくる。
その時花純は頭の中で考えていた。
(えっと…副社長ってどっちの人だったっけ?)
すぐに顔を忘れる花純は、副社長はどちらの男性だったかを必死に思い出そうとしていた。
「青山花壇の方がお見えになりました」
「入ってもらって」
再び低く落ち着いた声が響いてきた。
「どうぞお入り下さい」
麗子はドアを開けると花純に中へ入るように言った。
まさか副社長室まで入ると思っていなかった花純は、緊張しながら中へ入る。
すると窓際にあるデスクには、先日空中庭園で名刺をくれた男性が座っていた。
(あ、むっつり無口な人だ……)
相手の顔がわかったので、とりあえずホッとする。
一度話した事がある相手だとわかると、花純の緊張も少し解けてきた。
そして一度副社長室を見回す。
最上階の窓から見える景色は見事なものだった。
ピカピカに磨かれた窓ガラスの向こうには都会のビル群が広がっている。
このビルはこの地域で一番高層のビルなので、周りを遮るものが何もない。
そのお陰で青い空が広く見渡せた。
ベージュ系でまとめられたシックな室内には、大きな観葉植物がいくつも置かれていた。
(結構色々な種類があるわ。あっ、サンスベリアがあんなに大きく育って……)
花純は窓辺に置かれた大きなサンスベリアの鉢に目が釘付けになった。
そんな花純の様子を可笑しそうに見ていた壮馬が言った。
「どうも、また会ったね」
「あ、先日はどうも。この度はご注文をありがとうございました」
その時秘書の麗子が怪訝な表情で二人を見ながら、一礼をして部屋を後にした。
ドアがパタンと閉まると、壮馬は椅子から立ち上がって
花純の傍まで歩み寄る。
そして花純が手にしていたフラワーアレンジを受け取ると、じっと見てから言った。
「なかなかいいじゃないか。今までとは全然違うデザインだな。これ、君が作ったの?」
「はい、そうです」
「うちのおふくろは、こういうナチュラルな雰囲気が好きなんだよ。きっと気に入ると思うよ、ありがとう。で、料金
は?」
壮馬はアレンジをローテーブルへ置きながら言った。
花純は壮馬がアレンジを気に入ってくれた様子なのでホッとした。
そしてポケットから請求書を取り出して壮馬に渡した。
請求書を見た壮馬は驚いた顔をする。
「13200円? 2万円しないのか……」
その安さにかなり驚いていた。
その反応に、花純はドキッとする。
(社長夫人に贈る花にしては安価過ぎて逆に失礼だったのかな?)
不安になった花純は、
「あの…もう少し華美な方がよろしければ、お作りし直しますが…」
と申し出る。
その言葉の意味に気付いた壮馬は、慌てて言った。
「あっ、いやそういう意味じゃなくて、こんな素敵なアレンジを安価で作るテクニックが凄いなって思っただけだよ」
それを聞いた花純はホッとする。
すると壮馬が花純に言った。
「まあ、ちょっとそこへ掛けて下さい」
そして壮馬はドアを開けて秘書の麗子にコーヒーを二つ持って来るように言った。
花純は言われたようにソファー前に立ったままかなり戸惑っていた。
配達に来ただけなのにコーヒーまで頼んでいる。
一体何の話があるのだろう? と不安になる。
そんな花純の様子に気付いた壮馬は、微笑んで言った。
「別に取って食ったりはしないよ。まあいいから座って」
仕方なく花純はソファーへ腰を下ろした。
その時ノックの音が響き、麗子がコーヒーを二つ持って来た。
そして二人の前にカップを置くと再び一礼をしてから部屋を後にした。
部屋を出る際、麗子は冷ややかな視線でちらりと花純を盗み見た。
コメント
4件
受付と言い、秘書と言い、壮馬さん大丈夫ですか~😓 壮馬さん、花純ンの事が気になってるのね🩷
花純ちゃんの認識は「むっつり無口な人」それ以上でも以下でもないけど壮馬さんは? それにしても秘書、麗子の視線…女豹のカンが働いた?
壮馬さんにとって 花純ちゃんは、ふとした時 頭に浮かんでしまう 気になる人のようですが...💓 花純ちゃんにとって 壮馬さんは「むっつり無口な人」という、二人の温度差が面白いですね🤭 これから二人の関係はどうなっていくのか、今後の展開が気になります✨