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#だてなべ
milk
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22:30
向井は部屋で1人泣きじゃくっていた。
左右の脚が繋がったせいで履いていたズボンはハサミで切り捨てるしかなく、下半身が完全に魚になれば下着もいらないだろう。
自分は普通の人間じゃなくなっているんだ。
普通の生活ができなくなる。
その時が刻一刻と近づいてきているというのに自分ではどうすることも出来ない。
足が尾鰭になった以上自分で立つことも歩くこともできなくなった。
混乱する頭で何も考えられず、ベッドの上で横たわっていたその時
ピンポーン
インターホンが鳴った。
🧡「ヴゥ゙……グスン…」
🧡(誰やろ……こんな時間に……)
いまだ涙も止まらぬまま、ゆっくりベッドから降り、立てなくなった脚を引きずりながらオートロックのモニターの所まで行く。
モニターが高くて膝立ちで見るしかできなかったが、それでも誰が来ているのかはすぐに分かった。
🧡「め、……めめ……?」
目黒が立っていた。
今日は仕事と言っていたから、おそらく仕事終わりに寄ったのだろう。
目黒にこのことを話すべきか。
しかし、1人ではどうすることも出来ないこの状況で目黒に知らせた事でなにか解決するのだろうか。
いや、迷惑になるに違いない。
そしてなにより、こんな変わった姿を見られたくない。
軽蔑される事の方が怖い。気持ち悪いと思われる方が怖い。
とりあえず今日は隠しておこう。
向井は意を決して通話ボタンを押した。
🧡「めめ?どしたんこんな時間に」
なるべく変に思われないようにいつもの声をつくり
応答する。
🖤「康二?寝てた? 」
🧡「ううん、ちょっと夕方に1回寝てもうて。大丈夫やで」
🖤「……康二……どしたの?」
その言葉で向井に緊張が走る。
🧡「……ど、どうもせんで? なんで?」
🖤「いやなんか、泣いてる声な気がして」
向井本人はいつも通りの声のつもりで話していた。
なのに目黒に一瞬でバレてしまった。
少し動揺するも向井はあくまでも普通を押し通そうとする。
🧡「別に普通やで? 仕事終わりなん?」
🖤「まぁそうだけど……LINEも既読つかないし寝てるかと思ったんだけど仕事で近くまで来てたからついでに寄ろうかなって」
🧡「あ、そうなんや! ごめんなぁ昼寝してもうてLINE見てなかったわ」
🖤「……ほら声がいつもと違う。なんかあった?」
やはり、怪しまれている。
ダメだ。知られたくない。
いつもなら仕事終わり寄ってくれたというだけで舞い上がりすぐに家にあげるのに。
昨日は普通に話せていたのに。
一緒にまた出かけようと話もしたのに。
🧡(アカン、また涙出てまう……)
🧡「ほ……ほんまに何もないよ。大丈夫やねん」
🖤「じゃあ家入れてよ、大丈夫なんでしょ?」
🧡(まずい……! それだけはアカン)
🧡「めめごめん、今日はちょっと……その…… 」
🖤「なにか隠してるでしょ、俺には言えない事?」
🧡「いや…グスン…ほんまに……なんも……ないけん…」
🖤「…………」
必死に普通を装うとしてもさっきまで号泣していたんだ。徐々に涙声になってしまう。目黒がカメラを覗きこんでモニター越しに目が合う。
🖤「……康二……開けて?」
低く優しい声と吸い込まれそうな瞳に心が揺れる。
しかしその瞳に化け物を見るような視線を向けられることを想像するだけで、息ができなくなる。
向井は溢れる涙ももう止められず必死に声を抑え
🧡「ごめんな……帰って……」
とだけ言いモニターをオフにした。
その場にへたり込んで罪悪感で更に押しつぶされそうになった。
改めて自身の体を憎む目で見つめた。
鱗の範囲が広がってきている。
そして腰周りや脚の付け根にも鱗ができ始め、癒着を始めていた。
向井は泣きながら机に投げ出したままのハサミを手に取る。
そして履いていた下着に刃先を入れる。
これからきっと下着も必要なくなる。間もなく鱗が全てを覆い隠すだろうから。
裸になった向井はまだ未完全の脚を引きずる。
水が欲しい。
喉の乾きじゃない。
本能的に体全体が求めている。
人間とは別の本能に動かされ、風呂場へと向かう。ベッドの上に置いたままのスマホから鳴ったLINEの通知音に気づくことなく。