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第12話 砂の都市
荒野に戻った緑は、まだ弱かった。
ひび割れた土のあいだから、小さな芽が顔を出している。
風が吹くたび、折れそうに揺れる。
けれど、折れない。
ユウはしゃがみ、芽の根元にそっと砂を寄せた。
昨日、枯れ敵の一体がそうしたように。
ミハルはその手元を見ていた。
「それ、覚えてたんだ」
「うん」
「カラザが見たら怒るかな」
「分からない」
ユウは立ち上がった。
「でも、あの小さい枯れ敵は壊さなかった」
ツカサが少し離れた場所で腕を組んでいた。
「一回壊さなかっただけだろ」
ミハルが振り向く。
「一回でも、記録する価値はある」
ツカサは言い返さなかった。
有楽ラカは荒野の端で土を確かめていた。
くちばしの傷に砂がつき、尾羽の緑と黄色の縦じまが乾いた風に揺れている。
リウはユウの近くの岩にとまっていた。
「来る」
リウが言った。
ユウは遠くを見る。
地面が静かに動いた。
砂が持ち上がる。
音もなく、丸い入口が開いていく。
その奥には、地下へ続く斜面があった。
冷たい風ではない。
乾いた風。
水を嫌うような、軽い風。
カラザが砂の中から現れた。
巨大な殻。
複数の触腕。
乾いた石のような目。
昨日、芽を前にして退いた時と同じ姿だった。
だが今日は、カラザの後ろに道がある。
地下へ向かう道。
カラザの声が、頭の奥に響く。
見たいと言ったな。
ユウは息を吸った。
「砂の都市を?」
そうだ。
ミハルがノートを抱え直す。
ツカサは一歩後ろへ下がった。
「罠じゃないのか」
カラザの目がツカサへ向く。
罠にするなら、ここで沈める。
ツカサの顔がこわばった。
「脅しかよ」
事実だ。
リウが羽を広げた。
「わたしも行く」
カラザはリウを見た。
有楽を都市へ入れるのは不快だ。
「こちらも快適ではない」
なら、来るな。
「ユウが行くなら行く」
カラザの触腕が砂をなぞった。
人間を守るのか。
「観察している」
ミハルが小さくつぶやく。
「リウ、それ便利に使ってる」
リウは聞こえないふりをした。
ラカが近づいた。
「種まき隊はここに残る。芽を守る」
ユウはラカを見る。
「ラカは行かないんですか」
「わたしが行けば、向こうは種まき隊の侵入と見る」
「リウは?」
「リウはすでに問題の中心だ」
リウが少し羽をふくらませた。
「言い方」
ラカは気にしなかった。
「日向ユウ。見るなら、判断を急ぐな」
「はい」
「砂の都市は、有楽から見れば危険な場所だ。だが、そこに住む者から見れば家だ」
ユウはうなずいた。
カラザが地下の道へ向いた。
ついて来い。
ユウはミハルを見た。
ミハルは緊張した顔でうなずいた。
ツカサは深く息を吐く。
「行くしかないか」
リウが枝の代わりにユウの肩近くへ浮くように移動する。
接触種子が胸元で熱を持った。
地下の道へ入る。
最初の数歩で、音が変わった。
地上の風は遠ざかり、砂がこすれる音だけになる。
壁は固められた砂と石でできていた。
触ると崩れそうなのに、まったく崩れない。
水気はほとんどない。
でも、息ができないほどではない。
ミハルは壁を見ながら言った。
「乾いてるのに、形が保たれてる」
カラザの声が答える。
砂は流れる。
流れるものを止めずに、道にする。
ツカサがぼそっと言う。
「建築思想みたいだな」
リウが返す。
「枯れ敵にも技術はある」
「そりゃあるだろうけど」
「敵を無知と見ると、負ける」
ツカサは黙った。
道はゆるやかに下っていく。
途中、壁の中に小さな窓のような穴があった。
中では、細い触腕を持つ小さな枯れ敵たちが砂を選り分けていた。
粒の大きさを分け、模様のように並べている。
ミハルが足を止めた。
「子ども?」
カラザは少しだけ動きを止める。
幼体だ。
「何してるの」
砂を読む訓練。
「砂を読む?」
湿り。
熱。
重さ。
古さ。
土地の記憶。
ミハルはノートを開き、急いで書いた。
ツカサは幼体たちを見ていた。
幼体の一体が、殻の奥の目でツカサを見返す。
ツカサは少し気まずそうに目をそらした。
「普通に暮らしてるんだな」
ユウはうなずいた。
「うん」
敵の都市。
そう聞いていた。
でも、そこには子どもに近い存在がいて、訓練があり、道具があり、暮らしがあった。
さらに進むと、広い場所へ出た。
ユウは思わず立ち止まった。
砂の都市だった。
地下とは思えないほど広い空間。
天井は高く、無数の小さな穴から乾いた光が落ちている。
建物は丸く、渦を巻く殻のような形をしていた。
道はまっすぐではない。
砂の流れに沿うように曲がり、広場へ集まり、また細い路地へ分かれていく。
水路はない。
代わりに、砂路があった。
細かな砂がゆっくり流れ、枯れ敵たちはその上を触腕で進む。
空気は乾いている。
けれど、死んだ場所ではなかった。
音がある。
砂の流れる音。
触腕が床をなぞる音。
低い通信音。
幼体たちの小さな振動。
遠くで、殻をたたくような合図。
ミハルが息をのむ。
「都市だ……」
ツカサも言葉を失っていた。
リウはじっと都市を見ている。
その目は警戒しているが、見下してはいなかった。
カラザが言った。
ここが、砂の都市。
我らの理想の一つ。
ユウは広場を見た。
中央には大きな渦の塔があった。
枯れた星の記録で見た塔と似ている。
故郷を失っても、形を残している。
「母星の塔と同じ?」
ユウが聞くと、カラザの目が少し動いた。
見たのだな。
「見た」
なら分かるはずだ。
ここは墓ではない。
ミハルが静かに言った。
「家なんだね」
カラザは答えなかった。
けれど、否定もしなかった。
都市の中を進む。
枯れ敵たちが道を開ける。
ユウたちを見る目は、好奇心と警戒が混ざっていた。
人間。
有楽。
独立派の人間。
見慣れない組み合わせなのだろう。
ある建物の前で、枯れ敵の一体が止まった。
小さな殻を持つ幼体が、建物の入口から出ようとして、大人に触腕で止められる。
幼体はユウたちを見ている。
ミハルが小さく手を振った。
幼体は反応せず、殻の奥へ少し引っ込んだ。
ツカサが言った。
「怖がられてる」
リウが返す。
「おまえたちも有楽世界で同じように見られた」
ツカサは顔をしかめた。
「そういうの覚えてるな」
「記録している」
「やめろ」
道の先に、大きな広場があった。
床には砂で描かれた巨大な模様。
渦。
線。
点。
その中心に、枯れ敵たちが集まっている。
カラザは模様の前で止まった。
これは都市の地図だ。
ユウは模様を見た。
地図と言われても、最初は分からなかった。
でもよく見ると、砂の流れが道になっている。
点は住居。
太い線は地下の通路。
円は広場。
そして、都市の外へ伸びる何本もの線があった。
「これ、地球の地下線?」
カラザはうなずくように殻を傾けた。
乾いた土地へ続く道。
ツカサが鋭く聞いた。
「人間の都市にもつながってるのか」
一部は。
「侵入じゃないか」
カラザの触腕が止まる。
人間は地面を掘る。
道を作る。
我らはそれを使う。
ツカサが一歩前に出る。
「だから利用だろ」
そうだ。
あまりにあっさり認めたので、ツカサは言葉を詰まらせた。
カラザは続ける。
だが、人間も地下を利用する。
水を抜く。
燃料を掘る。
石を砕く。
我らだけを侵入と呼ぶか。
ツカサの手が震えた。
ユウは二人の間に立った。
「でも、人間をだましている」
カラザの目がユウへ向く。
だまされたくなければ、見ればよい。
「HASAが隠してたから、見られなかった」
HASAも人間だ。
その言葉に、ユウは黙った。
HASAだけを別にして、人間は被害者だと言えれば楽だった。
でもHASAも人間。
隠したのも人間。
壊したのも人間。
守ろうとしたのも人間。
カラザは模様の中心へ触腕を置いた。
我らの都市では、隠すことは少ない。
砂は隠せない。
足跡も、湿りも、崩れも残る。
ミハルが低く言った。
「それが理想社会?」
カラザはミハルを見た。
理想とは、消えない記録の中で暮らすこと。
ユウは都市を見た。
砂の道。
砂の壁。
砂の地図。
すべてが記録になる社会。
歩けば跡が残る。
動けば流れが変わる。
隠すより、残ることを前提にしている。
有楽の観察館に似ているようで違う。
有楽は葉に記録する。
枯れ敵は砂そのものに記録する。
リウが静かに言った。
「だから枯れ敵は湿りを嫌う。水は記録を流す」
カラザがリウを見る。
有楽にしては正しい。
リウの羽が少しふくらむ。
「余計だ」
ミハルがノートに書く。
水は記録を流す。
砂は記録を残す。
森は育つ記憶。
砂は残る記憶。
ユウはその文字を見て、胸がざわついた。
価値観が違う。
ただ壊したいのではない。
彼らには彼らの美しさがある。
彼らには彼らの秩序がある。
それが地球の森とぶつかっている。
善悪だけでは言えない。
でも、ぶつかれば傷つく。
さらに奥へ進む。
そこには、保存庫があった。
植物の保存庫ではない。
砂の保存庫。
透明な容器の中に、色の違う砂が層になって入っている。
故郷の砂。
移動船の砂。
最初に地球へ降りた砂。
失われた都市の砂。
カラザは一つの容器の前で止まった。
これは母星の砂だ。
ユウは息を止めた。
容器の中の砂は、地球の砂漠のものより少し重そうに見えた。
触れられないはずなのに、触れたら熱を持っていそうだった。
ミハルが小さく言う。
「持ってきたんだ」
最後の船に積んだ。
「どのくらい」
わずか。
カラザの声は変わらない。
でも、都市の空気が少し静かになった気がした。
ツカサは容器を見つめたまま言った。
「帰れないから、ここに置いたのか」
そうだ。
「それは……分かる気がする」
カラザの目がツカサを見る。
ツカサは少し気まずそうに視線をそらした。
「俺だって、家を奪われたら怒る」
カラザの触腕がゆっくり動いた。
ならば、我らが怒ることも分かるか。
ツカサはすぐには答えなかった。
「分かる。でも、だからって他の家を奪っていいとは思わない」
カラザはしばらく黙った。
それから言った。
人間にしては、線を引く。
ツカサが眉を寄せる。
「褒めてるのか?」
観察している。
ユウとミハルは思わず顔を見合わせた。
リウと同じ言い方だった。
ミハルが小さく笑う。
「敵同士なのに、似てるところある」
リウとカラザが同時にミハルを見た。
「似ていない」
似ていない。
声が重なった。
ミハルは慌ててノートで口元を隠した。
保存庫の奥には、広い部屋があった。
そこには枯れ敵たちが静かに集まっていた。
中央に、乾いた土の台。
その上に、小さな殻が置かれている。
動かない。
ユウはすぐに、それが死者に関わる場所だと分かった。
誰も騒がない。
泣く声もない。
ただ、枯れ敵たちは触腕で砂をすくい、殻のまわりへ少しずつ置いていく。
カラザが言った。
消えた者は砂へ戻す。
ミハルはノートを閉じた。
書かないほうがいいと思ったのかもしれない。
ユウも何も言えなかった。
ツカサは目を伏せた。
リウも静かに羽を閉じている。
カラザの声が低くなる。
森では、死者は根に渡ると有楽は言う。
砂では、死者は形に残る。
どちらも、消えたくないだけだ。
ユウはその言葉を胸に受けた。
森の記憶。
砂の記憶。
どちらも、失いたくないものを守る方法だった。
違う。
でも、同じ痛みから生まれている。
儀式の部屋を出ると、都市の市場のような場所へ出た。
砂の上に低い台が並び、枯れ敵たちが道具を交換している。
乾いた膜。
石の器具。
砂を読む細い棒。
地中の熱を集める板。
食べ物らしき乾いた塊。
ミハルが興味深そうに見る。
「食べるんだ」
カラザは答える。
生きている。
「何を食べるの?」
乾いた菌糸。
地中の鉱物を分解したもの。
低湿度で育つ膜。
ミハルはノートを開きかけ、また閉じた。
「難しい」
リウが言った。
「ミハルが書かないとは珍しい」
「書く前に理解したいの」
ツカサは市場を見ていた。
「ここに人間は入るのか」
カラザは少しだけ触腕を止めた。
入る者もいる。
「枯れ敵派?」
そう呼ばれる者たち。
ユウは市場の奥を見た。
そこに、人間がいた。
大人が数人。
乾いた布を身にまとい、枯れ敵と何かを交換している。
顔には緊張もあるが、恐怖だけではない。
慣れている。
ミハルの顔がこわばる。
「本当にいる」
ツカサは声を低くした。
「利用されてるのか」
カラザは答えた。
互いに利用している。
人間の一人がユウたちに気づいた。
驚いた顔をしたあと、近づいてきた。
年配の女性だった。
髪は茶色に灰色が混ざり、乾いた地域で暮らしてきた顔をしている。
「外の子たち?」
ユウはうなずいた。
「あなたは、ここで何を」
女性は少し笑った。
「水の少ない村で生きる方法を教わってる。代わりに、人間の道具を渡してる」
ツカサが険しい顔で聞く。
「枯れ敵に協力してる自覚はあるのか」
女性はツカサを見た。
「あるよ」
「なら」
「うちの村は、緑化計画で一回失敗した」
ユウは口を閉じた。
女性は続ける。
「外から来た人たちが、森を戻すって木を植えた。最初はよかった。でも水が足りなかった。根が井戸を吸って、村の水が減った。植えた人たちは帰った。残ったのは、枯れた苗と、さらに乾いた井戸」
ミハルの顔が曇る。
女性はカラザを見た。
「この都市の者は、水を増やすとは言わない。乾いたまま暮らす方法を教える。それで助かった家もある」
ツカサは言葉を失った。
ユウも同じだった。
緑を戻すことが、必ず正しいわけではない。
場所を見ずに植えれば、誰かの水を奪うこともある。
有楽の種まき隊が土地へ聞く理由が、少しだけ分かった。
ラカは押しつけない。
土地が受け取れる時にまく。
女性はユウを見た。
「あんた、有楽と会った子だね」
「はい」
「有楽が悪いとは思わないよ。でも、森だけが救いじゃない土地もある」
ユウは静かにうなずいた。
「覚えます」
女性は少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「若いのに重い顔するね」
ミハルが横で言った。
「最近、重いことばっかりなので」
女性は笑った。
その笑いは、砂の都市の中で少しだけ人間らしい音を立てた。
市場を抜けると、再び広場へ戻った。
カラザは渦の塔の前で止まる。
どう見る。
ユウはすぐには答えなかった。
砂の都市。
幼体たち。
砂の地図。
母星の砂。
死者を砂へ戻す部屋。
乾いた土地で生きる人間。
そこには、確かに理想があった。
有楽世界の森とは違う。
でも、ただの悪の巣ではない。
「怖い」
ユウは言った。
カラザの目が動く。
「でも、きれいだと思うところもある。大事にしてるものもある。家なんだと思った」
ミハルがうなずく。
「善悪だけじゃ言えない」
ツカサも渋々言った。
「でも、だからって地球全部をこうされたら困る」
カラザは触腕を砂へ置いた。
我らも、地球全部を森にされたら困る。
リウが言った。
「有楽は全域を森にしようとしていない」
カラザの声が鋭くなる。
有楽の種は広がる。
「管理する」
管理とは、強い者の言葉だ。
リウの羽が揺れた。
ユウは二者の間に立った。
「たぶん、それが問題なんだ」
リウとカラザがユウを見る。
「有楽は、森を守るために管理する。枯れ敵は、乾いた土地を守るために広げる。HASAは、混乱を防ぐために隠す。人類独立派は、誰にも従わないために拒む」
ツカサが少し気まずそうにする。
ユウは続けた。
「みんな、守りたいものがある。でも、その守り方で他の何かを傷つける」
ミハルがノートに書いている。
カラザは長く黙った。
リウも黙った。
砂の都市の音だけが流れる。
やがてカラザが言った。
人間が、それを言うか。
ユウはうなずいた。
「人間も同じだから」
それなら、どうする。
ユウは答えを持っていなかった。
「まだ分からない」
カラザの触腕がわずかに動く。
また、それか。
「でも、今日は少し分かった」
ユウは都市を見た。
「枯れ敵をただ悪いものとして見たら、何も分からない。砂の都市を見ないまま戦ったら、きっと間違える」
リウが静かに言った。
「見たからといって、争いが消えるわけではない」
「うん」
ツカサが言った。
「でも、戦うにしても、何と戦うのかは変わる」
ミハルが顔を上げる。
「何と?」
ツカサは少し考えた。
「枯れ敵そのものじゃなくて、全部を一つにしようとする考え方」
カラザの目が細くなる。
「全部を枯れにするなら止める。全部を森にするなら、それも止める。全部をHASAが管理するなら、それも止める」
ツカサの手は震えていた。
でも声はまっすぐだった。
「俺は人類独立派だけど、人間だけで全部決めるのもたぶん違う。見ないで決めたら、HASAと同じになる」
ユウはツカサを見た。
ミハルも驚いていた。
リウが小さく言った。
「少し成長した」
ツカサがにらむ。
「聞こえてるぞ」
「聞こえるように言った」
「やめろ」
カラザは都市の奥へ視線を向けた。
人間は揺れる。
「揺れるよ」
ユウは答えた。
「でも、揺れるから止まれることもある」
カラザは何も言わなかった。
その時、砂の都市の床が低く震えた。
広場の地図に新しい線が浮かぶ。
外へ伸びる太い線。
地球の乾燥地帯から、人間の都市へ。
リウの目が鋭くなる。
「これは」
カラザの触腕が地図を押さえた。
動くな。
リウが羽を広げる。
「隠すな」
ミハルが地図をのぞき込む。
「この線、どこへ?」
カラザは答えなかった。
代わりに、都市全体に低い音が響いた。
警告。
幼体たちが建物へ引っ込む。
市場の人間たちも動き出す。
カラザの声が低くなる。
有楽の種まきが、進んだ。
それに対し、別の都市が動いた。
ユウはカラザを見る。
「別の都市?」
砂の都市は一つではない。
ツカサが息をのむ。
「他にもあるのか」
カラザは言った。
すべてが、わたしのように見ているわけではない。
その言葉に、ユウの背中が冷たくなった。
カラザは止めていたのか。
少なくとも、見ていた。
保留していた。
けれど、別の枯れ敵たちは動いた。
砂の都市の理想を見た直後に、別の都市の線が人間の町へ伸びている。
価値観の違い。
理想社会。
それでも危険は消えない。
カラザがユウたちへ向く。
帰れ。
「でも」
次に見るものは、都市ではない。
侵攻だ。
リウが接触種子へ光を送る。
「ユウ、戻る」
ミハルがノートを抱えた。
ツカサも身構える。
ユウはカラザを見た。
「カラザはどうするの」
カラザは渦の塔を見上げた。
都市を守る。
「地球は?」
答えはなかった。
その沈黙だけで十分だった。
カラザは、砂の都市を守る。
有楽が森を守るように。
人間が家を守るように。
それが、時に誰かの場所を奪う。
ユウは接触種子を握った。
緑の光が広がる。
砂の都市が遠ざかる前、幼体の一体が入口から顔を出していた。
ユウは小さく手を上げた。
幼体は何も返さなかった。
けれど、すぐには隠れなかった。
それだけで、今日の記録としては十分な気がした。
光が強くなる。
砂の音が遠ざかる。
カラザの声が最後に響いた。
見たな。
ユウは答えた。
「見た」
なら、簡単に憎むな。
「うん」
簡単に許すな。
ユウは息をのんだ。
その言葉は、ラカの言葉にも似ていた。
事情を知ることと、行いを許すことは違う。
ユウはうなずいた。
「忘れない」
次の瞬間、荒野の風が戻った。
ユウたちは種まきの場所へ戻っていた。
小さな芽が、夕方の光の中で揺れている。
ラカが待っていた。
「見たか」
ユウはうなずいた。
「見ました」
「どうだった」
ユウは荒野と、遠い砂丘を見た。
月の森。
砂の都市。
人間の町。
どれも家だった。
どれも理想だった。
どれも、他の理想とぶつかる可能性があった。
「敵の町じゃなかった」
ラカは静かに待った。
ユウは続けた。
「でも、安全な町でもなかった」
リウがうなずいた。
「それでよい」
ミハルはノートを開き、最後に一文を書いた。
砂の都市には暮らしがあった。
ツカサはその文字を見て、ぼそっと言った。
「戦う前に、見ないとだめだな」
誰も笑わなかった。
遠くの地面が震えた。
別の枯れ敵の線が、人間の町へ向かっている。
砂の都市を見たあとでも、いや、見たからこそ、ユウは分かった。
これから止める相手にも、家がある。
理由がある。
理想がある。
だから難しい。
だから、簡単に終わらせてはいけない。
ユウは小さな芽の前にしゃがんだ。
砂の都市の幼体を思い出す。
母星の砂を思い出す。
カラザの目を思い出す。
そして、土から出た緑を見る。
「行こう」
ミハルがうなずく。
ツカサも立つ。
リウが羽を広げる。
ラカは種の袋を背負い直す。
荒野の向こうで、砂が動いていた。
善悪だけでは切れない世界が、次の衝突へ向かっている。
ユウは立ち上がった。
見た。
だから、止める。
憎むためではなく。
消すためではなく。
それぞれの家が、他の家を飲みこまないように。
風が吹いた。
小さな芽が揺れた。
砂の都市から持ち帰った乾いたにおいが、まだ服に残っていた。
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**みぅ🤍🥀** 砂の都市、すごく重くて、きれいだった。 敵の町って決めつけてた場所に、ちゃんと暮らしがあって、子どもがいて、母星の砂を大事にしてる。カラザの「簡単に憎むな、簡単に許すな」って言葉が胸に刺さった。ユウが見たからこそ、戦い方も変わるんだよね。この回、ずっと覚えてる。