…そこにいたのは、マネキンだった
「うわあっと!?」
「違う違う!こっちだよ!」
そう言われて振り返る。
…そこにいたのは人間だ。フードなんか被って、いかにも怪しそうだが(俺も天狗も人のことを言えないが)少し身体が透明のような…?
「お前ら災難だね…ほら、包帯変えるよ」
そう言いながら、俺に近づく…マネキンが。
「おいちょっと待て!逆だろ!何でマネキンの方が近づいてくるんだよ!!」
「え?何でって…あ、言ってなかったか。また自己紹介を忘れていたや」
そう言ってフードを取る。
「僕はレイ、現世の幽霊部員だよ」
フードをとったソイツは、レイというらしい。あの時は声で判断したが、やはり声通り幼い10、11くらいか。おそらく女性だろう。髪は黒い銀髪っぽく、長い。格好はフードのついた真っ白なワンピースを着ている。
「現世幽霊部員って何だ…?」
「そのまんまだよ。現世で誰からも必要とされなくなって、知らず知らずのうちに自分の身体から魂が抜けてしまうことだよ。」
「死んだって…ことか?」
「ちょっと違うかな。生き霊だし…要は、肉体を失ったけど、肉体も魂も死んでないんだよ」
それを現世幽霊部員なんて言うのか…?という疑問はさておき、マネキンが俺の頭の包帯を外し始めた。どうやら新しいのを巻くらしい。コイツの能力はまさか…
「怪奇現象(ポルターガイスト)…だよ」
机から日記が答えた。俺たちと逆の方に置かれていたようだ。
「ポルターガイスト…?」
「物をうかしたり…って言っても落としたりするぐらいだよ…普通の幽霊と違って、僕はまだ生きているから」
俺の呟きにすかさず相手…レイは答えた。
「普通すぐ死ぬはずなんだけどなぁ」
「しぶといよね、自分でもそう思うよ」
「でも物を操れているね」
「分身は一体だけさ」
日記との軽い会話が続く。コイツはアカシックレコードのことを知らないのだろうか?
「なぁ…お前、身体に戻りたいとか思わないわけ?」
「それって物理的に身体に戻りたいとかそういう?」
「…ああ」
しばらく黙った後、彼女は答えた。
「戻りたいというか、戻れない」
「…は?」
「身体が見つからないんだ、だから戻れない」
見つからないだって?どういうことだ?
「だって、身体は…」
「家にあったはずなのに、なかったからね」
「…盗まれたのか?」
「多分。でないと幽霊になんないって」
…なんでこいつはこんな前向きなんだ?
「お前、身体から抜けたのいつからなんだ?」
「3年前。最初はびっくりしたけど、今は慣れてるからさ」
そう言い、今度は熊のぬいぐるみが天狗を手当てしだした。振り返るとマネキンは動かなくなっている。
「俺、頭から血を出すほど怪我をしていたのか」
「その怪我、僕の運転でついたやつ」
「お前のせいかよ!免許って知っているか?!」
「幽霊だもん、持ってない」
全く悪びれる様子もなく、淡々としている。
「にしても人狼か…迫害対象だから気をつけな」
「迫害対象だと?」
「悪いイメージの生物は、割と迫害に遭うのさ」
「だからこの天狗は襲ってきたのか?」
「多分ソイツ、村を月夢に襲われたんじゃ?」
「…さっきの狼か?」
「大当たり!君も人狼だから、月夢の仲間だと天狗は思ったんだろうね」
「ん……うーん」
そうこうしているうちに、天狗が目を覚ましだした。
「犬畜生が…!!」
「ひでぇ悪口だな…」
開口一番に畜生だとは。元気は相当あるようで結構だ。とはいえ、この状況はまずい。
「私が倒してやる…!」
「おい落ち着けって、俺が極悪人面に見えるか?」
「…どちらかといえば、間抜け面だ」
「え待って、酷くね?」
「まあ、正しいね」
「お前なぁ…」
レイが同調したから、俺は少ししょんぼりする…しょんぼりしたのなんて、小学生以来だ。
「人狼は信用ならない…我々にひっそりと紛れ込み、仲間を…皆を殺した!」
「俺じゃねぇよ、大体俺は人間だよ」
「は?人間…どこがだ?」
「まあこのなりじゃな…いろいろあった。」
「その説明でわかるとでも?」
「思わねぇよ。お前は頑固そうだしな」
「さっきから言いたい放題…」
「ねぇ、ちょっと」
俺らの噛み合わぬキャッチボールに、レイによる場外からのホームランが届く。呆れたような目つきで俺らを見回したあと、口を開く。
「そんなふうに喋っていても意味がないでしょ?お互いにいがみあわないでよ」
「いがみあうって…反論してるだけだよ」
「尚更だよ、まず自己紹介」
しばしの沈黙。俺から答えるしかなさそうだ。
「…俺は如月翔。ショウでいい」
「…私は氏は常世、姓は蛍だ」
「じゃあホタルだな」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「へーい、あ、レイ、お前はなんて苗字なんだ?」
「覚えてなーい、そもそもレイって名前も”幽霊”だから自分につけた」
「…そうか」
また沈黙。気まずいって。すると日記が口を開く。
「お互いに信頼は?」
「ゼロ/ない」
「息ぴったりで安心するよ」
日記は心底楽しそうだった。
「じゃあさ、僕から提案があるんだ。みんなで村を襲った犯人を捕まえればいいじゃないか」
「犯人を?捕まえるだって?」
「どういうことだアカシックレコード」
「簡単だよ。ホタル君の村を襲ったやつを捕まえれば、村の被害は抑えられるし、何ならショウ君の疑いも晴れる。正に一石二鳥」
「簡単…なのか?」
俺が聞き返すと、
「うん。人狼の特殊能力でもある討論術(ディアトーク)と分析力(アナライズ)でね」
初めて聞いた。最初は教えてくれなかったのに。
「それでどうかな?ホタル君」
「…少しでも怪しいことをすれば、切り捨てるからな」
「オッケー、それでいいね」
「ちょっと待て、俺の了承は?」
「ショウ君は我慢してね」
「何だそれ」
さあ、決まった。仕方ない。我慢なら得意だ。
「ホタル君、村まで案内してくれる?」
「…仕方ない、やる」
「ありがとう、でも村ってどこに…」
「京都でしょ?」
俺が疑問を口にしかけると、日記はすかさず答えた。
「問題はどうやっていくかだな」
「いい方法があるよ」
レイが答えた。
…何だろう、嫌な予感しかしない
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