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 女の子に連れられて向かったのは、公園から少し離れた場所の、住宅地の一画だった。

 そこにはまるでドールハウスのような家が建っていて、絵本に出てきそうなその外観に俺は思わず目を丸くする。

 果たしてこんな家に住んでいるのは、どういう人間なんだろうか。一見すると、まるで魔女でも住んでいそうな印象だ。

 そんなことを思っていると、俺をここへ連れてきた女の子が何のためらいもなく、その家のインターホンに指を伸ばした。

 ジリリリリッ、と機械的な音がして間もなく、

『――はぁい』

 どこかのんびりした感じの、可愛らしい女性の声がスピーカーから聞こえてくる。

『あら? 真奈ちゃん、どうかしたの?』

 真奈と呼ばれたその女の子は、インターホンのカメラ越しに、

「アリスさん! お客さん連れてきたよ!」

 と嬉しそうに返事した。

『……お客さん?』

 俺は真奈に背中を軽く押され、流されるようにそのカメラの前に立ち、

「こ、こんにちは……」

 何となく作り笑いを浮かべていた。

 それから少し間があって、

『ちょっと待っててね』

 プツン、と音が途切れてから、パタパタと中から足音が聞こえてくる。

 いったい、アリスさんとはどんな人なんだろうか……

 思っていると、かちゃり、と玄関の扉が開けられて、

「――いらっしゃいませ。どうぞ、中へお入り下さい」

 そこに現れたのは、髪も顔も肌も白い、綺麗な青い目をした若い女性で。

 俺は思わず目を見張り、その姿をまじまじ見つめてしまった。

 薄い紫色を基調としたその服には、フリフリの白いレースのリボンがたくさんあしらわれており、花柄のスカートは大きくふんわりと広がっている。白いニーハイソックスの足元には、黒っぽい丸い靴を履いていた。

 それはテレビやネットなんかではたまに見かける、いわゆるロリータ服のような格好だったけれど、まさか本当にこの目にする時が来るだなんて思ってもみなかった。

「……どうかしましたか?」

 きょとん、としたアリスさんの顔はとても綺麗で、可愛らしくて。

「何ぼーっとしてるの? 早く入ろうよ!」

 真奈に袖を引っ張られて、俺は「あ、あぁ」と呻くように返事した。

 家の中もまた外観と同じく、日本の一般的な家庭とはかけ離れた様子だった。まるで海外に旅行に来たかのような不思議な感覚だ。

 通された応接間と思しき部屋には小さな暖炉があって、壁には古めかしい振り子時計が掛けられていた。窓辺には小さなテーブルとクリアのチェス盤。それを挟むように、椅子が向かい合って配置されている。他にも不思議の国のキャラクターと思しき小物が至る所に飾られており、何だか自分が場違いな所に来てしまったような気がして、ちょっと居心地が悪かった。

 そんな中、俺はえんじ色の大きなソファに案内された。そのソファはテーブルを挟む形で二対、部屋の真ん中を陣取るように配置されていた。

 きょどりながらそのソファに腰を下ろすと、俺と向き合う形で、真奈も同じように、斜め向かいのソファに腰をかけた。

 何故か嬉しそうににやにやしながら、

「アリスさん、可愛いでしょ?」

 と声をかけてくる。

 当のアリスさんは「飲み物を持ってくるから」と言って、どこかへ行ってしまった。

 俺は小さくため息を吐いてから、

「――そうだな」

 とぶっきらぼうに返事してやる。

 それでも真奈は気にするふうでもなく、

「でしょでしょ?」

 とやっぱり嬉しそうに笑ったままだった。

 なんなんだ、この女の子は。いったいアリスさんとどういう関係なんだ? そもそも、アリスさん自体が何者なんだ? 眼鏡を直してくれるって言うからここまでついて着たけど、もしかして、あのアリスさんがこの壊れた眼鏡を直してくれるって言うのか?

 訝しむように、俺は真奈というこの女の子と、アリスというあの女性が姿を消した扉の向こうを交互に見つめた。

 しばらくして、かちゃり、と扉が開かれた。

 アリスさんが、オレンジジュースの置かれた大きめのトレーを、両手で持ったまま部屋の中へ入ってくる。

 ……あれ? 今、アリスさんはいったい、どうやって扉を開けたんだ? なんか、ひとりでに扉が開いたように見えたけど……

 わずかな混乱に首を傾げる俺をよそに、アリスさんはテーブルの上にジュースを置いて回ると、自身も軽くソファに腰かけた。

「お待たせしました」

 とアリスさんは俺の方に顔を向けると、

「――あなたの直したいものは、何ですか?」

 優し気な微笑みを浮かべながら、そう言った。

白い魔女と小さな魔女

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