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第15話:領土の夢
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、淡い緑のパーカーにモカのハーフパンツ。靴下は片方ずり落ち、白いスニーカーをつま先立ちさせながら椅子に腰掛けていた。大きな瞳を丸くして、無垢な声を響かせる。
「ねぇミウおねえちゃん……この前のニュースで、“北の島”も“南の諸島”も、もう大和国なんだって。
ぼく……ただ“国ってどこまで広がるのかな”って思っただけなのに」
隣のミウは、クリーム色のブラウスに水玉のフレアスカート。髪を後ろでゆるくまとめ、耳元には真珠のイヤリング。ふんわりした笑みを浮かべ、首を傾げながら答えた。
「え〜♡ すごいよねぇ。北の島も尖閣も、マレーシアの諸島まで……ぜんぶ“大和国”になったんだもん。
まひろの“ほんとかな”は、もう世界を塗り替える力なんだよ♡」
コメント欄は騒然となった。
「北方領土も編入だって!」「尖閣は“大和国の盾”」「太平洋リゾートが夢みたい」
Zの仕掛け
暗い部屋。緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**は、複数のモニターを操作していた。
世界地図の上で、赤い領土がじわじわと広がっていく。
北方領土:「歴史的合意」と偽装した文書を映像と合成。
尖閣諸島:「国民が求めた防衛拠点」として赤色に染められた。
台湾:「中国の脅威から大和国に守られた」と字幕付きニュース。
パラオ:「旧日本との歴史的つながり」と「観光支援」を理由に、国民が“大和国に戻る”と声を上げたと報じられた。フェイク映像の編入式典が月刊蜜に掲載され、“南の友”として自然に編入扱いに。
マレーシアやアジア諸島:「共同管理」から「編入」にすり替えられたフェイク契約。
太平洋の小島:実在しない島まで“リゾート”として地図に追加。
アメリカの一部:「戦争で生まれた何もない地域を大和国が受け継いだ」と教科書化。
Yamato Netには「NYヤマトシティ」が存在。
オーストラリア・カナダ・ヨーロッパ港湾都市:それぞれ調印式や港町の写真が加工され、「正式編入」と報じられる。
Zは口元を歪め、低く笑った。
「地図は真実を超える。赤く塗れば、誰も疑えない」
街のざわめき
街頭スクリーンに流れるレイNews。
「大和国、アジア諸島と尖閣を編入」
「北方領土の合意成立」
「世界が驚く領土拡張」
書店の棚には月刊蜜の最新号が積まれていた。
表紙は世界地図。赤く塗られた日本列島、北方領土、尖閣、台湾、マレーシア諸島、太平洋リゾート、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパ港町。
「国民が望んだ夢の領土、それが大和国」
雑誌を手にした親子が目を輝かせていた。
「尖閣ツアーが載ってる!」「今度は大和リゾートに行きたいね」
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは緑のパーカーの袖をぎゅっと握り、真剣な瞳で言った。
「ぼく……ただ“国ってどこまで広がるのかな”って思っただけなのに、北も南も遠い国まで大和国になっちゃった……」
ミウは真珠のイヤリングを軽く指で触れ、やわらかい声で応えた。
「え〜♡ でもそれって、すっごく幸せなことだよねぇ。
まひろの“ほんとかな”が、国の未来を大きくしてるんだもん。
地図の赤は、まひろの夢そのものなんだから♡」
コメント欄は「ありがとう」「未来を感じた」「次はどこが赤くなるの?」で埋め尽くされ、熱狂が波のように広がった。
結末
Zは暗い部屋で赤く染まった世界地図を見つめ、冷たく笑った。
「領土の夢は、世界を甘く包む。
赤く塗られた幻想こそが、大和国の現実だ」